第36話「第二章」その22
「愛知SATワン、アンダーパスへいって支援せよ」
名古屋臨海高速鉄道あおなみ線・ささしまライブ駅コンコース。ここに置かれた笹島現地指揮本部(大阪指揮)では地区内の作戦要員からもたらされた情報をもとに、地図上に敵味方の位置を示したマーカーが置かれた机が設置されている。それによるとアンダーパス内に設けられた交差点に巨大ウナギ個体が三つ集中しており、射殺を前提とした対処が求められていた。
『愛知SATワン、了解』
現在アンダーパスを守る中部管区機動隊もある程度の火力は有するが、あくまでもそれは抑止力程度に過ぎない。国家予算が充分に配分されたSATとは段違いである。
「名古屋指揮より、警視庁が到着するので応援は必要かと確認が」
現地指揮本部に詰める大阪府警所属の連絡員が本部長を務める藤村警備第一課長補佐に伝える。
「SATが含まれるか判るか?」
「含まれないそうです」
「なら……南側から固める方向で、半分くらいを要請しておけ」
「承知しました」
一方、地下アンダーパス内交差点。コンクリート梁が上空を渡る狭い空間の中で紺色に身を固めた機動隊員達が、土嚢を積みその上に透明プラスチック製の大盾を立てていた。そこに巨大な黒いホース──ウナギが迫る。
「田沼分隊、東側へ!」
「南も攻めてきます!」
「遠藤分隊押さえろ!」
中部管区機動隊第一中隊が配置されていたこの場所だが、巨大ウナギが攻め寄せてくる勢いを何とか止めるだけで精一杯である。一時的に押し返すことが出来ても重傷者を発生させないようそのタイミングで交代を図るため、結果として元の状態へと戻ってしまうのだ。
『大阪指揮より中部管区一へ。SATをそちらに向かわせた』
「平塚分隊、南側で入れ変わる準備!」
その場を預かる第一中隊長は、その無線を聞き流してしまう。それぐらい過酷な現場であった。
そこに真上から銃撃が加えられる。さらにロープがコンクリート梁から下がり、真っ黒に全身を覆った隊員達がそれを伝って降りてくる。ロープは道路面には着かず、大体高さ一・五メートル辺りで留まっていた。SAT隊員はロープを足に絡ませ、座るようにしながら体を安定させる。そしてサブマシンガンMP5を対象に向け発砲。反動でロープは振り子のように振れるが、銃弾が大きく外れることはない。薬莢は路面へと音を立てて落ちていく。
全隊員が撃ち終わったとき、再び動く巨大黒色物体はなかった。
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