虚構のファフニール

ヴァン=ガルム

序章 [竜とお姫様]

第1話 [Hello Earth and…]


燃える街並み、あたりからは人の悲鳴が聞こえる、そんな俺を血と肉片の感触が襲う。

目の前には父と母だった何かが転がっている、ふと上をみるとそこに確かに居た。


青い光を放ち軍隊のものと思われる戦闘機をいともたやすく撃墜する細く純白に染まった巨人が、機械のはずなのにその巨人の動きはどこか楽しげに踊る少女のように見えた。


視界が真っ暗になり血生臭い匂いと肉の嫌な感触を感じたのを最後にそこから先は覚えていない。


ふと目を開けると知らない天井…ではない、ここは俺の部屋だ。

いや正確にいえば俺とその同僚の部屋だ。


「…またあの夢か…」


俺の名前は鳴守 澪なるかみ れい、地球軍アジア方面第66防衛基地所属のパイロットだ。

6ヶ月ほど前、火星は地球に宣戦布告

月をたった4機の人型兵器TLA(TwinLegArmor)で占領、空は奪われ地を這いずって地球軍は必死に抵抗した。

しかし2031年5月21日、火星軍最高司令官レーナ・ゼクツェンによって各地に核弾頭が降り大陸の20%は放射能汚染で住めなくなった。

地球軍は月面を奪還するためにルナ作戦を3回提案したがどれも多大な犠牲を出したにも関わらず失敗している、地球軍最後の打ち上げ施設[ウルティマ・リソルサ]ももう防衛は不可能という噂すら聞く。


そんな事を考えて暗い顔になっていた所に同僚のパトリック・ジェームズが入ってくる、皆からはピージェイとも呼ばれている。


「どうしたんだ澪、そんな暗い顔してよ」


「いや・・・ただ」


「…火星の奴らに、勝てるのかって…」


パトリックはため息を吐いた後俺の頭を軽く叩く。


「な、何すんだ!」


「ばーか、勝てるか勝てないかじゃねぇ、やるだけやんだよ。」


「諦めたら、そんな空気に周りも毒されて負けまっしぐらだボケ」


「…そうだな…すまん」


言われてみればそうだ、俺は何を言っていたのだろう。

まだ地球の青い空はそこにある、ポジティブに考えていこう。


「ま、お前のことを考えれば、そんなネガティブな考えになっちまうかもな」


「あっ…」


ふと今日見た夢を思い出す、嫌な夢だ、脳裏に焼き付いて離れない忌まわしい記憶。

だがパトリックの何気ない話題が俺の脳内からそれを忘れさせてくれた。


「そうそう!俺ついに告ってみたんだけどよ!やったぜ!」


「やったって…まさか。」


「おうそのまさかよ!これで晴れて俺もリア充だぜ!」


目を輝かせるパトリックの顔に思わず俺も笑う。


「相手は誰なんだ?」


「整備班のシャルだよ、あいつ何時もクッソうるさいがいざ話してみると可愛くてな~」


整備班所属のシャルロッテ・マーガレットの事だろう、茶髪と胸でパイロット間では有名だ。


「お前も早くシーニャに一発いいに行けよ。」


痛い所を突かれる、俺も男だ気になる女性の一人二人は居るが、ネガティブな考えに行きがちな俺にはとてもじゃないが告白などは出来ない、学生時代にすら一度も告白したことがないのだ。

俺はこの基地のオペレーター シーニャ・ガーレーに一目惚れしている。


「む、無理に決まってるだろ!」


「ふっ、まあ気長に近づいていくってのも良いと思うがね、はっはっはっ!」


「こいつ…」


ピー!ピーッ!


パトリックの高笑いを遮るように警報が鳴り響く、スクランブルだ。

俺とパトリックはすぐさま部屋を出ていき更衣室で素早くパイロットスーツに着替える、パイロットスーツは重い、TLAの操縦システム通称MTSMuscleTraceSystemをスーツ自体に組み込んでやがる。

まったく設計したのは誰なんだか…


格納庫には同じくパイロットのピータソン・フュリーとアンディ・ニコールが既に機体に乗り込んでいた。

2人とも古い付き合いだ。


「シャル~」


パトリックはシャルロッテの名を呼ぶ、よく見るとパトリックの機体の最終チェックを終えた所のようだ。


「パトリック!その名前で今呼ぶな!」


「へへっいいじゃねぇかよ~」


シャルロッテは絡んで来ようとするパトリックを軽くあしらう。


「おいパトリック、早くしないとダメだろ、スクランブルだぞ」


「わーってるよ、じゃあなシャル!」


「…ちゃんと戻って来いよ…バーカ」


俺はもう2人は無視して自身の機体へ乗り込む。

TLA-24 ファフニール、地球軍の最新鋭機体だ。

俺はこの機体に改造を施してファフニール・ストライクと呼んでいる

パイロットスーツの各部をシートと接続していく。

各種兵装のチェックを終えMTSを起動し機体を動かす。

青いセンサーが光を宿す。


「ヴァッハフント01、ファフニールストライク、先に出るぞ!」


格納庫の扉へと足を進める、MTSにより思うがままに機体を動かせる。

格納庫の外へ出ると空を見る、赤い軌跡が3つ、火星軍の降下ポッドだ。

ディスプレイに見慣れた顔が映る、シーニャ・ガーレー、長い白髪と熊のヘアピンが可愛らしい、おっとそんな事は後回しだ。


「ヴァッハフント01は基地のミサイル発射後敵へ突撃、切り込み隊長をお願いします。」


「了解」


思わず声が震える、戦いの緊張と彼女への感情が入り乱れる。

降下ポッドの外装が剥がれ中から機体が現れる。

直線的なボディに細い腕が異彩を放つエインヘリヤル、黄金の剣と腰の羽状のパーツが特徴的な火星軍の新型機ジグルズが2機の合計3機、基地のミサイルが放たれる、ミサイルに反応した敵機はライフルからプラズマを放つ、ミサイルは数発焼かれ爆発するがその大半は敵機へ命中する

俺はつかさずスラスターをフルに動かして突撃する。


轟音が聞こえる、Gに押しつぶされそうになりながら相手を見据える、爆風で相手のプラズマシールド、通称EFPS(Electromagnetic Force PlasmaSystem)は僅かに減衰しているのが見える、ジグルズがプラズマライフルを放って来る、シールドのEFPSでそれを相殺していく。


「ロック…3 4シュート…ッ!」


足の8連ミサイルランチャー[シャルフダート]を2発放つ、ジグルズは自慢の直線スピードで振り切る、その単調な所を狙おうとしたがすぐ左にジグルズが剣を向けてすぐそこに居た、盾でどうにか防ぎながら腰にライフルをマウントしプラズマソードMk-IIA[プレティーカツヴァイ]を手に取り相手にそのプラズマの刃を突き立てる。

しかし相手のEFPSによって刃は空気中に散っていく。


「チッ!…出力不足が!」


離れて剣を空振りさせた所にプレティーカツヴァイを投げ付け肩にマウントさせた実体剣エンハンスドナイフを手に取りながらタックルをかける、下にいるエインヘリヤルは基地へ向かっているがパトリック達がどうにかするだろう。

必死に掴みかかってくるが上手く受け流し胴体へナイフを突き立てる、火花が散り相手のEFPSの光が薄れていく、ナイフから手を放しそのまま500mmライフルを撃ち込む、相手の機体は爆散しある程度の形を残し森へ落ちていく。


「一つ!」


ビーッ!ビーッ!


「なんだうるさい!」


スラスターの限界が近い警告音に気づく、スラスターの推力を下げ地上に降りる、パトリックのファフニールとエインヘリヤルが戦闘している。

ピータソンの重装甲人型兵器Mark15Rがジグルズに翻弄されている。


「ピータソン!今行くぞ」


「澪か!このポンコツじゃ無理だ!早く来てくれ!」


ピータソンの元へ走る、ジグルズはバズーカとブレードのみらしい、プラズマ以外には硬いピータソンの乗るMark15Rとは相性は悪そうだが、あのスピードに乗って剣を刺されては一たまりもない。


「あの機体なら耐えれる…っ!」


左足のミサイルを半分放つ、ミサイルへの反応が遅れたジグルズは爆炎に包まれる、プラズマと爆風が干渉している、そんな中から全身凸凹になったジグルズが現れる、ブースターをふかしこちらへバズーカを持って突撃してくる。

スラスターは冷却が間に合わない。


「火星人がっ!」


腰部グレネードランチャーを放ちながらバズーカの砲弾を傾斜させた盾で受ける、爆風で姿勢を崩したジグルズが大きくクラッシュする、そこからはもう動かなくなっていたがピータソンはそいつへ向けマシンガンを放っていた。


「やめろピータソン!もう死んでる!」


「…あ、そうか。」


ふと遠くへ目をやるとエインヘリヤルはアンディのアールヴのライフルに撃ち抜かれていた。


「…ふぅ…」


「さっすがだなアンディ!」


「うるさいピージェイ、叫びすぎよ貴方」


「また叫んでたのかパトリック?」


「もちろんだとも!」


「褒めてないぞ」


戦闘が終わり他愛もない会話をする、全員生きていて良かった。

そう思うよ画面にウィンドウが現れる、シーニャだ。


「皆さんお疲れ様です、周辺警戒の後基地へ帰還して下さい。」


「皆生き残れたな・・・」


そう安堵し基地に向け機体を動かす




しかしふと視界に何かが映る、赤い流れ星のようなものが見える。


流れ星のようなものはバラバラになり中から何か飛び出す。


それを降下ポッドと理解するのに数秒かかった。



「っ!?降下ポッドだ1」


「なに!?」


「基地の方か!」


基地の混戦した無線がノイズのように耳に入る、スラスターを壊しても構わないぐらいに吹かす、基地から多数のミサイルが放たれる。


空を飛ぶ機影から青い閃光がいくつも走る、それらはミサイルを打ち落とし基地へ降り注ぐ。


ドぉぉぉン‼


轟音が鳴り響き基地があった箇所は赤い爆炎に包まれていた。

上を見ると先程の機体が基地のすぐ真上まで降下していた、真っ白な機体に青い発光が見えるその機体はまるで嘲笑うかのようにこちらを見ていた。


「こ、この野郎!!!!」


「ピータソン!まちなさい!」


「くそっ!澪行くぞ!」


ピータソンが突出する、それをカバーするように俺達も突撃し攻撃する、が。

4機の攻撃を容易いようにひらひらと避ける、すぐさま青白い光を放ったがその光はピータソンのMark15の胴体を溶解し貫く。

関節部から小さい爆発が起きると胴体内部が爆発し腕と頭が吹き飛ぶ。


「ピータソンがやられた!」


「化け物めっ!」


「・・・!?」


銃口を向けた先には既に相手はいなかった、

青い閃光が正面に映る、真上からの攻撃か。

怒りに震える澪はミサイルの残り全てを撃ち込むが


相手は人型ならざる形態へ変化し凄まじいスピードでミサイルを振り切る。


「澪!ありゃヴォーダンだ!」


「ヴォーダン?」


「火星軍の可変機だ、もう居ないって聞いてたんだが…!」


話してる暇などないかのごとく攻撃を仕掛けてくる、人型に戻りスピンをしながら接近してくる。


俺はプレティーカツヴァイを取り出し反撃しようとするが流れるように回転を続けながら援護射撃をしようとしたパトリックの機体へ近づく。


「なに!?」


パトリックもすぐさま対応しようとするが2本の青い光の剣に切り裂かれる。


「パトリックーーっ!!」


「どけ澪!私がやる!」


「よせ!その機体じゃ!」


ブレードを装備したアンディの機体は回転しながら近づき切りかかるが腕できっちりとガードされる、その衝撃でアンディの機体の腕フレームは自壊する。


「し、しまった!」


腕を切り落とされ流れるように足も切られ残った胴体を蹴り飛ばされる。

無線からは肉が金属に潰される音が聞こえた。


「こ、こいつ!!」


ライフルをひたすらに撃つが当たらず、近づかれてしまう。

だが残ったグレネードを放ち爆風で怯んだところをシールドを叩き付ける

ナイフを左手で持ち切りかかるがその手は切り裂かれる。


「なんてやつ…」


相手のパイロットの声が接触回線で僅かに聞こえる、まだ小さい少女の声だがその声には激しい憎悪を感じる、そんなことに構わずライフルを向けるが至近弾を放つのみで腕ごと切られる、足を切られると思い跳躍する、下をみるとライフルに持ち変えた白い機体がこちらを見ていた、スラスターをフルにし急降下をし体当たりする。


ゴォン‼


鈍い音が響き頭部が取れたのかモニターは死ぬ、薄れていく意識の中俺は死んだ家族の事を思い出す。


あの時も…白い機体が…


……




____________________________________________________


用語解説


・TLA(TwinLegArmor)

人型兵器、パワードスーツの延長線上に位置する、元々は火星の作業用大型パワードスーツ。

作業も戦闘も可能な汎用兵器として初めて採用されたのは火星軍のユミールである。


・MTS(MuscleTraceSystem)

TLAの操縦システム、筋肉の僅かな電気信号を感知し機体の関節に反映する、このシステムにより様々な姿勢を維持できる。

火星軍と地球軍で機体側に付けるかスーツに付けるかでコックピットに違いがある。


・EFPS(Electromagnetic Force PlasmaSystem)

電磁力でプラズマを制御するシステム、このシステムによって生まれたのがプラズマシールドやプラズマブレードである。



機体解説


TLA-24 ファフニールストライク

ファフニールの現地改修機

鳴守 澪の戦闘スタイルに合わせた改修を施している、プラズマソードが出力が低く相手に通じない事が多いのでナイフを搭載している。

・武装

 BTA-120A 500mmバトルライフル

 EK-14 エンハンスドナイフx2

 SH-24L ライトマルチシールド

 EPS-24/01A プラズマソードMk-IIA[プレティーカツヴァイ]x2

 MML-8A 8連ミサイルランチャー[シャルフダート]x2

 MGL-041NA 4連グレネードランチャー[ヘルワイヤー]x2


TLA-24 ファフニール

正規品のファフニール

パトリックの乗機、地球軍の最新鋭量産機、後継機のファフニールIIの配備が既に始まっているが辺境などではいまだ現役、出力に問題がありプラズマソードは兵士からは不評。

・武装

 AR-24 300mmライフル

 SH-24 シールド

 EPS-24/01A プラズマソードMk-II[プレティーカツヴァイ]x2


Mark15R

輸入品の人型兵器、戦車のようなシルエットで防御力に優れているがプラズマ兵器には非常に脆く多数投入されているがそのほとんどが一回の戦闘で失われている。

・武装

 BMG-15R2 ブルパップマシンガンMk-2


TLA-E2 アールヴ

地球軍の第二のTLA、偵察向けの機体で近接戦闘も視野に入れている。

しかしフレームが非常に脆く自身の近接攻撃を当てた衝撃で自壊してしまう。

・武装

 MG-02 マシンガンx2

 BD-02 ブレードx12

 SR-250A スナイパーライフル


TLA-XM24 ジグルズ

火星軍の最新鋭機体、エース専用機らしい。

腰のバインダーに複数の兵装をマウント出来る

加速性に優れ専用のソードを突き刺す。

・武装

 二連装プラズマライフル

 コンパクトバズーカ

 ジグルズブレード


TLA-XM7 エインヘリヤル

火星軍の旧主力機体

胴体にプラズマ砲を搭載している。

・武装

 PSC-07X プラズマ砲[デッドリーソルダート]

 XPS-07A プラズマソードx2


TLA-XM2 ヴォーダン=ヴァイス

白く塗られたヴォーダン、火星軍の旧式の可変機。

本来のヴォーダンにはない武装を施している、パイロットは謎の少女。

・武装

 XPR-99 プラズマライフルx2

 XPS-99 プラズマソード[スノーヴァイト]x2



_____________________________________________

あとがき


今書いてるハイアシンスの数十年前のお話で月面防衛戦の後のお話。

ロボ物も書きたくなった&こっちのお話もどうにか形にしたかった。


まあそんな感じ。


何か気になる点とかこうしたほうが読みやすい~みたいなのとか、感想お待ちしております。


こっちでは次回予告はやらないスタイルで行こう。


ほしいって人いたら書くかも。



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