第9話「第一章」その8
『金山橋、封鎖完了しました』
「了解。──これで、暫定的な防御は固まったか」
金山駅南口、周辺では群を抜く高さの金山南ビル。ここの十一階にある名古屋都市センターの展望室兼企画展示室では機動隊第二中隊長が伝令とともに作戦本部を構え、暫定的な警備プランを実行していた。このセンターは日本や世界の都市について調査研究するのが仕事であり、常設展示室には名古屋市全体の航空写真なども存在する。また、名古屋中心部のジオラマなどもあったりして、作戦を練るのには絶好の環境となる。
対して防衛線の最前線となった金山駅は、名古屋城から熱田神宮にかけ南北に細長く広がる熱田台地を掘り下げて作られている。つまり駅周辺に限れば、堀があると言っても差し支えなく、守りやすい地形と言えた。よってその「堀」を渡る三つの橋──金山新橋、金山駅コンコース、金山橋──を封鎖することが最優先事項である。
「本部から連絡です。港署より、敵は防潮堤を乗り越えたと」
「うむ、判った」
港署(分庁舎を含む)のあるガーデン埠頭から金山まではかなり距離があるが、室伏中隊長は気を引き締める。
「あとこちらの展開行動を新しく立ち上げられた対策本部が追認したそうです。本部長は成瀬警備課長代理になったと」
「うむ、成瀬か。ならひとまずはなんとかなりそうだな」
「でも成瀬課長代理って、警備指揮には向いてないんじゃ──」
「これは警備じゃない。戦いだ。そして戦いに警備のマニュアルは役に立たない」
「はあ……」
「成瀬はマニュアル外の指示をよくするが、それは状況に合った指示でもある。だから、彼は頼りになるんだよ」
「何となく、解りました」
そんななか、伝令は気付いた。
「あの黒いのって──警戒対象ですか?」
「──新橋へ連絡、尾頭橋辺りの堀川岸壁に隊員を回せ!」
室伏はそれが「対象」だと直感、無線で指示を出す。彼も負けず劣らず、マニュアルを見ない人間だ。
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