18神猫 ミーちゃん、ミー様と呼ばれる。

 翌日は仕事が休みなので、朝六時に起きて朝食をとっている。ミーちゃんも朝から元気一杯に猫缶をハムハム食べてる。ミーちゃん、美味しい?



「み~」



 そんなミーちゃんくぉ見ながら朝食を食べ、保存食について考えてみる。


 得てして、保存食とは美味しいものではないと思う。日本のように食と言う文化が発達した世界ならいざ知らず。この世界では期待できないだろう。それなら、ミーちゃんバッグを活用して温かい食事を保存できないかなと考えた。


 女将さんに熱湯をコップに貰い、ミーちゃんバッグに収納してもらう。お昼ぐらいに取り出して確認してみて異常がなければ、保存食を用意してミーちゃんバッグに収納してもらおう。出来立て料理の方が良いに決まってる。


 昨日、武器屋の店主さんから紹介された、職人さんの所に向かった。


 職人街は街の西側にある。行った事はないけど職人ギルドもその近くにあるらしい。教えられた場所に行くとお店ではなく、工房のようだ。



「すいませ~ん。誰かいますか~」


「み~」


「誰かのう。こんな所に客とは珍しいのう」



 髪の真っ白な優しそうなおじいさんが奥から出てきた。職人さんと聞いていたのでもっと厳つい人が出て来るかと思っていた。



「皮鎧の修繕とサイズ合わせをお願いしたくて来ました」


「ふむ。どれ、見せてみなされ」



 皮鎧をおじいさんに渡した。



「ほう。飛龍の皮だのう。とても質の高い皮のようじゃな。内は駄目じゃな、しかし良い品だのう。儂でもここまでの物は作る腕はないのう」



 おじいさん、べた褒めだね。結構良い品のようだ。



「して、どう修繕するかのう?」


「どうとは?」


「このままの状態で直すか、更に手を加えるかだのう」


「手を加えるとどうなりますか」


「そうじゃのう。儂ならこの皮と内張りの間に薄く固い皮か金属を入れるかのう。今の状態でも矢などは刺さる事は無いがの、剣や槍の攻撃となるとやや心許ないからのう」


「そうなると重くなるんですよね?」


「そうじゃのう。坊ちゃんは体力無さげじゃから、そのままの方が良いかもしれんのう」



 ぼ、坊ちゃんですか……。このおじいさんから見れば、俺なんか坊ちゃんなんだろうね。



「このままでの修繕でお願いします」


「み~」



 それから、サイズ合わせをした。少し大きめだが、筋肉が付けば丁度良くなるとおじいさんは言っている。その間はベルトで調整出来るようにしてくれるそうだ。


 修繕には十日程掛かるそうなので丁度良い。前金で半分の五万レト払う事になった。結構する。でも、おじいさんが言うには、修繕が終わればこの皮鎧なら五十万レト以上で売れるそうだ。それだけ良い品って事だね。命を守る先行投資だと思えば安いものだよ。


 おじいさんに仕事で隣街に行くので、帰って来てから取りに来る事を約束して工房を後にした。


 工房を出てウイラー道具店に向かう事にする。バザーで手に入れた指輪を買い取ってもらえないか見てもらう為だ。シュバルツさんなら適正価格で買い取ってくれると期待している。間違っても買い叩こうとは思わないだろう。



「これはミー様にネロさん。良くおいでくださいました」


「み~」



 何故、ミーちゃんが様で俺がさんなのだろう? 聞いてみたいけど、心が折れそうなのでやめておくよ……。苦笑いのまま挨拶を返したよ。



「本日はどのような品をお求めで?」


「先ずは、これを買い取って頂けませんか?」



 シュバルツさんに指輪を渡すとルーペのような物を取り出して、念入りに調べ始める。しばらくして



「これは良い品ですね。年代はわかりませんが、かなり古い品のようです。一度王都でこれと同じようなデザインの骨董品を見ましたが、それより質が良いようですね。これをどこで?」



 このシュバルツさんは、なんか騙せそうに思えない。心の奥を見透かされているような感覚を感じさせるんだよね。



「昨日、バザーで売っているのを見つけたので買いました」


「ネロさんは目利きの上、大変良い運の持ち主のようですな」


「いえ、目利きではありません。鑑定持ちなんです。物の良し悪しはわかりませんが、価値があるか無いかぐらいの事なら見えます」


「そんな秘密を話されていよろしいのですかな?」


「なんででしょうね。シュバルツさんに嘘は通じないような気がしたので」


「成程、ネロさんは私を鑑定なされましたか?」


「いえ、してません」


「試しに鑑定してご覧なさい」



 シュバルツ・ウイラー 男性 元男爵位 真偽眼 商才 剣術 馬術 礼法


 なんか凄いものをみてしまった気がする。



「見えましたかな?」


「はい。色々と……」


「真偽眼と言いますが、これは持って生まれた能力なのです。世間では異能力と呼ばれていますな」



 異能力は身体の一部に持って生まれた能力の事らしい。なのでシュバルツさんの場合、目を失うとその能力も失う。世間一般では神様からのギフトとも呼ばれているとの事。身につく事のできる能力(スキル)と違い特殊なものが多く使い方に困るものもあり、中には悪魔からのギフトと呼ばれるものもあると教えてもらった。



「私の真偽眼はその人が本当の事を言っているかがわかる能力です。逆にこの能力のせいで若い頃は苦労しました。それにしても、ネロさんは鑑定しないでも何かを感じたと言う事は、直感か幸運持ちですかな?」


「いえ、持ってません。運気上昇ぐらいかな」


「ふむ。となるとまだ、鍛え足りないと言う事ですな。心身共に鍛えていけば、自ずと現れましょう」



 そうか、この世界の人は魂の器の事を知らないんだね。でもシュバルツさんが言うには直感か幸運スキルの片鱗が出ていると言っている。このまま鍛えていけば出るのかもしれない。



「この指輪はその手のコレクターに見せれば、喉から手が出る程欲しがりましょう。そこで提案なのですが、この指輪を今五十万レトでお売り頂くか、私がこれをコレクターにお売りしますので取引した額を、六対四で割るか如何致しますかな。もちろんネロさんが六です」


「うーん。と言う事はシュバルツさんはこの指輪を二百万レト以上で売る自信があるという事ですね」



 シュバルツさんは驚いた顔をここに来て始めて見せた。



「失礼ですが、二百万と言う数字はどのようにして導き出したのでしょうか」


「買い取りは、売値の七掛けぐらいかなと思いまして、そこから計算してみました」


「素晴らしい! それを今頭の中で計算したと言う事ですな。ネロさんは商才も発現しそうです。しかし、七掛けは真っ当な商人位のものです。よろしい、良いものを見せて頂いたお礼に本音をお教え致しましょう。この手のコレクターに心辺りがございます。その方に見せれば三百万レトはかたいでしょう」


「成程……わかりました。今、五十万レトでお売りします」


「ほう。それは何故ですかな」


「お金よりも、シュバルツさんとのより良い関係を持ちたいからです」


「み~」


「より良い関係ですかな?」


「はい。俺はハンター志望でこの街に来ました。ですがこの街に来てからまだ日が浅く、信頼出来る人も余り居ません。シュバルツさんは人生経験も豊富だし、何かあれば相談にのって頂きたいと思える方です。そんな方との一期一会を大事にしたいと思います。そんな方とお金だけの関係より、自分にとって大きな財産になると思うからです」


「一期一会ですか……なんとなく意味はわかりますな」


「俺の故郷の言葉で一生に一度の出会いを大事にすると言う言葉です」


「良い言葉です。商人の心構えにも通ずるものがございますな」


「み~」



 もちろん、ミーちゃんともだよ。だけど、ミーちゃんとは一蓮托生の方があってるような気がするね。



「み~?」




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