第24話「第二章」その10

「自衛隊の出動は反対運動の影響で遅れる可能性があると、県庁から連絡が」

 とらのあな名古屋店七階を借りて設営された県警巨大生物対策本部。情報を伝えたのは三浦で、判断は成瀬本部長に委ねられている。

「なるほど、となると自衛隊の配置が完了する前に尾頭橋の突破も──」

「ありえる、と思われます」

「今突破されると対処可能なのは岐阜の応援だけですよ? キツくはないですか?」

 金城の言うことはもっともで、第二機動隊は錬成不足であるがゆえ現在は金山駅から東の区間に展開しており、予備隊として残してあった分は尾頭橋対応に回してしまっている。

「県庁に連絡、外堀通り、久屋大通り、名鉄線、近鉄線のいずれかより海側の地域に対しての避難指示を要請するよう」

「──キャパが足りません!」

 人口が度を越えた規模であるが為、名古屋市は充分量の避難施設を抱えていないことは水害の際に明らかとなっている。いざとなったらもう一段階上・強制力を持つ避難命令に切り替えることも念頭に入れれば、収容容量も考えなくてはいけない。

「ならその他の地域は勧告でも構わないから、せめて堀川と中川運河の周辺は押さえておけ。不測の事態に備え、新堀川も出来れば」

「了解、しました」

「二次避難が可能なように対策を練っておくことも伝えておいてくれ。国民保護計画を準用したりすれば何とかなるはずだ」

 部下に指示を出した後、成瀬は熟考に入る。脳内では、何パターンにもわたるシミュレーション。どの段階で自衛隊が到着するか、今降っている雨がどう変化するか、その他変化しうる様々な要素を検討材料に入れる。それを冷静に出来るのが、成瀬の強みだった。

「県庁を通じて自衛隊より、これより出動を開始すると」

「……解った。とりあえず状況を見守ろう」

 成瀬は、静かに目を閉じた。

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