第40話「第二章」その26

「先遣部隊が対処を始めました」

 桜橋の南の水面上に阻止機能を兼ねて構築された前線拠点には、第三十五普通科連隊長などの幹部も駐在している。雨は激しくなっているが皆そのまま雨に打たれ、それを気にする素振りもない。

「こちらも作戦を開始する。総員準備!」

 こちらでは先遣部隊が処理しきれなかった個体を最終的に掃討することになっていた。使用する機材は先遣部隊と同じく八九式小銃が中心。だが万が一に備えそれより威力の高い重火器も準備されている。

「しかし、市民団体が」

「──どこから入った」

 隊員が指摘するように、堀川の両岸には動物愛護を訴える団体や自衛隊の違憲性を訴える団体などが続々と集まってきていた。彼らは自衛隊とは対照的に傘をさし、

『動物を守れー!』

『自衛隊は撤退しろー!』

 続々と掛け声が上げている。それを聞き、銃を構えている隊員達が躊躇いを見せるのを、隊長はすぐに気付いた。

「どうしますか」

「個人的にはマルタイをあいつらにぶつけてやりたい気分だが、自衛隊はそんな市民でも守る義務がある。このまま作戦を続行する!」

「マルタイ確認、川面中央、伝馬橋付近!」

「構え!」

 隊長の、拡声器を通さずとも周囲を圧倒する声で隊員達は銃口を一定ポイントに向ける。

「まもなくポイントに到達」

「撃て!」

 市民団体のシュプレヒコールを遮り、発砲音が大きな塊として轟いた。そして巨大ウナギは最後の抵抗か思い切り水を巻き上げた後、水中に沈んでいく。巻き上げた水は周囲に掛かり、市民団体のメンバーの一部は悲鳴を上げる。一方自衛隊の方はお構い無し。そんなこと、当然だからだった。

「概ね命中の模様」

 監視役の隊員が報告する。それを聞き、隊長は続けて

「次弾準備!」

と大声で指示。市民団体は再びシュプレヒコールで応戦したが

「構え!」

 もう彼らは怯まない。

「マルタイ確認!」

「重火器の使用許可が出ました!」

「了解、次から使う。──撃て!」

 さらに銃弾が放たれ、銃身は雨がすぐに湯気へ変わるほどの加熱状態になる。

 先遣隊の弾の手持ちが無くなった第三射以降は対処する数も格段に増えたが、それに合わせるように機関銃MINIMIなど強力な武器が次々と投入され、上陸する個体はない。水面はだんだんと、巨大ウナギの亡骸で埋め尽くされるようになった。

「次でひとまず区切りです」

「了解。──撃て!」

 計三十二回。総計六十一体のマルタイを撃破し、自衛隊は下流へと移動し始めた。

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