第14話「第一章」その13

「これは、不味いことになった……」

 霞ヶ関某所・地下共同溝構内。警察庁長官と警察庁警備局長は一旦中央合同庁舎二号館(警察庁が入っている)に戻るため歩いていた。

「心配には及びませんよ、長官」

 だが警備局長はあっさりと言う。彼には彼なりの秘策があるのだ。

「それはどういう──」

「いいですか、私は警察庁命令の前の段階で公安(注・公安警察であって公安委員会ではない)を通じ情報を流します。今現地で指揮を執っているのは私の元部下。お分かりで?」

「部下がどう動くかは、確定事項って訳か。しかしそれで時間を稼ぐとして、具体策は?」

「自衛隊の出動用件はなにも、防衛だけではありませんよ?」

「──しかしあれは」

 長官の顔が強張る。

「そう、『伝家の宝刀』です。安保闘争が活発だったとき検討はされたが見送られた。しかし今回の事態なら最適かと」

「──なるほど、だが」

「『あれ』なら、政府の決断を待たずに動かせるのです」

 警備局長はニヤリ、と笑う。

「大丈夫、上手くやりますよ。何せ私は『エリート官僚』みたいですからね。長官は総理大臣への工作をお願いします」

「ああ、了解した」

 日比谷共同溝中央合同庁舎二号館連絡口。警察庁長官はそこから警察庁核シェルターに、警備局長は少し進んだ連絡口から警視庁公安部へと向かった。

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