第25話 砂漠のダンジョン①

 俺は晩飯として、白米の上に牛肉の赤ワイン煮を乗せたものという最近のお気に入りを食べていた。


「貴方は貧弱だから、特別にいいものをあげるわね。あんまんと肉まんのどっちがいい?」

「肉まんがいいな」

「はいどうぞ」

「疲れたから甘いものが欲しいでしょう。チョコケーキがあるから半分あげるわ」

「ちょっとアイリ、こいつをそんなに甘やかしたらだめよ」

「自分だってあげてたじゃないの」

 笑顔が飛び交っているので、俺は食べる方に集中しようとオリジナル丼に視線を落とした。

「まず付け合わせのブロッコリーを食べて、その次にご飯をひと口、そして煮込まれた牛肉を付け合わせの人参とともに……」

「ほら、麦茶もあるのよ」

 アイリが笑顔と共に、麦茶をすすめてくる。

「ミルクティーの方がいいわよね」

 クレアも笑顔でそんなことを言う。

「南無・妙・法・蓮・華・経! 南無・妙・法・蓮・華・経! 悪霊退散! 悪霊退散!」

「ちょっと、痛いわ!」

「何するのよ!」

「俺にはニャコという人がいるんだ。誘惑するのはやめてくれないか」

「語るに落ちてるわね。私たちの魅力に、勝手に惑わされてるだけじゃないの」

 アイリが勝ち誇ったような目をして言った。


 それに対して俺は何も言い返せない。

「ははっ、確かにアイリはちょっとかわいくなったかもなー」

「それはありがとう。おチビちゃん」

「チビだと!」

 いきなり銃に手をかけたモーレットを、俺は取り押さえた。

「やめろって、なんで怒るんだよ。俺に言わせればアイリもモーレットもチビだ。それに小さい方が可愛いだろ」

「へへ、そうだよな」

 相変わらずモーレットは単純で扱いやすい。


 俺はアイリの方も注意しておこうとしたら、笑顔で覗き込まれた。

「顔が赤いわよ。貴方って、笑顔に弱いわよね」

 この野郎と思うが、狼狽してしまってうまくかわせない。

「な、何のことやら」

 なんだかからかわれているようで悔しい。この根性なしはどうしていきなり強気に出るようになったのだろうか。

「大体な、お前はまだ俺の言うことを一回聞くという約束が残ってるんだぞ」

「そんなの反故にするわ。それであなたに何が出来るの」


 そこまで開き直られてしまっては、俺にできることなど泣き寝入りしかない。俺はさっさと寝てしまうことに決めて、鎧を脱ぎ捨てると、寝袋の中に潜り込む。

 もし夜中に、幽霊にでも起こされたら心臓が止まる自信がある。

 だけど、これだけ体が疲れていれば簡単に眠れるだろう。

 みんなも食べ終わると、寝袋に潜り込んだ。


「ちょっと、クレア。貴女の力で腕なんか握られたら折れてしまうわ」

「お願いだから、ね、ね」

「お願いされても無理よ。痛くて寝れないのよ」

「リカも怯えすぎだよ」

 クレアとリカが怖がっているらしくうるさい。

「おい、そこの暗闇に人影が見えるぞ」


 うるさくて寝付けなかったので、冗談を言ったら耳をつんざくような悲鳴をクレアが上げた。その声にモンスターが集まってきそうだった。クレアにしがみつかれてアイリも悲鳴を上げていたので、俺はいい気味だと思って寝ることにした。




「やっぱりこんなの無理よ。なんでみんなは、あの叫び声が平気なのよ」

「俺だって怖いけど慣れるしかないだろ。ほら、メイヘムを使えよ」


 敵が出たので、俺がそう言うとクレアはスキルを使用した。幽霊が迫って来て、俺が斬りつけると絶叫を挟んでくる。

 クレアはひぃと小さく悲鳴を上げてうずくまった。それきり倒しきるまで蹴とばしても何しても立ち上がることすらしなかった。


「砂漠の迷宮に、あんな幽霊が出るっておかしいよね。着物まで着てるし、絶対に嫌がらせだよ」

「そうだ、ゴーストなら回復魔法とかリザレクションで倒せるんじゃないか。ワカナ試してみろよ」

「うん、いいよ」


 次に出てきたのはワカナのリザレクションによって一撃で倒すことができた。それでようやくクレアもやる気を取り戻してまともに動けるようになる。ただし、リザレクションは白属性なので、アイリでは成功率が低すぎて魔法が入らない。

 ワカナが攻撃まですると、いくらMPの回復に優れている聖職者とはいえ、MPが足りなくなって何度も休憩することになった。しかしやっと前進するようになったので良しとする。


 この後は、ミサトから何度も連絡が入って、俺だけひとりごとを言っているみたいな状況が続いた。俺としては幽霊の怖さが緩和されるのでありがたかった。

 ミサトたちはサキュバスクイーンも倒して、サキュバス狩りも安定させたが、欲をかいて素材を良く落とすキメラにも手を伸ばしたがために酷いことになっているようだ。


 どうしても狩りたいらしいが、ランクに相当の余裕がなければやめておけとしかアドバイスのしようがない。ミサトのギルドにいる聖職者では魔法がそろってなさ過ぎて、回復魔法をクールダウンタイムにされた時の対処法がない。

 キメラゾーンはサキュバスよりも手前にあるが、それが罠なのだと話して、やっと諦めたようだった。


 キメラはサキュバスで魔法を揃えてから出ないと無理な相手なのだ。それでも魔法書がかなり出ているらしく、ミサトの声は明るい。数週間は篭ると息巻いているが、あの精神的につらい状況を甘く見ているような気がする。

 もしかしたらあれだけの人数がいれば、あの精神的な辛さも緩和されるのかもしれない。


 そんなことに気を取られているうちに、俺たちは昼飯の時間になっていた。キャンプができる場所があったので、そこで昼食を取った。

 そしてさらに迷宮の奥に進む。やっと魔法戦士の職業であるコボルトが出てこなくなって狩りがしやすくなってきた。代わりに死霊系のモンスターしか出てこなくなったのはある。

 それでも、クレアとリカも慣れてきたのか、あまり騒がなくなっていた。


「こいつらってアイリに似てるよな。アイリだと思えば怖くないんじゃないか」

「髪型だけじゃないの。変なこと言わないで」

 俺の発言にアイリが青筋を浮かべた。

「ああ、あいつだと思ったら余計に怖いか」

「そうよ。余計に怖いわ」

 と笑顔を見せるくらいにはクレアも余裕が出てきた。

「クレア、貴方は昨日の夜、私にしがみついてきたことを忘れてないわよね。何度も私の腕を折りかけたのよ。それでも私は文句ひとつ言わなかったわ」

「恩着せがましい奴だな。文句しか言ってなかったような気がするぜ。モーレットは平気か」

「アタシはもう慣れた。だけど、よくこんなのが近寄ってきてもユウサクは平気にしてられるよな」

「いや俺だって驚きはするよ。戦ってればアドレナリンが出て興奮してるから緩和されてるんだろうけどな」

「よくこんなゲームで興奮できるものだわ」


 アイリが呆れたように言った。

 だけど剣を振り回して戦っていなかったら余計に怖かったと思う。水死体のように灰色がかった顔で、眼孔が飛び出した女の幽霊が全力で叫び声をあげるのだ。

 ホラー映画でもなかなかないくらいの恐ろしさである。

 ダイアですら嫌そうな顔をしていたくらいだ。


 昼過ぎにキャンプできる場所を一ヶ所やり過ごして、それから三時間ほど歩いた。次のキャンプできる場所がなかなか出てこなくて、戻ろうかどうしようか悩みながら、もう四時間ほど歩くとキャンプできる場所を見つけた。

 二日で30キロ近く歩いたような気がする。それでもまだボスにたどり着かない。

 食料などはもつのだろうかと心配になるが、まだ二日目である。終わりが見えなくて、そんな気分になっているだけだろう。




 次の日は昼前くらいからジャイアントアントくらいしか出なくなってきた。ゴーストやゾンビやコボルトなどの、最初から出ていた敵がまったく出てこない。

 そろそろ何かあるなという頃になって、リカが女王蟻を見つけたと言ってきた。ジャイアントアントクイーンが腐王とも思えないので中ボスだろう。


 ボスがいると言ったら、みんなの間に緊張が走る。本当はボスに魔剣など使いたくないが、装備はリカが回収してくれるものと信じてこのまま行くことにする。


「昆虫系は耐久が高いから毒を使ってみよう。まずアイリがクラウドキルを使えよ」

「いいわ」

「動き出したらクレアの力でも突進を止められないだろうからリーシュは残しとくんだぞ。たぶんターゲットは変えてこないだろう」

「ええ、大丈夫よ」

「リバイバルストーンはまだ十分にあるか」

「あるけど、ボス相手にデストラクションを使うつもりなの」

「当り前だろ。ボス相手になら赤字にならないからな」

「わかったわ」

「兵隊蟻を呼び出すかもしれないから、そしたらリカがどこかに連れてってくれ。ターゲットを切ったらまた戻ってくるんだ」

「了解」


 ボス部屋に入るなり、女王蟻はこちらに向かってきた。そんなに早い動きじゃないから、突進はないものと思われる。クレアがターゲットを取ると同時に、俺はデストラクションを放った。

 ターゲットが安定しなくなるから、俺がターゲットを取ってデストラクションを使うことは出来ない。しかし範囲攻撃でもしてくれば、いくらでもリバイバルからのデストラクションが使える。


 俺は魔剣の力を開放して、敵に振り下ろした。しっかりダメージを与えている感触がある。範囲攻撃こそしてこないが、最初は順調にダメージを与えていた。しかし女王蟻はゲロのようなものを口から吐き出して、クレアに吹きかけた。

 俺にもそのしぶきがかかるがダメージはない。蟻酸という防御力低下のデバフがかかった。低下した防御力は50%だが、光の守護者の称号を持っているクレアにとっては、なんてことのないものだった。


 ワカナがデスペルでクレアのデバフが消すが、すぐにまたゲロを吹いてくる。しかし、深刻なダメージはない。俺のデバフを消そうとすれば、バフまで消えてしまうのでデスペルは使えない。

 最後に女王蟻は燃え上がりながらダメージを追加してくるが、そうなったら俺のデストラクションによって一瞬で倒しきってしまった。


 ドロップはクラスⅤの魔法書ヘイスト、ロイヤルウイングケープ、シェルブーツ、ロイヤルクリスタルが各一個に、アントシェルという部位が四個、それに18万ゴールドだった。

 ロイヤルクリスタルとアントシェルは防具や武器の材料にでもなるのだろう。ロイヤルウイングケープは消費MP軽減1が付いている。シェルブーツは防御力13とそこそこだ。


 俺はロイヤルウイングケープをアイリに渡し、物理防御しかないシェルブーツはモーレットに渡した。ヘイストは行動速度の上昇率が信仰の影響を受ける白属性なのでワカナだ。

 また俺の装備は出やがらない。

 アイリはウイングケープを素直に装備する。透けているので胸元がかなり大胆になった。どうかしらとか言って笑顔を向けてきたので無視をした。


 俺は先に進もうとみんなを促した。

 ワカナにヘイストを使ってもらうと1.5倍近い攻撃回数になる。移動速度も同じだけ上がった。周りの動きが遅く感じられる不思議な感覚だった。時間は5分と短いので、使えるのはMPに余裕のある時だけだろう。

 俺に使われると剣を振る回数が増えた分だけ疲れるので、モーレットかリカに使ってくれと頼んだ。


 みんなワカナにヘイストを使ってくれと頼むので、MPがなくなって休憩が増えてしまった。それでも次のキャンプには何とかたどり着いた。その頃にはジャイアントアントだけしか出てこないということはなくなってゴーストなども出てくるようになった。

 そのことにクレアは心底憔悴しきった顔をしている。


 隣でアイリだと思えば怖くないというのをぶつぶつ繰り返し唱えているが、それだけはやめてほしい。もしそんなことをアイリに聞かれたら、そっちの方がよっぽど恐ろしいではないか。隣にいる俺までひやひやする。

 しかし中ボスが出てくれたことで、道順が間違いではなかったとわかって俺はほっとしていた。何日も迷宮の中をさまよっていたので、確信が持てなくなっていたのだ。


 晩飯をみんなで食べる頃になって、またミサトから連絡が入った。キメラを倒したがっているのが何人かいて、意見が割れて困っているというような話だ。つまりランクも低いし、それほど魔法も集まっていない聖職者でどうやって倒せばいいかということになるだろう。


 俺は聖騎士を中心にして聖職者を二人入れたパーティーなら行けるんじゃないかと答えた。デバインプロテクションにクールダウンタイムはないし、回復役が二人いればどちらかの魔法がつぶされてもカーバーし合える。

 なんだかマップとモンスター図鑑の情報を売ってしまったがために、ていのいい相談役になってしまった感があるなと思った。ミサトはユウサク君の意見だと言えばみんなも説得しやすいから助かるなどと言っている。


 ミサトたちは二日ほどで50冊以上の魔法書を出したらしい。そんなペースではすぐに相場は下がってしまうだろう。だからキメラの落とす素材の方を集めたいのだ。

 そうなると、これから金になりそうなのはクラスⅣかクラスⅤくらいということになる。クラスⅣまではサキュバスクイーンが落とすのだ。


 そんなことを考えながら晩飯を食べていたら、クレアたちが風呂に入ってる音が聞こえてきて、俺はニャコに会いたい気持ちが募ってきた。寂しいのではなくムラムラしてくるのだ。


「これも食べなさいよ」

 そう言って、アイリがまた豚の角煮をくれた。スカスカの胸元が見えそうで目のやり場に困る。

「お前のようにさ、心まで美しい女の人のことを中国語でなんて言うか知ってるか」

「なんて言うのかしら」

「ブゥスーって言うアルネ。覚えとけヨ」

「あらそう。貴方ってブスしか悪口が出てこないのね」

「違う違うヨ。発音が違うアルネ。ブゥスーヨ、ブゥスー」

「そんな言葉ないくせに」

「ワタシノ ウマレタバショ ソウイッテタ アルヨ」

「貴方みたいな素敵な男の人のことを、日本語ではヌケサクと言うのよ」

「アイヤー、口が達者なお嬢さんネー」


 俺たちのやり取りをモーレットが隣で笑って聞いている。

「ワタシ褒めてアゲタノニ、ナンデ オマエ怒テル?」

「怒ってないわよ。褒めてあげたんでしょう」

 アイリは笑顔でそう答えた。俺の前では緊張してしまうという話はどこに行ったのだろうか。思いっきり自然に笑っているではないか。

「アイリ、お風呂空いたわよ。あら、まだ食べてるのね」

 アイリと入れ替わりでクレアがやってくる。優しい笑顔が俺のことを覗き込んできた。

「アイリに邪魔されてたからな」

「そう。ユウサクもずいぶん埃っぽくなってるわね。ちゃんとお風呂に入ってから寝なさいよ」


 俺はああと短く返事をして、こんなダンジョンは早く攻略してしまおうと決めた。ここからはダンジョン生活が辛くなってくる日数だから、早くやってしまうに越したことはない。

 朝になって、またしばらく迷宮を進んでいくと行き止まりの小部屋に当たった。無機質な部屋に棺のような箱が置かれている。棺の蓋は開けられていて、中には何もなかった。


「墓荒らしにでもあったのかしらね」

 クレアが棺の中を覗き込みながら言った。

「これってピラミッドのようなものなんじゃないか。だとしたら、これは盗掘を防ぐためのダミーで、玄室への隠し通路は他にあるんじゃないのか」

「きっとそうよ。探してみましょう」


 初めてアイリの前向きな発言を聞いたような気がする。

 俺たちは壁をくまなく調べた。しかし隠し通路のようなものは見つからない。引き返してなにかヒントになるものはないかと探すと、最後の目印の正面の壁に違和感を感じた。

 詳しく調べると、隙間が空いていて動きそうな気配がする。


「クレア、ちょっとこの壁を引っ張ってみろよ。倒れたのに潰されないよう気をつけろよ」

 クレアがフンッフンッと力を入れるが動きそうな気配はない。こいつの力で動かないのなら、たぶん動かせないのだろう。

「引き戸かもしれないわ。横に動かしてみたら」

 アイリのアドバイスに沿ってクレアが横に回って力を入れたら、その石の向こうから石造りの上り階段が現れた。

「正解みたいね」

 とアイリが言った。

「なんだか狭くて怖いわね」

 そんなことを言いながら覗き込んでいたクレアを、俺は中に押し込んだ。

「行ってみようぜ。ボスがいるだろうから気をつけろよ」


 クレアを先頭に急な上り階段を上っていくと、宝物庫のような場所に出る。その宝箱を物色する暇もなく、奥の玄室から咆哮が聞こえた。

 現れたボスはファラオと表示されている。黄金の仮面をかぶって包帯を巻かれた大男だ。手には黄金の杖を持っている。


 範囲に入ってすぐ、クレアがメイヘムを使った。ファラオはファイアストームを使ってきた。視界の端にフルレジストの表示が現れた。

 ダメージは思ったよりも大きい。クレアは三割ほどのダメージを受けている。そのファイアストームはファラオが杖を振るたびにやってくる。そんなに嫌な攻撃ではないが、ヒヤリとしたものを俺は感じた。


 俺はデストラクションを使った。次のファイアストームで戦闘不能になるがすぐに復活する。もう一度デストラクションを入れるが、いつものようにダメージを与えられているような感じのエフェクトが現れない。それで俺の嫌な予感は確信に変わる。

 俺と同じことを考えたのか、リカが攻撃に加わろうとする。


「リカ! 攻撃しなくていい。アイリ、デスペルを使え」


 こいつには思った以上にダメージが入っていない。俺とモーレットの攻撃もダメージエフェクトが小さすぎるし、デストラクションの魔法ダメージですら出血エフェクトすら出ない。

 このままではワカナのMPが先に尽きてやられてしまうことになる。魔法攻撃だからクレアの防御力が意味をなさないのがキツイ。逃げるにしても階段が狭すぎて逃げ切れないだろう。


 そこでアイリのデスペルが入ったエフェクトが現れる。三回目で魔法は成功したようだった。そこから俺のデストラクションが入ると、大きなダメージが入ったことを表すいつも通りのエフェクトが現れる。

 俺たちの攻撃はワカナのMPが尽きる前にファラオを光の粒子に変えた。

 同時にユニークボスを倒した旨の表示も現れる。


「どういうことなの?」

 俺はドロップを確認してからクレアの質問に答えた。

「呪いだよ。俺たちに呪いをかけるんじゃなくて、ファラオ自信が呪いにかかっていたんだ。不死の呪いのような何かだろうな。明らかにダメージの入ってる感じがしなかっただろ。だからデスペルで、その呪いを消したんだ」

「すごいわ。よくわかったわね」

 アイリが俺の背中をたたいた。

「まあな。なんとなくワカナの回復中に倒せない感じがしたからな。何かあると思ったんだ。だけどデバフのようなものは受けてなかったから、こいつの方なんじゃないかと思ったんだよ」

「それでリカが攻撃しようとしたんだね」

「そう。間に合わないように見えた」


「お前には俺たちのアイテムを回収する一番大事な任務があるだろ。リカはいざとなったら俺たちを見捨てるのも、仕事のうちなんだぞ」

「一番戦いを良く見える位置にいるんだから、そういうのも難しいよね」

 ワカナがリカを庇う。

「だからこそ、見捨てる判断もできるようにならないとな。そういうゲームなんだと割り切れよ」

「今度からはそうする」

 リカは素直にそう言った。

「やっぱユウサクはすげーな。頼りになるぜ」

「でも普通は相手が呪われているなんて気付かないわよね。やっぱりボスは怖いわよ」

「まあ、何かしらのヒントは出てるんだから、そんなに深刻になるなって」

「クレアはもうちょっと肩の力を抜きなさいよ。考えるのはゲームオタクのリーダーに任せておけばいいじゃない」

「本当なら資料を読んできたアイリが気付かなきゃいけない事だろうけどな」

「次は頑張るわ」


 みんな俺の言葉に素直に従うような雰囲気だった。ずいぶんと信用されるようになったものだ。そして、お楽しみのドロップだ。魔剣も出ているので、俺は胸が高鳴った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る