第30話「第二章」その16
「なるほど、了解した。──部隊移動、西に向かう!」
宮前橋上で膠着状態にあった自衛隊と市民団体のにらみ合い、先に動いたのは自衛隊の方だった。無線でとある報告を聞いた指揮官は部下に命令し、車輌を後退させ始める。
「……何?」
阻止側の市民団体「平和憲法を堅持する会」代表もその動きには不審感を抱かざるを得ない。単なる撤退なら目的を達成したことになるのだが、そんなに簡単にいくとは彼でさえ思っていない。アピールが出来ればそれで十分、無理矢理にでも突破してくるだろうというのが大方の予想であった。
「我々市民の行動に感服して、退くというのか!」
強がって言ったはいいものの、心中は疑問で渦巻いている。動揺も少し、声に表れていた。
「いえ、文民統制の観点からいって不可能です。ただ強引に突破するのは印象が悪いので──」
「退かない、と?」
代表が割り込み、指揮官の台詞は中断する。一呼吸置いて、
「橋がなければ、架ければいいんですよ」
「……!?」
代表はそれを聞き、唖然。そして衝撃は、他の運動家達にも波及する。自衛隊が退き始め、その姿が消えた後も、誰もその姿を追わない。
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