第30話 ドラゴン退治


 五分ほど経ったが、アイリのデスペルは入らない。俺はアイリとワカナに超高級マナポーションを投げ続けている。レア装備でMPの回復も高いはずなのだが、このままではMPの方が先に尽きてしまうのは避けられない。

 そんなことを考えているうちにもワカナのMPは減り続け、ついにはMPが尽きてしまった。


 もう駄目だというところで、ドラゴンがファイアブレスのモーションに入った。ワカナはリザレクションを使うだけのMPがもうない。俺はマナポーションを投げるが、前に投げたやつのエフェクトが残っているから、時間制限で意味をなさなかった。


 しかし横合いから飛び込んできたリカが、シルバードラゴンに詠唱阻害攻撃を入れる。通常攻撃などほとんど弾いてきたシルバードラゴンにも、背面攻撃ボーナスによって攻撃は成功した。

 リカは決めるべき時は本当に決めてくれる。


 その瞬間にアイリのデスペルが入ったエフェクトが現れた。せっかくデスペルが入ったのに、戦う時間が残されていなかった。

 俺がそう考えた瞬間、シルバードラゴンは燃え上がった。

 燃焼は秒間に二度ほどダメージが入る。目の前でドラゴンが燃えているのだから、当然俺にも0.5秒に一度のダメージが入っている。


 つまり一秒間に二回、俺はデストラクションが使えるのだ。しかも、このタイミングは女王蟻ですでにやったことのあるものだった。だからクレアとの連携も実証済みだった。

 俺の1000に届くほどのMPによるデストラクションは、体力のステータスが初期値なら一撃で死ぬこともあるほどのダメージだ。


 デストラクションのエフェクトが出るたびに、ドラゴンは血をまき散らし、羽がもげたり鱗が飛び散ったりと、その形を崩していった。

 リバイバルとデストラクションのすさまじい回転で、ドラゴンは数秒のうちに光の粒子へと変わった。

 ユニークボスの討伐とドロップが入ったことを知らせる文字が視界の端に現れる。


 それによって周りで野次を飛ばしていた戦闘不能になった奴らも静まり返った。

 まさかこんな貧相な装備の男が、棒立ちのままドラゴンを倒すとは、夢にも思わなかったに違いない。武器も持たずに何しに来たんだろうと思っていたはずである。

 そんな奴らが俺に野次を飛ばしていたというのが許せなくて、俺は叫んでいた。


「ボケどもが! 俺は最強ギルドのコシロユウサク様だ! この名前を頭に叩き込んで二度と忘れるな! 虫けら共が、何を勘違いして俺に野次なんて飛ばしてやがる!」

「や、やめなさいよ」

「しばらくそこで倒れてろ。今からモンスターを引いてきてお前ら全員ロストさせてやるよ!」


 本当にそうしてやろうと思っていたら、アイリに抱えられて強制的にテレポートさせられてしまった。飛んだ先は俺たちのギルドハウス前である。


「なにしやがんだ! 俺をさっきの場所に戻せ!」

「頭を冷やしなさいよ。恥ずかしいわね。どうしてあんなこと言いだすの」

「何もわかってないくせに俺を馬鹿にするからだろ!」

「貴方が凄いのは、もうみんなわかってるわよ。それでいいじゃない。私は顔から火を噴きそうだったわ。もうちょっと大人になりなさい」

「俺は大人だと思うけど……」

 顔から火を噴きそうだったとまで言われて、俺の方も怒りが収まってきた。

「あんなことくらいで腹を立てて、子供にしか見えないわ」

「そ、そんなことないと思うけどな」

「恥ずかしい人ね。今年で何歳になったのよ。背ばっかり大きくなって中身は子供のまんまじゃない。今時の小学生でももっと大人だわ」

「だけどさあ、最強の俺に向かって薄らぼんやり突っ立ってんじゃねえよボンクラはないと思わないか。このゲームは強い奴が見た目でわかりにくいんだよ」


 みんな装備を見て、ドラゴンの攻撃に耐えているクレアを強い強いと地面に倒れながら称賛していたのだ。俺にはヌケサクだのヒョウロクダマだの芋ひきだのと、野次しか飛んでこなかった。地面に転がってる分際で、腰抜けは死ねだの、カスだの言ってくるのは本当に意味が分からない。


「そんなの言わせておけばいいじゃないの」

「今度からは努力するよ」

「そうしなさい」


 その後はリカに呼ばれて、クレアとワカナが倒れていた聖職者と騎士を蘇生させていくのについて回った。

 倒されたうちの半分近くは教会送りになったようだった。

 スラムから犯罪者集団が出てきて、そいつらが落ちている装備を片っ端から拾い始めたので、モーレットに犯罪者になっている奴らを教会送りにさせる。


 ドロップをルートすることでもペナルティーは課されるから、モーレットにペナルティータイムは課されていない。その倒した犯罪者のドロップはシステム上、俺たちのものだと思うのに、全部元の持ち主に返させられた。

 街に倒れていた奴らの甦生は割と早めに片が付いた。

 帰ってドロップの確認でもするかと考えていたら、アンに呼び止められてえらく感謝された。


「やはりお前は一騎当千だな」


 この場で俺に掛けられた称賛の言葉はこれだけだった。そして、後で王城に招待してもらえることになった。これは褒美が期待できるだろう。


 ギルドハウスに帰ってドロップを確認すると、ホワイトドラゴンのソウルブレード、ホワイトドラゴンのスケイルアーマー、ホワイトドラゴンスケイルプレート10枚、オリハルコンの原石31個、最高級ダイアモンド6個、1800万ゴールドである。

 リカが肩を落としていたので、ホワイトドラゴンのスケイルプレートはモーレットに頼んで手甲でも作ってもらおう。原石もあまったものは忍者刀にしてもいい。


 ホワイトドラゴンのソウルブレードは、車などに積んである羽で出来た埃取りのようなシルエットをしている。のこぎりの歯の部分がより複雑に絡み合って広がったような感じだ。真っ白なブレード部分が発光しているかのように輝いていてかっこいい。攻撃力は182、雪代という氷属性の5%追加ダメージまで付いている。そして何より軽かった。

 発動効果は常時ヘイストというぶっ飛んだものだ。しかし残念ながらワカナが使うヘイストほどの加速感はない。


 ホワイトドラゴンのスケイルアーマーは真っ白に輝く鎧で、防御力128魔法抵抗80が付いている。炎が広がるような独特の形で、雪風という回避率上昇10%の効果付きである。

 さっそく俺は両方を装備してみせた。


「見ろよ。めちゃくちゃかっこいいぜ」

「そうかしら。派手すぎじゃないの」

「眩しくて目が痛いわ」

「似合ってると思うよ」

「アタシの方が似合うと思うけど、いいんじゃねーか」

「悪くない」

 と評判も上々だ。

「金はみんなで分けよう。原石とダイアモンドは人数分あるしイヤリングにすればいいよな。あとで作ってきてくれよ」

「わかった。それとランクが上がってる」


 リカにそう言われて確認すると、俺たちは全員がランク40になっていた。さすがユニークボスである。ドロップだけじゃなくて経験値も素晴らしい。


「それにしても俺は凄いよな。ついにはドラゴンまで倒したぜ。もう英雄と言っていいくらいじゃないか。天才だろ。アイリですら、それは認めざるを得ないところじゃないのか」

「そんなことで喜んじゃって、きっと子供だからゲームが得意なのね」


「お前ももうちょっとゲームにのめり込んだら帰りたいとか考えずに済むんじゃないか。このクレアを見ろよ。自分は騎士になったと信じて疑ってないぜ。このくらいロールプレイを徹底してたら寂しいなんて感じることもなくなるってもんだ。そのくらいになったら俺が上手いこと使ってやるのにな」


「またそうやって私のことを馬鹿にするのね。私たちがいたから勝てたんじゃないの。全部自分一人の手柄だと思って、そういうこと言うの良くないわよ」

「でもよー、ユウサクがいなかったら絶対倒せなかったぜ。あんなのよー」

「そうだろ」

「確かに、私ももうちょっとゲームを楽しんだ方がいいかもしれないわね」

「そうだ。お前は最初、俺に活躍したいと言ってたんだぜ。それを忘れるなよ」


 俺はコンパニオン貯金が600万になったこともあり、野次られたことも忘れてすっかり気分がよくなっていた。それで手袋とブーツも白に近い色で新調しようと市場に出た。

 そしたら野郎どもは俺を見て道を開けるし、女はキャーコシロ様ーと黄色い声援をあげながら寄ってくるわで、えらく気分がよかった。

 ずっとアイリが人垣を割るのがうらやましかったのだ。


「凄いじゃないですか。コシロさん」

 そう声をかけてきたのはコウタだった。ドラゴンでロストしたのか、コウタは少し暗い顔をしていた。

「この鎧に合うブーツと手袋を探してるんだ。いいのないか」

 コウタはまるですべてのコンパニオンの売り物を把握しているかのように市場をを案内してくれた。その中で気に入ったものを買った。

「例のコンパニオンを買ったそうじゃないですか」

 コウタが声を潜めてささやいてくる。

「まあな。次を買う金も貯まったところだ」

 俺の言葉にコウタは一瞬固まった。

「信じられないほどの攻略ぶりですね。その稼ぎはありえませんよ」

「ま、俺にかかれば、このくらいのゲームわけないぜ」

「そのようですね」


「リカの販売を手伝ってるんだろ。どんな調子なんだ」

「スクロールの販売ですね。凄い額になるとおもいますよ。だけど時間を掛けないと安く売らなきゃならなくなりますから、あと二週間くらいは欲しいところですね。それとスクロールはかさばらないし重さもないですから、自分で使う分くらいは残しておいた方がいいんじゃないですかね」

「ちゃんと残してあるさ」

「それであの量なんですか。いったいどうやって手に入れたんです」

「ユニークボスってのがいてな。そいつがいる部屋には財宝も一緒にあるんだ。一番最前線を攻略してることのボーナスみたいなもんだな。このことは誰にも言うなよ」

「へー、すごいですね」

「コウタが知ってる範囲で、今の最高ランクはいくつくらいだ」

「34になった人がいるというのは聞きました。朝から晩までハイゴブリンを狩っているそうです。一緒の狩場になると嫌がらせされるそうですから気を付けてください」


 今34とかだと、ペース的に40になるのには後一月以上はかかるだろう。やはりフィールド狩りは美味しくない。リスクを取ってもダンジョンで格上を相手にする方がいいようだ。

 それにしても、周りのレベルが低くて泣けてくる。この分だと、俺が魔王を倒さなきゃ本当に何年もゲームの世界に閉じ込められたままになるだろう。

 ミサトたちにもちゃんとアドバイスしてランクを上げさせた方がよさそうだ。


 ミサトもランク30になってサキュバスなんか狩っているから、きっとランクは上がっていないだろう。そろそろ次の狩場を案内したほうがいい。

 しかしレア装備がない連中は、ハイオークや氷結の洞窟など、魔法を使ってくる狩場を避けなければならないから、どこを案内したらいいのかわからない。


「ユウサクさんも、そのくらいのランクにはなっているんですか」

「秘密にしとけよ」

 そう言って俺がステータスウインドウを見せると、コウタは小さく悲鳴を上げた。

「ぶっ飛んでますね。次元が違うじゃないですか」

「モンスター情報の売り買いはしてないのか」

「してますよ。買っていきますか」


 俺はコウタに二万ゴールドを払って情報を買った。それで、かなり広い範囲の情報を得ることができた。王都から離れたところも、ちゃんと情報がそろっている。

 王都よりもモンスターレベルが高いフィールドの街もあるようだ。

 ギルドハウスに戻った俺はかなりの上機嫌だった。


「よう、クレア。今日も美人だな。今度、尻くらい触らせてくれよ」

「結婚指輪を買ってくるのが先よ。かしずいてそれを手に求婚したら、万に一つくらいの確率でオーケーがもらえることもあるかもしれないわ」

「へえー」

 この世界の結婚指輪は浮気をしたらオークに変身するというような呪いのかかったようなものしかない。これはアクセサリーショップでも雑貨屋でも当然のごとく売れ残っている。

「へえじゃないわよ。そのくらいの順番は誰でも知ってることでしょ」

「いや、まだそんなことを言ってるんだなと思ってさ。お前が俺に気があるなんてみんな知ってるぜ。なにが万に一つだよ」

「そ、そそそそんな事あるわけないじゃない。なに言ってるのよ。頭でも打ったのかしら」

「はははっ」

「はははじゃないわよ。貴方は何を――」


 俺はもういいと手で制してクレアから離れた。次にからかうのはアイリだ。


「よう、アイリ。今日も可愛いな。尻くらい触らせる気になったか」

「ならないわ」

「レーズンの方で我慢しても――おっと、……噛みついてこないんだな」

「そんなことしてもあなたを喜ばせるだけだもの。もうしないわ」

「別にあれは喜んでたわけじゃないけどな」

「なに言ってるのよ。その、アレになってたじゃないの。あんな事されて喜ぶなんておかしいわ」

「いきなり人の首筋を噛みちぎりに来る方がおかしいと思うけどな」

「頭に血が上ったのよ」


 次にからかいに行ったのはワカナである。リカと一緒に立ち話をしている。

「ワカナもハムスターみたいな顔が可愛いな。そのでかい胸を触らせてくれてもいいんだぜ」

「もう、そんなこと言うのはセクハラだよ」

「意外とワカナみたいなのが性欲強かったりしないのかな。大体一緒に寝た仲でセクハラも何もないと思うけど」

「そんなこと言ってると、もうユウサク君だけ回復してあげないよ。それでもいいんだね」

 そんなことを言われても、俺はもともとワカナにあまり回復してもらっていない。俺を回復しているのは主にアイリだ。

「私もかわいい?」

「ん~、そうでもないかな。黒タイツの足はセクシーだぜ」


 俺はリカの尻をペンと叩いてからその場を後にしようとした。しかしリカはいきなり俺の背中に向かって斬りかかってくる。俺は背負っていた剣で必死にそれを防いだ。


「なにするんだよ! 新しい鎧の耐久が減ったらどうするんだ。ただの冗談だって。背中なんか狙いやがってシャレにならない奴だな」

「よく防いだ。やるね」


 攻撃を防いだ俺にリカがそんなことを言った。俺はうるせえよと返して自分の部屋に戻った。

 部屋に戻るとモーレットがやってきた。その手には忍者刀を持っている。

「スゲーレアができたぜ」

 言われて確認すると、忍者刀には絶影とあり攻撃力86にダメージ10%増加付が付いていた。

「すごいな。マジでユニークボスのドロップ級じゃないかよ」

「レアが出来たら鍛冶のレベルも上がったんだ」

「MAXまでいったのか。他のもできたか」

 モーレットは手甲を俺に寄こした。

「だけどさ、その鎧はアタシの方が合うと思うぜ」


 モーレットが俺の白銀に輝く鎧を指さして言った。回避付きだから俺用の装備であるが、レアリティが高すぎることもあって、モーレットが装備してもリングだけで魔法抵抗100にすることができる。だからモーレットが装備しても悪くない。

 しかし俺としては剣と合わせてこその装備であると思う。これをモーレットに譲ってしまうと俺はまた貧相な装備に逆戻りだ。


「寄こせよ。アタシが装備するんだ」

「ちょっとまてって、なんで力ずくで脱がそうとするんだ。装備したいならお前が装備してもいいから」

 飛びついてきたモーレットは俺にのしかかって、キスをしてきた。

「へへっ」

「お前な、何考えてるんだよ。それが狙いかよ。鎧なんかどうでもよかったんだな」

「そんな鎧アタシの趣味じゃねーよ。やったー、ユウサクとキスしたぜー」

「おい、そんなことを言いふらすなって!」


 モーレットは叫びながら俺の部屋から飛び出していった。そしてモーレットが開け放ったドアのところにはリカとニャコが覚めた顔で俺のことを見ながら突っ立っていた。


「ゆうくんっ!」

「いや、無理やりやられたんだよ。そんなに怒るなよ」

 ニャコは怒ってどこかへ行ってしまった。

「私は別に驚いてないわ」

「そうかよ。ほら、お前の装備だぞ。強い奴だから、必要な時以外は仕舞っとけよな」

「ありがとう。これ、イヤリング作ってきた」


 リカが寄こしたのはステータスの力を+1するイヤリングである。魔力を上げてもレベルを上げてしまってからではあまり意味がないので、俺は力のイヤリングにすることにしていた。

 クレアは敵と押し合うこともあるから体力で、モーレットは技術、アイリは知力、ワカナは信仰、リカは移動である。


 後はランク60達成ボーナスによるステータス配分しか残されていない。これは、達成できるのかどうかも怪しいくらいの達成難易度のような気がする。

 そこでもきっと今回のイヤリングと同じステータスを上げることになるだろう。

 俺は別に力に振らなくとも魔剣のおかげで攻撃力は低くない。しかし、イヤリングではレベルを上げてもMPが増えないので、魔法抵抗ボーナスしかないから力に振るしかない。


 もう装備は揃いきってしまった感がある。せっかくアイリが交換してきてくれたレッサードラゴンのブラッドソードも役目を終えてしまった。

 使ってしまったから耐久も減っているし、今更他の装備には換えられないだろう。後は、できればモーレットにもう少し強い銃を持たせたいところだ。


 俺は手元にセクシャルコンパニオンを買うだけの金が貯まってしまった。一人で買いに行くのは恥ずかしいから、ここはタクマでも誘って奴隷商館に行くのがいいのではないかと思った。

 俺が奴隷を買うと伝えたら、5分もしないうちにタクマは俺の部屋にやってきた。


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