毒林檎寿司
卯月
毒林檎寿司
「鏡よ鏡、この国で一番美しいのは誰?」
「后よ、それは、森の中の小人の家で暮らしている白雪姫」
魔法の鏡の答えを聞いたお后は、猟師に命じて殺させたはずの白雪姫が、まだ生きていることを知ります。
今度は自らの手で、邪魔な白雪姫を確実に殺そう。と、一つの恐ろしい方法を考えました。
七人の小人たちが山へ仕事に出かけ、白雪姫は森の中の家で一人、留守番をしています。そこに、外から誰かがトントンと戸を叩く音。
「はーい、どなた?」
白雪姫が窓から顔を出すと、戸の前には、寿司屋の店員の格好をした、見知らぬおばあさんが立っていました。実は、白雪姫を殺そうとしている悪いお后の変装なのですが、白雪姫は正体に気づきません。
「可愛い娘さん、こんにちは。ワタシは、通りすがりの宅配寿司です。配達に行った先の家が不在で、このままお店に持ち帰っても、廃棄するしかないのよ。良かったら、この寿司を食べてくれませんか?」
「でも私、誰からも何ももらってはいけない、って言われているの」
「変な物など入ってませんよ。ワタシも一緒に食べるから。ほら」
皿の上に乗っているのは、酢飯に刻んだ林檎を混ぜ込んで握った、林檎寿司。おばあさんは、二つあるうちの片方を手でつまみ、とても美味しそうに食べます。それを見て我慢できなくなった白雪姫は、
「私もいただくわ!」
と、もう一つの寿司に手を伸ばしました。
「何これ、口の中に広がる! 美味しい!」
初めて味わう食感を、絶賛する白雪姫。
しかしお后は、片方の寿司だけに毒林檎を混ぜ込み、自分は安全なほうを先にとっていたのです。毒林檎寿司を食べた白雪姫は、すぐに毒が回って死んでしまいました。
悪いお后が熟練の技で握った毒林檎寿司は、白雪姫の口の中で程よくシャリがほどけ、林檎が喉の奥に引っかかることもなく。
後に外国の王子が、ガラスの棺を部下に運ばせて、どれほど棺を揺らしても、死んだ白雪姫が目覚めることはありませんでした。
毒林檎寿司 卯月 @auduki
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