第2話 [Left Hand Link]

「…ん?」


目を開けると見知らぬ天井が見えた。

ここは・・・?


「目が覚めたかね。」


どうにか体を起こす、すると白衣の金髪の中年男性がそこに立っていた。


「あの…俺は…」


「鳴守 澪君だね、私はデアモ・ウーンだ。」


確か戦闘して…

脳裏に圧倒的力を見せつけてきた白いヴォーダンが蘇る。


そうだ…!


「仲間…!基地は、俺のいた基地は…」


デアモの微笑み顔は消え真剣な眼差しでこちらを見てくる。


「君の所属していた基地は…全壊、生存者は…」



「君だけだよ」



「…そう、ですか」


薄々わかってはいた、それでもシーニャを、パトリックを失った実感が湧かない。

考えている内に左手に違和感を覚える。


なんだ?


「…!?」


俺の左手はひじから先が人間のそれではない、機械、義手になっていた。

思わずデアモを見据える。


「そう怖い顔をするな、戦えるように治してやったんだぞ。」


「…」


「君の個人ファイルは見せてもらったよ」


「…じゃあ知ってるんですか、俺があの事件の唯一の生存者という事を」


「あぁ」


あの事件…忘れもしない、いや忘れられない。

何度も夢で見た。


「東京壊滅…火星軍最高司令官レーナ・ゼクツェン単独での都市制圧、いや…虐殺か」


「生き残ったのは君だけ、君の親族もみな死んだ…か」


「それは違いますよ。」


「何?」


「妹がいます。生き別れの。」


俺にはまだ物心ついてない生まれつき右手の無い妹が一人いる、施設に預けて以来行方は知れてないが。

必ず生きていると信じている。


「そうかね…それより本題だ。」


「本題?」


デアモはファイルをキャビネットから取り出し俺の目の前に投げ込む。


開いて中を見ると?



「君は本日付けで第101特務人型遊撃部隊[リヴェリオン]配属となった」


「リヴェリオン…?」


聞いた事はある、確かエリート中のエリートしか入れないと聞いた。


「…君の遭遇した白いヴォーダン、あれに乗っているのはレーナ・ゼクツェンだ」


「なっ!」


「君は地球軍でも最も恐れられる彼女と戦闘し生還した貴重な人材だ。」


デアモは近くのモニターを付ける、そこには改装中のファフニールがあった。

胴体を見てすぐに俺のファフニールストライクだと解った。


「君にはあの悪魔を倒す素質があるかもしれない、この戦争を終わらせる…」


「この戦争を…」


戦争が終われば…ゆっくり妹も探せる…


「レーナ・ゼクツェンを殺せば…」


「そうだ、あの忌々しい魔女を殺すんだ」


俺の家族と仲間を葬った女…許さねぇ…


感情が高ぶっていく、この怒りを訓練にぶち込みたい、その一心で立ち上がる。


「…シュミレーターは君のファフニールに搭載してある」


「…シュミレータールームではないんですか?」


「君の左手、それが機体と直結し、従来を遥かに凌ぐ反応速度を示すのだよ。」


_____________________________



格納庫に着くとあたりは整備士が急ピッチでパーツの付け替えをしている。

俺の愛機ファフニールがより翼竜のようなシルエットでそこに立っていた。

よし、早速乗り込もうと足を進めたが。


「お前が例の新入りか」


振り向くとそこには白髪のチャラい男が立っている。

うるさい奴め、俺は速く新しい愛機を試したいんだ。


「鳴守 澪と言います、これからこの部隊で働かさせて頂きます。」


「俺はアイン・シャイルシュッツ、君の先輩だ。」


アイン・シャイルシュッツはふと俺の機体を見る。


「まさか未だに欠陥機で戦える人間がいるとはな」


「ファフニールは地球軍の主力TLAです、馬鹿にするのはやめて頂きたい」


「そうか、そうか。」


歩いて去ろうとするが俺の耳元で彼は言う。


「君は運が良かっただけだ、戦場で調子に乗らない事だな。」


そう言うと彼は足早に去っていった。

まあいいさ、早速シュミレーターをやろう。




____________________________



同時刻 月面周回軌道上


火星軍旗艦[エーレンベルク]


食堂で白い長髪の少女が不機嫌そうに食事を取っている。


「司令官どのどうされたのです?」


「…地球人に一瞬押されたのよ」


彼女の名はレーナ・ゼクツェン、火星軍最高司令官その人である。

まだ20にもなっていない少女だがその実力は多くの火星の民が認めており地球軍からも恐れられている。


「運が向かなかったんでしょう、機体も旧式ですし…」


「…私のヴォーダンヴァイスは限界までチューンアップされてるのよ!」


「いや…まあ…」


無理やり乾燥食品のパンを口に放り込み水で流し込むと投げつける用にトレーを押し付ける。


「シュミレーターやってくるわ、片づけといて。」


「は、はぁ。」


「相変わらずだな、司令官殿は」


「そりゃそうだろ、お前ら知らないのか?司令官殿の故郷の話。」


「…火星であの事件を知らない奴なんているわけないだろ…」


すると放送が流れる。


「ジャゴの投下作戦を開始する、マルダー隊は直ちに集合せよ。」


「さて、行くか。」


「バーサーカーの投下護衛か、嫌な任務だが地球人に一泡吹かせるな。」




____________________________________




「ふぅ…」


暑苦しいコックピットのハッチを開け半身を出す、どれ程やっていただろうか。

一体多数戦は問題無かったがあの白いヴォーダン相手の戦闘は全くクリア出来なかった。


「クソっ!」


「大丈夫ですか?」


目の前にメカニックであろう少女が立っていた眼鏡をかけていて綺麗な黒髪で後ろで一本に結んでいる。

火星軍の攻撃で多くの人間が死に絶えこんな少女まで駆り出されているのだろうか。


「すごい汗ですよ、どうぞ。」


水の入ったボトルを持っているので受け取ろうと左手を差し出す。


「あぁありがとう…」


「あっ…」


「ん?あぁこの手か」


機械の左手にはコードが複数繋がれていたので少々驚かれた。


「すみません、ちょっとビックリしました。」


水を飲み、頭が落ち着くと改めて思うのが、異性と話すのはどうにも苦手だ。

わざわざ水を渡しに来てくれたのだからちゃんとお礼をしたほうがいいのだろうか…


「左腕部の調子はどうでしたか?」


「・・・何?」


「この子の左手です、わざわざ半壊で処分寸前だったプロトファフニールの腕を取り寄せて作ったんですよ。」


今乗っている機体を指さす。


「そうか、君がコイツを直してくれたのか。」


「はい。」


…そういえば名を聞いてなかったな。


「そういえば名乗って無かったな、鳴守 澪だ、澪でいい。」


「あっはい、私はクロエ・マーガレットと言います。」


クロエ・マーガレットか…ん?マーガレット?

何か思い出せそうでいると彼女は下を向いてしまう。


「…姉が、お世話になってましたね…」


「あ…す、すまない。」


そうかシャルロッテ・マーガレットの妹だったのか…


「俺が…もっと強かったら…」


「・・・」


お互い黙ってしまい沈黙が続く。


それを警報が断ち切る


「付近の上空から多数の降下ポッドを検知、各員出撃準備!」


「何だって、クロエさん、下がってくれハッチを閉め…」


閉めようとしたが彼女は無理やり入ってくる。


「ま、待って下さい、この子まだ最終調整が残ってて…それで来たんでした。」


「そうだったのか…早めに終わらせてくれるか?」


膝の上に座られる、色々とコンソールを弄りまわしてるが正直何をしているのかわからない。


すると奥から見たことがない機体が現れた、全体的にファフニールに似ているがメンテナンスハッチだらけで全体的にファフニールよりもマッシブになっている。


「なんだ…新型か?」


「プロトタイプエイルですよ」


「プロトタイプ?試作機が前線に出るのか。」


「…それだけ地球軍が焦ってる事態なんでしょうね…」


手を止めると彼女はコックピットから乗り出す、どうやら終わったようだ。


「ありがとう!」


そういいハッチを閉める、武装は全てマウント済みなのを確認し先程見えたエイルに続く。


「よう鳴守、アインだ足を引っ張られたら困るからな、俺に着いてこい」


「いわれなくても」


前方のプロトエイルがスラスターを使い跳躍する。


続いて俺も向かう。

腰に増設されたスラスターを走らせる。


「これが、新しいファフニールストライク…行くぞ!」


急激な加速に押しつぶされそうになると。

目の前に青い空が広がった。




______________________________


登場人物解説


・鳴守 澪 18歳 身長約160cm

地球軍のパイロット、左手を無くし今は義手をはめている。

幼い頃に東京にレーナ・ゼクツェンの駆る機体が襲来、唯一の生存者となった。

戦争が始まって施設に預けられた生まれつき右手の無い妹がおり、戦争が落ち着いたら探しに行くのが夢。


乗機はファフニールストライク




・レーナ・ゼクツェン 18歳 身長約150cm

火星軍最高司令官、その幼さで火星軍新型可変機ヴォーダン=ロットラスのテストパイロットに任命、揚陸艦3隻とTLA30機を単機で退ける。

火星人達から慕われており女神などと崇められているが本人は地球を深く憎んでいる。

一時期火星の自身の所有する基地に籠っていたが最近になって前線に復帰した。


乗機は現在はヴォーダン=ヴァイス



・クロエ・マーガレット 19歳 身長約160cm

地球軍第101特務人型遊撃部隊[リヴェリオン]所属のメカニック、鳴守澪のファフニールストライクの専属メカニックに任命されている。

明るい性格で前向きであり兵士の間では人気。

姉のシャルロッテはヴォーダンヴァイスの攻撃で戦死している。



・アイン・シャイルシュッツ 28歳 身長約190cm

地球軍第101特務人型遊撃部隊[リヴェリオン]所属のパイロット。

かつてレーナ・ゼクツェン相手に鍔迫り合いをしたと言われている。

性格は悪いが仲間想いな部分があるらしい。


乗機は最新鋭のプロトタイプエイル


・デアモ・ウーン 34歳 身長約190cm

地球軍第101特務人型遊撃部隊[リヴェリオン]所属の医師

元闇医者など悪い噂の絶えない、実際詳しい事を知るものは少なくて本人も滅多に話さない。



機体解説


TLA-24A ファフニールストライク(第二形態)


破損したファフニールストライクを最新鋭機のパーツで継ぎ接ぎしたもの。

シールドの規格が合わずガントレットを装備し代用しフリーになった左手に散弾銃を持ちナイフとソードをなくしバトルソードを腰にマウントしている。

 ・BTA-120A 500mmバトルライフル

 ・ASW-26 バトルソード[リディル]x2

 ・MML-8A 8連ミサイルランチャー[シャルフダート]x2

 ・SG-04 04式散弾銃

 ・リアクティブアーマーガントレットx2



TLAY-77 プロトタイプエイル


次期主力機エイルの試作機、全体的に複雑な構造をしている、77機のみ生産されている。

・PXS-165 [フィクス]    荷電粒子ライフル

・XPE-010 [ザイフィアス]  プラズマブレイド

・XASH-12 [シュヴァイツァー]レールガン搭載シールド




あとがき


第二話です。


取り敢えずここから鳴守澪の火星軍への復讐が始まります。


火星軍の視点でも少しずつお話を入れていこうかなと。


今までハイアシンスでも名前だけ出てた(確か)レーナ・ゼクツェンがついに登場です。


さてこれからどうなるのか、ハイアシンス共々次回をお楽しみに。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る