第6話「第一章」その5

 同じ頃、愛知県長本庁舎(戦前の建物だが、免震工事を実施していたため被害軽微)。災害対策本部の置かれた会議室は「巨大ウナギが伊勢湾に出現」の一報で、大混乱に陥っていた。

「これは自衛隊に……」

「陸上か海上、どっちだ担当!」

「えっとそれは……」

「海保は!?」

 一因としてマニュアル外だったことが挙げられるが、このような事態を想定して作るのは酷である。

「とりあえず、情報を整理する! 皆落ち着け」

 だが愛知県知事・永田 清史は冷静だった。皆を黙らせ所定の位置に着かせる。

「まず情報ソースは警察サイドのようだが、詳細をお願いしたい」

「こちらも警察庁から流れてきた情報なのですが、どうやら発信元は安全保障会議に出席していた警備局長のようです」

 県警警備部警備課長代理・成瀬 浩が答える。災害対策本部の県警連絡員として派遣された彼、本職は警備指揮だったが「とある事情」でこのポジションに押し込まれていた。しかし着々と任務に励んでいる。

「では内閣府に確認する。誰か、東京事務所に連絡」

 その場にいた県職員の一人が会議室を出ていった。

「次に自衛隊、対応状況は?」

 これには陸上自衛隊守山駐屯地から派遣された、迷彩服の女性が答える。

「今のところ防衛大臣より命令は出ていませんが、進行中の作業が済み次第撤収するよう運用本部長が指示を出しました。ただ、現段階では災害派遣の範囲の出動に留まります」

「すると、もし上陸したとして重火器は使えないと?」

「はい」

「警察は?」

「金山にいた機動隊中隊一隊を緊急展開しています。方面機動隊を除く他の隊にも出動命令が下りました。中部管区(警察局)を通じて他県にも広域緊急援助隊とは別の枠で応援を要請しています」

 県警本部にいる部下を通じ、成瀬は情報をしっかりと把握していた。

「機動隊全部派遣となると、地震災害対応は?」

「所轄が対応しています。なので第二機動隊・管区機動隊の要請は見合わせました」

 第二機動隊や中部管区機動隊の構成員は愛知県警の地域警察所属である。地震災害のなかそれを動かすのは現場にさらなる酷を強いることになるのだ。動かせる人数が少ないので警備サイドも酷だが。

「いや、地震対応は消防に任せておけ。巨大ウナギ対応は今のところ機動隊しか動けないんだ」

「解りました、連絡します」

 成瀬は携帯電話を取り出し、県警本部に連絡する。県知事に直接の指揮権はないが、機動隊の全力運用がしやすくなったことについては事実である。

「牛田副知事、自治センターに災害緊急援助隊の受け入れ本部を設置し指揮を取れ」

「了解しました」


「さて海保、それ以外に情報は?」

「名古屋・常滑・鳥羽からそれぞれ巡視艇を出しています。ただ津波の心配もあるので活動は小規模に留めています」

「解った。ならすぐに動けるのは警察だけだ、精一杯善処してくれ」

「まあ、自衛隊が出てくるまでは耐えられるよう調整しますよ」

 成瀬は言った。この段階において実際に指揮を取る立場ではないが、しっかり自信をもって。

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