第21話「第二章」その7

 名古屋市中区三の丸、愛知県庁本庁舎内・記者会見室。地元ブロック紙をはじめ、記者クラブ構成社を中心にマスコミが多数集まっている。テレビカメラも数十台規模。巨大ウナギ出現については既に各テレビ・ラジオ局が報じているものの、やはり県トップ自ら会見するとなると注目度は段違い。ネットで生中継を行うのか、簡易的なカメラをノートパソコンに接続している記者もいることからそれは判る。

 そこに、愛知県知事・永田 清史が前方右側から入ってくる。新聞社カメラマンによるフラッシュが焚かれ、記者達には緊張が走る。

「えー、それでは記者会見を始めさせていただきます。まず現在、地震の被害に遭われた人々を捜索・救助に当たられている方々に感謝の意を申し上げると共に、一人でも多くの生存者を救出出来るよう願うばかりでございます。また継続して大津波警報が沿岸地域に出されております。一度津波が引いても家には戻らず、警報解除を待っていただくよう重ねて申し上げます。さて、名古屋港周辺に出現している巨大生物について、ご報告がございます」

 いよいよ本題。県知事は一回、咳払いをする。知事もまた、緊張しているのだ。

「現在当該事案については県警の方が対応しており、機動隊を全隊出動させたのを始め、第二機動隊の招集、中部管区機動隊をはじめとする応援の要請なども合わせて行っております。しかし現在のところ尾頭橋付近でその先の進行を阻止するに留まり、それについても危うい状況が続いております。よって愛知県は公安委員とも協議し、自衛隊への出動要請を行うことになりました」

 会見はNHKが生中継しているため、記者達は速報を飛ばすよりその内容をしっかり把握することに集中する。背後に構えていた民放テレビ局関係者は慌ただしく動き出し、必要とあれば生中継が出来るよう動き始める。

「先ほど自衛隊法の規定に基づき、内閣総理大臣に治安出動の要請をいたしました。この形態の出動については前例がありませんが、この事態は『一般警察力を超える事態』であり、出動要件を満たしていると県は考えております。また現在派遣している機動隊についてはそのまま出動させるとともに、地の利を得られる笹島南地区にて特殊部隊を中心とした迎撃作戦を準備中です。名古屋市から発表されている避難地域におられる方、特に堀川・中川運河沿いのエリアでは早期の退避をお願いします。──それでは質問があれば記者クラブ幹事の方から」

「ではまず愛東新聞より、知事は自衛隊に対し出動要請をされたということですが、具体的な返答は何かあったのでしょうか」

 最前列、眼鏡を掛けた女性記者が聞く。

「あくまで要請を行った段階であり、総理大臣による出動命令があればそれが返答になると認識しております」

「では別の方。──えー、ではフリーの方で手を挙げている記者さん、どうぞ」

 女性記者が指名し、対照的な姿をした男性記者がノートパソコンの画面をチェックしながら質問をする。

「ニコニコ生放送です。自衛隊出動に当たって、どこまでの武器を許可するのかと視聴者から質問が来ております」

「治安出動については警察官職務執行法を準用するので、必要に応じ柔軟に対応する方針です。軍事に詳しくないので具体的には言えませんが、一般的に考えてSATが使用するレベルの武器はまず使われるとみて間違いはありません」

「では、NHKさん」

「NHK名古屋です。今回──」

 対応するように、東京でも動きがある。千代田区永田町・総理大臣官邸記者会見場。こちらには総理大臣・浜岡 武郎が立った。

「愛知県からの要請に基づき、自衛隊に対し治安出動の命令を防衛大臣を通じ発令する。先程県からの要請を受け取った後直ちに臨時閣議を開き、国家公安委員長を除く全員から賛同を得た。国家公安委員長に対しては説得を試みたが拒否したため、罷免した上で全会一致の同意を得られた。なお代理として環境大臣・丸谷 優君を充てる。──」

 無論、この迅速さは事前の工作活動があってのものだ。主導したのは警察庁警備局長。総理大臣とは警察庁長官が交渉し、国家公安委員長以外の閣僚に対しては公安所属のエリートが接触し説明を行っている。何も知らされていないのは国家公安委員長のみだった。

 こうして、自衛隊出動の関門が開かれ、各隊は正式に出動準備を始める。

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