第28話「第二章」その14

 名古屋駅南、ささしまライブ24地区。こちらには大阪府警の応援部隊のうち、指揮系統とSAT(特殊急襲部隊)が駆け付けていた。指揮系統の応援は府警警備部警備第一課長補佐の藤村 智警視率いる十名で、この地区だけではなく名駅以西の部隊(といっても応援だけだが)の指示も行う。笹島南地区での指揮権限も中部管区機動隊長から彼に移され、指揮系統全体の二元化が図られた。

「マルタイの状況は」

 現地本部が置かれているささしまライブ駅に入るなり、藤村は訊く。

「中川運河周辺の個体はこちらへ誘導しています。間もなく先頭が到着するかと」

「他方は?」

「かなり厳しい状況です。突破されるのも時間の問題、自衛隊到着とどちらが早いか……」

 答えるのは中部管区機動隊長。藤村は移動中も絶えず情報を集めていたため、最低限の確認で終える。

「解った。ではまず無線について、向こうと区別するためこちらは『大阪指揮』のコールサインを使うことを各隊に伝達。そのうえで、まず防衛線に──」

 藤村の立てた作戦のうち、新たに決まったのは主にSAT関連のことである。まず防衛線となった鉄道線路の要所要所にSAT隊員を配置する。これは狙撃要員であり、あおなみ線はささしまライブ駅、東海道線はJR名古屋駅ホームからの進入経路をとるため担当は大阪SATとなった。愛知SATは地上に下り、大学キャンパス等の建物を活用しながらサブマシンガンで巨大ウナギの急所を狙い怯ませる。一方機動隊員はジュラルミン製なり透明プラスチック製なりの盾で、集団になって押し返す。

「──なお行動は分隊単位とするが、退くときは潔く退くよう。退却路は『ラ・パーモささしま』付近とアンダーパスの二ヶ所とする。以上を申し渡せ」

 配下九名が分担してそれぞれ異なる無線系にこれを発信する。そして

『誘導一より大阪指揮へ、先頭は合流点を通過。催涙弾投入で北へと向かわせました』

「よし、ではそこに留まり誘導を続けろ」

 実はこの「合流点」こそが誘導段階でのヤマだった。一方は笹島南地区の船溜まりに着くのに対し、もう一方はほぼ真東に折れ堀川へと向かう。堀川との接点には水位差を調整する閘門が設けられていたが、現在は使用されなくなり、埋め立てられている。つまり、上陸を許すことになるのだ。しかもそこは尾頭橋の上流側。自衛隊はまだ、到着していない。

『偵察班より大阪指揮、運河面に目標視認』

 続いて名古屋高速五号万場線の高架上に派遣されていた、大阪府警所属の別動隊から無線連絡。高速高架は高さがありすぎるためここからの狙撃は難しいが、状況を確認するには打ってつけである。

「了解」

『以上交信終了』

 藤村は無線マイクから口を離す。そしてただ、全隊員の無事を祈る。

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