ムギさんと僕

吉岡梅

ムギさんとコーヒー

 がたんごとん。

 喫茶店は走る。

 ムギさんと僕は、窓の外を流れる星空を眺めてコーヒーを飲んでいた。


「ねえムギさん、黒猫が黒いのは、ひょっとしたらコーヒーを飲んでいるせいじゃないのかな?」


「君は小さな頃からときどきわけのわからない事を言うね」


「まあ聞いてよ。そもそもコーヒー豆というのは、思わずあふれ出した甘い・苦い思い出がこぼれ落ちた物じゃない? それを胸で焦がしてより分けて、ミルで挽いて作ったものがコーヒーなんだから、そういうものをぐっと飲み干している猫というのは、みんな黒猫になるのじゃないのかしらん。


 つまり、黒猫というのは、みんなけっこうな大人なんじゃないのかな。産まれたときは白猫でも、だんだんコーヒー色に黒くなるんじゃないのかな。ねえ、そうなんでしょ?」


「そんなふざけた話、ぼくに聞かれてもなあ……」


 コーヒーを飲む僕の正面で、黒猫のムギさんは困ったように尻尾をゆらゆらさせていた。

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