第20話「第二章」その6
名古屋市中区、名古屋高速六号清須線明道町出口。名古屋港方向へ進む市道江川線南行きに合流するよう作られているが、外堀通りとの交差点も近い。この出口レーンを、窓が金網で防護されているバスが通り抜けた。所属は、岐阜県警機動隊。隊員輸送車の一種である。
「それでは愛知本部の警備計画に基づき、最終防御線防護の準備に当たる!」
岐阜県警機動隊は愛知県警の応援要請に応え、通常業務に支障の無い範囲で捻出した二十人規模の部隊を派遣していた。東海北陸自動車道から一宮ジャンクションと一宮インター・名古屋高速十六号一宮線を経由し、六号清須線へと達した最南端の出口がこことなる。隊員を乗せたバスは都心環状線高架下を緊急走行し、やがて灰色のビルの前で停まった。名古屋駅を守るように立つ巨大な盾にも見える、名古屋国際センタービル。泥江町(ひじえちょう)交差点の北東角に位置し、再開発の一環ととして建てられたここには外国人向けに情報提供などのサポートをする「名古屋国際センター」という名古屋市の外郭団体が入っている。また、幾つかの領事館も入居している。さらに難視聴対策のためテレビ名古屋が中継局を設置したりもしている、重要地点だ。その拠点性は直近の駅名に反映されていることにも象徴される。
「岐阜マル機より愛知本部へ、現着(現場到着)した」
車に積まれた無線(部隊系)で伝えつつ、隊員達を下ろし隊列を組む。その南側の桜通り上では、陸上自衛隊春日井駐屯地所属・第十施設大隊が急ピッチで防御壁の構築に取り掛かっている。この付近には中央分離帯が設置されていないため下部こそコンクリートで固めているが、上部は針金を使った簡易構造。所々に食い違いを設け、対処部隊の出入りが可能になるよう工夫されていた。
その防御壁は、堀川に架かる桜橋で途切れる。戦前に作られた橋ゆえ、後の作戦のこともあり荷重軽減措置が取られたのだ。非公式ではあるが、対処方針は自衛隊にもちゃんと伝えられている。自衛隊の迎撃計画は既に準備され、「委託工事」という形で進められつつあった。
名古屋市南西部、海部郡蟹江町にも近い東名阪自動車道・名古屋西本線料金所には滋賀県警機動隊が先着していた。東側では名古屋第二環状自動車道(名二環)や名古屋高速五号万場線が接続しており、進出拠点としては最適の地である。ただし滋賀県警は緊急を要する場合を除き、大規模応援で指揮班を含む大阪府警機動隊の到着を待ってから行動することを申し合わせていた。滋賀県警についてはJR関西線・八田駅付近の警備が割り当てられており、メインの堀川・中川運河から離れていることも幸いしている。
一方、東からの応援については警視庁から一個機動隊を地震対応とは別に取り付けるなど大きな戦力を確保していた。しかし東側はむしろ東海・東南海地震の被害を受けたエリアであり、東北管区や新潟県警など遠隔地が中心。神奈川や長野、関東管区などは静岡県警の支援に回っている。東側進出拠点は高速上が刈谷サービスエリア、前線基地として瑞穂公園(瑞穂運動場)が当てられているがどちらもまだ機動隊の到着はない。新東名によりルートは確保されているものの余震の影響で速度を制限しての進行であるため、やはり遠いのがリスク要因となった。
北陸からは福井と富山の二県警が支援を表明しているが、元々の規模が小さい以上少人数の派遣となる。震災が重なったとはいうものの、約束だけなら六百人以上の応援を愛知県警は得ていた。ただし実際に到着しているのはごく少数。尾頭橋での巻き返しは、到底望めるものではない。だから、愛知県知事は決断した。名古屋市中区三の丸、愛知県庁本庁舎内記者会見室。作業服を身に付け静かに、彼は入って来る。
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