第35話「第二章」その21

『愛知SAT、攻撃開始!』

 現地指揮本部からの無線指示を受け、私立大学キャンパスの二階の窓から銃口を出していた愛知県警機動隊所属の特殊急襲部隊の隊員達が一斉に引き金を引く。マスコミがヘリ取材をする可能性があるので、ヘルメットをはじめとしてほぼ全身を覆ったフル装備である。出ているのは唯一両目のみ。狙うのはもちろん巨大ウナギの本体。日頃から訓練を重ねているため、重装備でも作戦に支障はない。銃身が小刻みに揺れ、前に銃弾が、横に薬莢が次々と排出される。そしてその動きはまた、一斉に止まる。

「状況確認!」

 狙撃を監督しているSAT小隊長が声を荒らげて言う。確認役の隊員が双眼鏡を片手に

「全弾命中の模様。目標に対する効果は不明」

とだけ返す。

「全隊撤収、地上(部隊)の支援に向かう」

 小隊長は冷静に、次の行動を指示した。ここで撤収を始めたのは、敵味方入り交じった状態での狙撃は困難を伴うからである。戦力の有効活用をするには、直接討って出た方が都合がよい。

「愛知SATワンより大阪指揮へ。撤収する」

『大阪指揮了解』

 現場には大量の薬莢が残され、破られた窓ガラスの破片と共に床面を覆う。しかし隊員達は音をほとんど立てず、一階に下りていく。そういう訓練を専門にしているからであった。

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