第5話 魔銃士


 明けて翌日、俺はクレアと共に市場に向かった。

 まずはNPCの店で歯ブラシとコップを買った。

「そういえば、風呂はどうしてるんだ?」

「銭湯があるわよ。200ゴールドでシャワーが浴びられるの。お風呂は家を買わなきゃ無理らしいわ。でも家は高いから、普通はギルドハウスを買って、そこで共同生活をするそうね」


「となると、メンバー集めを最優先にした方がよさそうだな。かなり稼ぎを良くしないと、そんなもの借りられないだろ」

「まあ、それなりに高いと思うわ。でも、私って結構お金持ってるのよ」

「人数がそろう前に大きな家を借りるのは効率が悪いよ。そろってからの方がいいだろ」


 確かにそうねと言って、彼女は笑った。

 堅実で、やる気があり、しかも戦いを器用にこなす彼女はメンバーとして申し分ない。前衛はそろったから、次は後衛ということになる。なるべく早いうちに見つけた方がいい。

 しかし、いったいどこで探したらいいのだろうか。


 市場を見て回ったが、オルトルスの落とすリバイバルストーンは、そこらに落ちている石ころと同じくらいの価値しかなかった。見つけた売りは50Gで、買いは一つもない。はっきり言って、レベル上げ以外でオルトルスを狩る理由はないくらいだ。


「オルトルスって、こんなものしか落とさないのかな」

「うーん、でも、お金は落とす方だと思うわ。他よりひと回りくらい高いもの」

「だけどドロップアイテムがこれじゃ、あんまりうまくないな。それにしても、蜘蛛の糸の買いをやたらと見るけど、なんでだろうな」

「下着っていうのかな。ほら、タイツよりも厚いんだけど動きやすくて、さらさらした手触りの服になるのよ」


 そう言って、彼女は胸元からシャツの一部を引っ張り出す。その動作にドキッとしたが、俺は何でもない風を装った。確かに鎧の下に着るなら、Tシャツなんかよりよっぽど良さそうな服だ。


「サブ職の服飾か何かで作れるのか」

 彼女はうんと頷いた。

「服飾のレベル1、つまり私たちでも作れるわ。他にもアイテムが必要だけどね。サブの職業はレベル1でも色々と作れるのよ」


 だから、そこかしこで売っているのだ。蜘蛛のモンスターは森にも現れるが、洞窟にもかなりの数がいた。集まりやすく逃げにくい危険な相手だが、安定して狩ればいい稼ぎになるだろう。

 レベルを上げた方が稼ぎは良くなるが、しばらくはお金の方を優先してもいいかもしれない。


「今日はメンバー探しをしようと思うんだ」

「そう、じゃあ私はいつも通りダンジョンに行くわ。一人の方がやりやすいでしょ」

「そうだな。あとで合流するよ」


 わかったと言って、彼女は小走りに駆けていった。

 一人になった俺は、さてどうしたものかと途方に暮れる。ステータスを見せてくださいなんて言うのはかなり無理なお願いだろう。市場にいる人に話を聞いてみたりもしたが、そろって他人のステータスなど覚えていないというような反応だった。


 しばらく聞き込みをしていると、昨日話をしたコウタを見つけた。気軽に声をかけて、世間話のつもりでメンバーを探していることを話してみた。


「誰でもいいってわけじゃないとなると難しいですよね。そういえば、奴隷を買うときはステータスウインドウを見せてくれましたね。──いやいや、変な意味で買おうと思ったわけではなく、この商売を任せられるぬいぐるみのことをコンパニオンって呼ぶんですけど、テレビでも奴隷のことをコンパニオンとか言ってたんですよ。それで、初心者の頃に勘違いして行ったことがあるんです」


 確かにNPCという手もある。クリストファのように、いまだ冒険者のままの奴だってNPCの中にはいるだろう。とりあえず、奴隷商のところに行ってみるのも悪くない。言葉の響きの怪しさから言っても一度は見ておきたい。

 マップを拡大して探すと、市場のすぐ近くにその建物を見つけることができた。コウタに別れを告げて、俺は奴隷商館を目指した。


 着いてみると非常に大きな建物で、怪しげな雰囲気など微塵も感じられなかった。でかでかと看板まで飾り、女の子の写ったポスターのような写真に値段が書かれている。

 その奴隷商館の右手より裏路地には、風俗街のようなものがあって、そっちの方が何倍も怪しげな雰囲気を発していた。そっちは、もう少し周りに人がいる時間にでもならないと、面白半分に足を踏み入れてみる気にもならないほどだ。


 武器を担いだ男女が道脇にたむろして酒を飲んでいるし、地面には赤黒い染みが所々に広がっている。しかも視界には犯罪者が近くにいるという警告表示まで出ていた。

 奴隷商館に入ると、いきなり揉み手をした男に、いらっしゃいませと迎えられる。俺を出迎えたのは、金ピカのアクセサリーに、気を使っていなさそうなシンプルな服を着た男だった。なんだろう。どんなゲスなことでも世間話のように気軽に相談できそうなオーラを纏っている。


「こんにちはどのようなご用件でございましょうか」

「奴隷を見せてください」

「どういったコンパニオンをご所望でしょうか」

「特定のステータスを持った奴隷が欲しいので、全部見せてくれませんか」

「なるほど。変わったご要望ですがお応えいたしましょう。あまり気軽にお見せできるコンパニオンばかりではございません。お見せできるものだけでよろしいですか」


 俺はかまいませんと答えた。するとこちらへどうぞと二階に案内される。広い部屋に通されて、ソファーに座って待つように言われたのでその通りにした。

 しばらくして、人間と亜人の区別なく大量の奴隷が連れられてきた。


 まずは戦闘から雑用までの用途に使える奴隷でございますと奴隷商が説明してくれる。ステータスウインドウを出すように言ってくれたので、俺はそれを端から眺めていった。

 さすがに冒険者というのは一人もいなかった。クリストファは貴族だったし、奴隷になるような境遇で職業に就いていないというのはありえないのだ。

 まあゲームなので、奴隷になった境遇が設定されているだけだろう。


 見た限り有望そうなのはいなかった。さすがに、これだけの人数がいて一人もいないとなると、もはや絶望的と思えてくる。これで全部ですかと尋ねると、いいえと言って、全員下がらせて、また新しい人たちを大勢連れてきた。


「こちらがセクシャルコンパニオンになります」

「性奴隷ですか」

「そのような言い方をされる方もいらっしゃいます」


 あくまで正しくない表現だとでも言いたげな様子だった。連れてこられたのは男も女もみんな若い。かなりの美人も混じっていて、もしかしたら、この世界に連れてこられた奴らで早い者勝ちなのかという疑念が生まれる。そうだとしたら、俺もうかうかしていられない。

 それにしても猫やら狐やら、かわいらしい耳や尻尾が生えていて、見た目にも癒される。


 俺はもう一度、全員を見て回ったが、やはりお目当てのものは見つけられなかった。肩を落とす俺に、いませんでしたかと言いつつ奴隷商の男も肩を落とした。

 奴隷商館を出る前、ついでに値段を聞いてみると、俺好みの顔をした獣人が二年契約で約400万ゴールドという値段だった。さらに上もあって、数千万という額を聞いて気が遠くなった。

 たぶんゲームクリア直前のボーナスみたいな扱いだから、そんなふざけた値段設定なのだ。


 奴隷商館を出て、そろそろクレアと合流しようかと考えた。

 あまりの収穫のなさに肩を落として歩き出すと、スラム街の方からすすり泣くような声が聞こえてきた。声のする方に行ってみると、ぼろを着た少女が、壁にもたれかかって膝を抱えながら泣いているのを見つけた。

 変なクエストが始まったりしないでくれよと思いながら、俺はその少女に話しかけた。


「何があったんだよ」

「ほっといってくれ」

 俺は一目見てなんとなく彼女の境遇がわかってしまった。彼女には『出来損ないの銃使い モーレット・レインウォーター』と表示されている。

「レベルが上がるまで俺たちと一緒にやるか。変な称号を付けられて困ってるんだろ」


 俺の言葉に反応して、彼女は泣き濡れた顔を上げた。薄汚れて、顔は真っ黒になっている。ずだ袋で作ったワンピースのようなものを着た小柄な少女だった。


「何があったのか話してみろ」


 俺がモーレットの隣に座ると、彼女はぽつりぽつりと語り始めた。その話はクレアと似たようなもので、役に立てなくてパーティーに居辛くなり、一人になったはいいがモンスターを倒すこともできないとか、そういう話だった。


「行き倒れ寸前のところで、今のギルドの奴らに拾われたんだ。でも、そいつらは面倒なことに巻き込まれてて、今はそれどころじゃねーんだ。世話になったから、アタシだって力になりたいのに、何もできないんだよ。スライムしか倒せねーんだぞ。どうしてアタシだけこんな目に合うんだ。メシ代すら稼げないぞ!」


「素手で戦ってるのかよ。だけど、一人で稼げないなら、他の奴と組むしかないだろ。レベルが上がるまで俺たちと一緒にやったらどうだ。宿代くらいは稼がせてやるぜ」


「下心があるんじゃないだろうな」

「鏡を見てみろよ」

「本当に役に立たねーぞ。ふざけた呪いにかかってるんだ」


 そう言ってモーレットはステータスを見せてくれた。

 この世界に連れてこられた奴らは、揃いも揃ってボンクラばかりなのだろうか。彼女は技術に6振った魔銃士だった。称号の効果は攻撃力と攻撃命中率の低下30%だ。

 この瞬間から、俺には彼女がダイアモンドの塊にしか見えない。磨かれていなくたって、ダイアモンドはダイアモンドだ。


「この世界に携帯電話のような機能はないのか」

「伝心の石ってのならある。高いぞ」


 俺はモーレットを連れて市場に行った。そして、伝心の石(5秒)を500ゴールドで買った。すぐにクレアに連絡を取って市場で待ってる旨を伝える。

 日の当たるところに出ると、モーレットの汚れ具合はとんでもなくて、近くを通る人がみんな振り返るほどだ。それにしても、ひどい臭いがする。


「クレアが来るまでに風呂にでも入って来いよ。そこに銭湯があるからさ」

 俺が金を渡すと、モーレットはサンキューとネイティブっぽい発音で言って銭湯に入っていった。それから、しばらくしてクレアがやってきた。

「新しい仲間は見つかったの?」


「ああ、ひどい格好だったから今は風呂に入ってもらってるよ。それで、武器をなにも持ってないから買ってやりたいんだけど、金を貸してくれないか。俺はもうすっからかんだ」

「いいわ、見て回りましょ」


 まずは銃を見て回る。銃と言っても火薬を使うものではない。魔力によって作られる魔弾を打ち出すためのもので、弾は買う必要がない。弾は魔力によって作られるが、ダメージは完全な物理ダメージしか与えない。魔力によって作られる銃弾は排莢も必要なため、連射が利くものではないし、慣れなければ移動しながら撃てるものでもないだろう。

 攻撃力と命中率まで下げられてしまっては、一人で敵を倒すことなど不可能だ。


 切り詰められたショットガンのような攻撃力39のパラキートという銃を一丁買った。服も持ってないというと、クレアは蜘蛛の糸で作られたシャツとスパッツ、それに革のジャケットとブラウス、革のショートパンツに革のブーツも買った。サイズは装備するときに調整してくれるので、女物であれば大丈夫とのことだった。

 これでモーレットの防御力は46である。


 まだ学生服を着ている俺よりもモーレットの方がいい装備になってしまった。体力にもポイントを振っていない俺やモーレットは軽鎧までしか身に着けることができない。それ以上に重たい装備は重量オーバーとなって移動などに制限が付くようになる。

 体力が初期値の場合は、所持できる重量は450までである。単位はわからなが装備にはそれぞれ重さが設定されていて、バスターソードだけでも220もの重さがあった。


 重さのほかにも、盾と名の付くものは、騎士が付く職業、つまり騎士と聖騎士しか持てないなどの制限もある。俺は剣であれば短剣でもダガーでも装備できるが、刀や忍者刀などは剣の部類に入っておらず、刀と識別されているので装備不可だ。

 だから盾が装備できない以上、両手剣を使うのが効率がいいだろうと、俺はバスターソードを買ったのである。


「いい女連れてるじゃねえか」


 ゴロツキにでも声をかけられたかと思ったら、後ろにいたのはモーレットだった。銭湯の外にいなかったので市場通りにまで出てきたらしい。

 それにしても。汚れを落としたモーレットは、ショートカットの金髪に癖のない顔つきで、白い肌がまぶしいくらいの美少女だった。


「あら、貴女は……」

「同じ学校だな。見たことあるぜ」


 クレアは俺の家の近くにある女子高に通う生徒だったはずだ。その女子高には外国人も多く通っていると聞いたことがある。


「ごめんなさい。私は覚えてないわ。きっと学年が違うのね」

「アタシは2年だったからな。でもクレアのことは知ってるよ。学校で有名人だった」

「そう、じゃあモーレット、これからはよろしくね。貴女も変な称号を付けられて大変ね」


 モーレットはまあなと言って笑った。

 クレアから装備を渡されて、モーレットはそれららをその場で装備し始めた。インベントリを操作するだけでも身に着けることができるので、人目をはばかる必要もないのだろう。それでもクレアは、それをとがめるような目つきになる。

 確かに、あまり品の良いものではない。


「それで、これからどうするんだ」

「ダンジョンで蜘蛛を倒そうと思う。今の状況で金を稼ぐには、それが一番効率いいはずだからな。しばらくは蜘蛛の糸を売って装備を揃えよう」

「アタシはそれでいいぜ」

「それと、行く前にクレアに頼みがあるんだけどいいか」

「何かしら」

「武器をレイピアに換えてほしいんだ。その大きな剣を振り回すのは大変だろ」

「そうでもないわよ。この世界に来てから、重たいものでも持てるようになったの」

「それでも、レイピアの方が速く正確に動かせるからさ、その方が俺たちにとって都合がいいんだ」


 クレアは素直に納得してくれた。

 今の彼女は低い攻撃力を補うために、かなり大ぶりで肉厚の片手剣を使っていた。それを売り払い、細身のレイピアを一つ買った。突くだけじゃなく切ることもできるやつだ。


「これでいいわね。それじゃあ行きましょう」


 その前にパーティーを組もうと提案して、俺たちはパーティーを組んだ。クレアとモーレットの頭上にHPとMPのバーが表示される。視界の端にも表示されているので、二人が視界外にいても状況を確認することができるようになっている。

 ダンジョンに着いて中に入ると、さっそくスパイダーがやってきた。この蜘蛛は足が速く、遠くからこっちを見つけてやってきてくれるので、かなり効率のいい狩りが出来そうだ。


 すぐにクレアがスキルで引き付けてくれたので、俺は背後から斬りかかった。このモンスターは回避の数値が高く設定されているらしく、俺の攻撃はするりとかわされてしまった。しかも蜘蛛と言ったって幅二メートル半はある。


 蜘蛛の攻撃はクレアのHPを減らしているが、危ない感じは全くない。糸を吐きかけられて動きにくそうにしているが、それもさほどの影響はないだろう。

 昆虫独特の硬い殻におおわれて、俺の攻撃ですら弾かれたような手ごたえがある。それでも数発攻撃を当てると動かなくなった。


 ドロップは111ゴールドと蜘蛛の糸だった。確かにオルトロスよりもゴールドのドロップは少ない。しかし蜘蛛の糸の買取価格は250ゴールドもある。


「やっぱりアタシの攻撃は当たんねーや」

 ランク4のモーレットでは、俺以上に攻撃が当たらないだろう。しかし、その対策は考えてある。そのためのレイピアでもある。

「クレア、チェインリーシュは使えないのか」

「そうよ。そうすればいいのよ」


 騎士のスキルには、鎖で敵を地面に繋ぎ止めるものがある。スキルを使って最初に攻撃したものを、その場に繋ぎとめるのだ。ランク28の彼女は、もう使えるようになっている。相手の回避率を大きく下げてくれるので、それなら俺たちの攻撃も当たるようになるだろう。

 次に現れたスパイダーはクレアの攻撃によって地面に繋ぎ止められた。そこにモーレットの攻撃が当たって、派手なエフェクトが現れる。


 その敵はさっきよりも少ない数の攻撃で光の粒子に変わった。

 銃使いには遠距離クリティカルが出るように設定されている。たぶんそれが出たのだろう。三倍近いダメージが出たものと思われる。


「アンタ凄いな。本当に当たったぞ」


 それから数時間、ひたすら蜘蛛だけを倒し続けた。悲しいことに、最初に音を上げて昼飯休憩を言い出したのは俺だった。力も体力も初期値のままで、このでかい鉄の塊を振り回していたのだから当然だ。まだ昼だというのに、体がバキバキである。

 敵が出にくい休憩用の広間のようなものがたまにあるので、その一つを選んで中に入った。


「ほら、モーレット。メシの実をやるよ。好きなの取ってくれ。クレアも」

「じゃあ、お言葉に甘えまして」


 と、クレアが取ったのはサンドイッチで、モーレットが取ったのはハンバーガーとポテトのセットとカレーだ。俺はかつ丼ときつねうどんを選んだ。

 クレアが飲み物を出してくれたので、俺は疲れていたこともありサイダーをとった。モーレットはオレンジジュースで、クレアは紅茶を選んだ。

 紙コップのような形をしていて、名前はノミの竹とある。飲み物が入った竹があって、それを節のところで切り離すと飲み物になるのだろうか。疑問に思ってクレアに聞いてみると、俺の想像通りの答えが返ってきた。


「森の中に行けば、たまに生えてることもあるわよ。それに、食べたり飲んだりするのが終わると、種になることがあるの。街中に植える人もいるから、たまに生えてたりするのよね」

「あれにはアタシも世話になった。だけど、こんな店に売ってるようなメニューじゃなくて、白米だとか、水だとか、そんなのしかないんだ」

「収穫して、農作のレベルを上げたら、まともな物が作れるようになるかもな。だとしたら、そっちも上げておきたいよな」


 収穫を誰か一人に集中してやらせることで、アドバンテージを得られるかもしれない。もしNPCの店が品切れになった時に、ちゃんとした食べ物が作れたら金になるのは間違いない。色々やってみたいことが増えてくる。


「それにしてもさ、剣が滅茶苦茶に重たいんだけど、これってずっとこのままなのかな」

「ランクが上がるとそうでもなくなるわ。どんどん軽く感じるようになるわよ」


 クレアが鋼鉄に覆われた腕を振り回して見せてくれる。こんな鉄の塊を着て普通に動けているあたり、体力アップによる所持重量増加の恩恵は大きいらしい。こんなことを続けているうちに筋肉がついてる可能性も否定できない。こんな可憐な見た目で、中身は筋肉ムキムキの可能性もある。


「そういえば、騎士って魔法が使えないんだろ。でもライトの魔法を使ってるよな」

「そういうネックレスがあるのよ。ネックレスは魔法を使えるようにしてくれるものがほとんどよ。貴方は魔法が使えるの?」

「クラスⅠまでな。たしか魔銃士も同じだろ」

「どうかな、覚えようと思ったことがねーからな。だけど、ユウサクたちとやってると、やたらとランク上がるのが速いぜ。もう7になったもんな」


 俺はランク11になっていた。かなり頑張っているのに、ランク10からは異様に上がるのが遅くなっている。むしろランク10までは初心者ボーナスのようなもので上がりやすいのかもしれない。ランク10くらいでこの感じだと、後々の方はかなりのものになりそうだ。

 昼飯を食い終わって、午後も同じことを続けたが、二時間くらいするとあまりに疲れて剣を振る気力もなくなってきた。


「だらしねーなぁ」


 そんなことを言っているが、モーレットはただ銃を撃ってるだけだし、クレアはレイピアを振り回しているだけなのだ。俺だけが全身の力を使って剣を振り回している。

 それにしても、この二人のやる気は凄くて、俺ですらついていけないほどだ。ゲームのレベル上げを実際にやったら、こんなにも疲れるものだとは思わなかった。


 とうとう俺は剣に寄りかかって二人の戦いぶりを見ているだけになってしまった。ついていくだけで精いっぱいだ。

 帰りはリコールスクロールもないので歩いて帰ることになった。


「インベントリの中に入れたら重くなくなるわよ」


 剣を引きずって歩く俺に、クレアがくれたアドバイスだった。確かにインベントリに入れたら歩くのも楽になった。

 外に出ると、すっかり日も暮れてしまっていた。一体、何時間やっていたのだろう。

 こんな時間になっても開いていた売買用コンパニオンに触れてウインドウを呼び出し、今日出た蜘蛛の糸を売ることにする。


 半分も売らないうちにコンパニオンの所持金がなくなってしまったので、残りは他のコンパニオンに売った。蜘蛛の糸82個と蜘蛛の爪38個、すべて売って約32000ゴールド。それにモンスターが落とした約1万ゴールドを合わせて、約4万2千ゴールドが今日の稼ぎだった。

 すぐにそれを三人で分けた。


「とりあえず、開いてるうちに銭湯に行きましょ」

「それがいいな。クレアもユウサクもだいぶ臭くなってるし」

「な、なんてこと言うのよ。私はちゃんと香水も使って、気を使っているのよ」


 銭湯でシャワーを浴びてから、宿についてる食堂で飯を食べ、俺たちは各自の部屋に入った。

 シャワーで汗を落としても、服に着いた臭いまでは取れない。俺は外にあった井戸で服を洗うことにした。

 パンツ一丁で誰かに見られたらどうしようかと思いながら素早く洗う。パンツだけでも替えのものを買わないとだめだろう。それを部屋に干してから眠りについた。

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