第37話「第二章」その23

『愛知SATワンより大阪指揮、指示地点のマルタイのうち最前列を撃破』

『大阪指揮了解。引き続きミッションを実行せよ』

 愛知県警機動隊特殊急襲部隊の別動隊(愛知SATツー)にとってそれは励みにもなるし、ライバル心を燃やすきっかけでもあった。

「部隊移動。JICA前のマルタイを狙う」

 それは小さな声での指令だったが高感度マイクで無線機に伝えられ、隊員達の耳へ。秘匿作戦を実施するための連絡手段として装備に加えられている。

 JICA中部が置かれた建物はささしまライブ24地区でも北の方に位置する。その南方には民間ビルの建設計画があるものの、工事はまだ着手して間も無く巨大ウナギの進行を妨げる壁とはなっていない。しかも一部個体がそこで留まっているため、大阪府警のSATが狙撃するには距離が遠すぎた。

「愛知SATツーより大阪指揮へ。これよりJICA前の掃討にかかる。マルタイのデータを提示願いたい」

 これは銃弾の補給が出来ないことが予想されたため、最低限の弾数で自体を遂行することになっていたからである。「愛知SATワン」は弾薬輸送車を随行させているため、全身をまんべんなく撃つことで動きを止めさせていた。

『……大阪指揮より愛知SATツー、名古屋指揮に問い合わせるのでしばし待て』

 何だと、と指揮との通信を担当していた隊員は思う。SATの行動には即断が求められる。情報を持っていないのなら持っていないでそう言ってくれた方が都合がよい。

「愛知SATツーより大阪指揮、なら構わない!」

 部隊はJICA前に移動する。中部管区機動隊の一部が北側から押し返している状況のため、手間がかかるがSATもそちらに回り込まざるを得ない。

「各隊員へ、前線個体から制圧する。弾薬使用許容数は──」

『大阪指揮より愛知SATツーへ。名古屋指揮より弾薬輸送の申し入れを受けたので向かわせる。なお名古屋指揮も詳細な生態は調査中、尾頭橋でごく少数の検体が提供可能なため自衛隊と共同で専門家を派遣していると』

「了解。──各員傍受したな。弾薬使用は極力抑制、しかし躊躇わず撃て」

 矛盾したように聞こえる命令だが、そうではない。

 部隊は映画館などの複合施設「ラ・バーモささしま」やライブ施設「Zeep Nagoya」の横を通りJICA敷地内へ。そこから機動隊の後方に回る。

「愛知SATツーより大阪指揮へ。現場部隊の指示を頼む」

『了解。──大阪指揮より中部管機三へ。SAT現着、前線に入れろ』

 すぐに中央部付近が空けられる。SATはそこへ、突入した。

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