第12話「第一章」その11

 名古屋市中川区、ナゴヤ球場。地元プロ野球チームの元本拠地で現在は練習拠点となっている野球場だが、グラウンドには愛知県警機動隊第一中隊が整列している。

「全員整列確認! 敬礼!」

 秋山勝己中隊長が号令をかけ、皆右手を額にピシッと当てる。

「それではこれより、巨大ウナギ侵入抑制作戦を開始する! 第一中隊に任された任務は二つ、まずは笹島から尾頭橋にかけて要点警備を行う! これについては第一・第二小隊に任せる!」

 秋山の声は拡声器を使わずとも響く。

「第三小隊、俺もそちらの指揮を執るが、堀川に向かい第二中隊の支援を行う! そのために一部の対銃器部隊も混ぜてもらった! 状況を有利に持っていくのがお前たちの使命だ!」

「おーっ!」

「うっす!」

「ウナギなんか、俺たちがやっつけてやる!」

 隊員からは力強い反応が返ってくるが、秋山はフォローも忘れない。

「だが自惚れるな! イーブンに持っていけるだけでもよいと思え! 決して、それ以上を望むな!」

 秋山は解っている。機動隊の装備では「たとえ元がウナギだとしても」殲滅は無理だということを。そしてそうであったとしても、マスメディアは決して良くは報道しないということを。もし真実が解ったとしても、訂正は望めないことも。

「来るべき撤退の時、マスコミは『無能な機動隊』『役立たずの機動隊』と揶揄するかもしれない! だが俺たちの目指すのは、死人を出さず最大限の『警備』を行うことだ! 筋違いの批判など、気にする必要はない! 自衛隊の出動まで持たせることが俺たちの任務だ!」

 秋山は、隊員のベクトルを一つにするには随一の指揮官だった。事実をはっきり明示しつつ、士気は落とさない。

「野郎共、行くぞ!」

「「おーっ!」」

 そして隊員は、各々の任務へと動き始めた。その目に、迷いはない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る