第10話「第一章」その9

 室伏中隊長の指示に従い、金山新橋を守っていた第一小隊は一分隊だけを残し、輸送車で移動した。堀川右岸で一分隊を下ろし、もう一分隊が尾頭橋から回って左岸に到着した時。

「来ました!」

 隊員の一人が叫ぶ。輸送車側、広瀬分隊の数人は銃を構えた。あくまで暴徒制圧用、中に入っているのは催涙弾である。ただ、それ以外に使えるような武器もなかった。あくまで機動隊は対人部隊だからである。

 しかし、見過ごす訳にもいかない。堀川は満潮時、北区役所(名古屋高速楠線・黒川出入口付近)より上流まで海水が遡上する河川である。つまり流れは無いに等しく、巨大ウナギでも容易に侵入すると思われた(実際には河口水門閉鎖に伴い庄内川からの導水も中止している)。

 中隊長の許可を得た後、左岸から催涙弾を撃ち込む。その弾は見事に命中して巨大ウナギの一体を怯ませ、水面下で進路を妨害した。だが、来ているのは一体だけではない。水面はすぐに飽和し、逃げた先は──右岸。

「ガード側には通すな! 出来れば川に押し戻せ!」

 古瀬分隊長の指示。右岸側分隊は透明ポリカーボネート製の新型盾を構え、ヘルメットのフェイスガードも下ろした上で突撃する。まさに巨大なウナギ、大きさが違うだけで迫力が段違いの相手を実際に視認し皆一瞬は怖じ気付いたが、ここを通したら今後の防衛戦に不利を来す。それも解っていた。胴体には効果がないと思われたため、狙うのは眼である。

「警杖の使用を認める! 催涙弾は極力使うな!」

 水中ならともかく、地上での使用は味方にも損害を与えかねない。しかし機動隊の一般隊員が扱えるのは拳銃が精々で、サブマシンガンを扱う能力をもつ人間は一部に限られる。拳銃だと威力が弱すぎるため、必然的に接近戦に持ち込まざるを得ないのだ。

 しかし、そんな状況は早くも危機に陥る。

「結城!」

 古瀬分隊の一人が倒れ込む。本体からすぐ近く、胴体をくねらせ暴れた時に巻き込まれたのだ。古瀬は急いで駆けつけ、結城を立ち上がらせる。

 巨大ウナギはそんな、反撃の機会を見逃さなかった。巨大ウナギの口が、二人に迫る。古瀬は、持っていた盾をその口に押し込んだ。

「──」

 口を詰まらさせ、襲撃者は後退する。その隙を衝き、古瀬は結城に肩を貸しながら撤退した。

 その光景のなか、少し強い揺れが襲うが彼らは気付かない。気付いたのは上空に飛ぶヘリコプターの姿だけ。

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