第29話「第二章」その15
「放水、始め!」
四駆の指揮車(機動隊カラー)のルーフに取り付けられた指揮台、そこに乗る小隊長の合図で放水銃から勢いよく噴き出された水は、上陸しかけていた巨大ウナギの体に当たる。機動隊が暴徒鎮圧のため持っている装置で、水槽車を兼ねた特殊車両にそれは取り付けられている。その吐き出し能力は並々ではなく、原子力発電所における炉心溶融・建屋爆発事故で核燃料プールへの冷却水の補給手段として使われた程である(ただし失敗したという報道が先行したため、成功していたという成果はあまり知られていない)。その威力では当然ダメージを受けるし、「向こうも気付く」。
「撤収!」
再び小隊長の合図。放水車はアイドリング状態で停まっていたためすぐに動き出す。小隊長もその場で屈み、指揮車は急発進した。雨は激しくなってきているが、アスファルトが敷かれた部分を走ったためぬかるみにはまる心配はない。
そしてここからは、体力戦。分隊単位で固まった一般隊員が、端は手前に・真ん中は奥になるよう配置されている。いわゆるそれは鶴翼の陣。戦国の世から有利とされる陣形で、敵を奥まで誘き寄せる作戦である。
「そうだ、まだ出るんじゃないぞ……」
先程とは別の小隊長が、近隣の隊員を手で制しながら呟く。船溜まり付近での交戦は他の個体の上陸を阻害してしまうため避けることとされている。上陸出来なかった個体が別の場所に上陸する恐れがあるからだった。機動隊はじりじりと後退していく。
先頭のそれがJICA中部の入り口辺りに差し掛かった頃、
『攻撃開始!』
愛知SATによる銃撃を合図に、戦いは始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます