第19話「第二章」その5
名古屋市中川区平池町。JR名古屋駅の南側、南へ下る東海道本線・中央本線・名鉄名古屋本線及び東海道新幹線と、西へ向かう関西本線・あおなみ線・近鉄名古屋線、更には東西に伸びる名古屋高速五号万場線の三つに囲まれた三角地帯が笹島南地区(ささしまライブ24地区)である。名古屋駅が現在の地に移転・高架化される前は関西本線が私鉄時代この辺りに駅を構えており(愛知駅)、旧名古屋駅もここのすぐ北側に有ったため、旅客と貨物の取り扱いを分離化するにあたり笹島貨物駅として、稲沢操車場とセットとなるように開発が進められた。その名残で、地区の南側には昭和初期に開削された中川運河の起点となる船溜まりが現在でも残されている。しかし名古屋貨物ターミナルが別の場所(現在のあおなみ線・荒子駅付近)に作られてからは貨物の集積機能が移管され、鉄道貨物輸送の衰退に伴い笹島駅自体も後に廃止される。廃止後は駐車場として使われていた時期はあるものの、有効活用はされず空き地として放置されていた。
本格的に再開発が始まったのは二〇〇五年の愛・地球博でここがささしまサテライト会場として利用されてから。期間限定でオープンした遊園地は無くなったものの、現在は映画館やライブ施設、私立大学のキャンパス(一部は建設途中)、JICA中部国際センターなどが立地している。しかし開発途中で空き地も目立つエリア。それが、作戦の遂行には打ってつけの条件の一つだった。
東(高架下をくぐる道路)より中部管区機動隊の半分が、西(アンダーパス)より残り半分が、南西(名古屋高速黄金出入口側)から愛知県警機動隊特殊急襲部隊(SAT)が笹島南地区に進出し、各々一旦部隊を集結させる。隊員が被るヘルメットには雨粒が幾つも当たり始めたが、気にする者は誰もいない。皆、集中力を極限まで高めていたからである。
「JRと供給元の中日本電力から許可とれました。関西線について通電可能です」
「よし、東海道線も要請しておけ」
「了解です」
現地指揮本部はあおなみ線・ささしまライブ駅のコンコースに置かれていた。指揮権限は管区機動隊長に与えられ、警察庁の干渉を避けるため(実際には当の警察庁から要請され)とらのあなに移された警備本部の指示・調整を受けながら作戦遂行に当たる。作戦のポイントは三つ。一つ、電車線に通電し突破を妨害する。巨大ウナギはトロリー線に引っ掛かると調査結果から推測されているため、有効な手段とされた。これは金山より東でも準備が進められつつある。二つ、アンダーパス及び南側を重点的に警備する。東側の高架下には倉庫が設けられており、高架自体の高さを考えても防御壁の役割を果たすと考えられた。三つ、中川運河を北上させ、効率よく「この地区に上陸させる」。この三角地帯に追い込むことが出来れば、県警の能力で殲滅させることも可能と予想された。
「誘導班、編成完了です」
管区機動隊第二中隊長・日永 昭嘉がやって来て言う。第二中隊はその、笹島南地区まで誘導する役割を与えられていた。津波を被っている場所はともかく、それ以外の場所での上陸は阻止作戦を行っている尾頭橋のみということが県警ヘリからの調査で判っており、その津波による浸水範囲は新幹線線路の盛り土が防波堤の役割を果たしたため西に片寄った形となっている。誘導班の仕事は牽制をしつつ上陸個体を運河水面に戻し、笹島南地区まで遡上させること。
「了解、計画遂行に移ってくれ。ただし南海地震も発生しより高い潮位が観測され得るため、情報にはくれぐれも注意するよう」
巨大ウナギ撃退作戦の片方、笹島迎撃作戦は地の利を最大限に利用しつつ、動き出したのだった。
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