第31話「第二章」その17
「よし、上手く撒けたな」
「しかしまだ到着したばかりですよ? 準備はまだ出来ていません」
一方先頭を走る高機動車内では、指揮官として交渉役を務めた自衛官がほっと一息をついていた。実際は架橋部隊が架橋を行う場所に着いたという報告だけで動いており、それが向こうに知られたらもっと過酷な状況に陥っていた。
「矢田川橋の集結状況は?」
「偵察からの報告では、橋げたの上のみだと」
「なら連絡がいく前に堤防道路へ入る」
「了解です」
一旦守山交差点まで戻った部隊は瀬戸街道を進むと矢田川橋北側から堤防道路へ入り、左岸堤防道路を通ってJR中央線アンダーパス部に到着した。架橋部隊の尽力で既に仮設橋(橋台を浮島にした簡素的なもの)は架かっており、ノンストップかつ慎重にその橋を渡っていく。
橋を渡るとさらに西へ。国道十九号・天神橋南詰から南方向に入る。大曽根付近で右に曲がった後何車線もあるコンクリート舗装の道路を走り抜け、赤塚交差点から出来町通西方向へ。名古屋城外堀を跨ぐ清水橋を渡り、名古屋市役所の前を通り抜け、愛知県警本部を横目に見つつ、三叉路である三の丸一丁目信号を左に曲がる。ロ状に歩道橋が架かる日銀前交差点で施設科が急ピッチで作り上げた防御壁の切り欠き部分に突き当たり、そこを通りつつ桜橋とその南側の伝馬橋の間の堀川上に設置された、自衛隊作戦拠点へ。
そこには警察側の連絡員が立っており、着くなり指揮官に言う。
「尾頭橋、突破されました!」
それを聞き指揮官は青ざめる。そしてすぐに
「総員戦闘配置! パターン三、川面を注視しながら前進、可能なら錦橋まで動く!」
新たな指令。作戦は状況を違えた複数が用意されており、パターン三で想定されたのは中程度の深刻度。最良は尾頭橋で充分な準備をした上での対処・最悪は上飯田付近での市街地戦だったのだから。
その様子を中継していたAMB(愛知無線放送)は、こう伝える。
『たった今丸の内に到着した車輛、そこから迷彩服を着て小銃を持った隊員達が慌ただしく降りていきました。自衛隊に反対する市民団体が進行を妨げているという情報が入っているなかでも無事到着し、初の治安出動となったこの事案、果たして解決することは出来るのでしょうか』
それはAMB本社まで無線で、そこから東京キー局までは回線によって転送され、全国の系列局から家庭のテレビまで届けられる。この現場から中継したのは唯一、ここだけであった。
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