第25話「第二章」その11
矢田川に架かる、宮前橋。陸上自衛隊守山駐屯地から一番近い橋であり、それゆえ自衛隊反対派の市民団体も多数集まっている。彼らは自家用車を横に停め、二車線の道路を塞いでいた。また「人間の鎖」と称し、手を繋いで歩道を含む橋桁の幅全ての通行を阻止しようとしている。
そこに、駐屯地から出発した自衛隊員の乗る高機動車が差し掛かった。
「こちらは『平和憲法を堅持する会』である! 自衛隊の治安出動は軍国主義化を招く恐れがあるので、断固反対する!」
拡声器を通じ、代表とみられる男が自衛隊に対して主張する。しかし自衛隊側はもちろん、おめおめと引き返したりしない。交渉のため数人が車から下り、市民団体に近付く。
「自衛隊車輌は緊急車輌としての通行が認められています。また、治安出動は愛知県の要請に基づき総理大臣より命令を受けたもので、文民統制の原則に乗っ取って行動しています」
「しかしあの三島由紀夫は、『治安出動によって自衛隊のクーデターは可能だ』と言っている! 信じることは出来ない!」
「あくまでもそれは一個人の見解であり、また自衛隊側に、少なくとも我々の部隊には、そのような意思はありません」
「しかし!」
「今回は緊急性の高い事案につき、出来れば速やかにそこをお通し願いたいのですが」
「我々はここを通さない! 無論、ここ以外も別の仲間によって押さえられている!」
「なるほど、橋を封鎖すれば阻止できるということですか」
「そうだ!」
男はありのままの自分達の考えを、肯定によって打ち明ける。
「けれど名古屋高速や名二環までは押さえられていませんよね?」
自衛隊側からのその言葉に、男は動揺を隠せない。
「……だが、大きく遠回りにならざるを得ない!」
確かに、名古屋高速一号楠線・名古屋第二環状自動車道のどちらにしても現場に対しては大回りとなる。無論自衛隊もそれは把握しており、出来ることならそれを避けようとしていた。
「今求められているのは迅速性。必要ならそれも辞さない構えですが?」
「……なら何故ここに留まる!」
「まあ単純に、それだと印象が悪いということです」
無論、それには裏の部分がある
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