第5話「第一章」その4

『こちら第二班、公妨と窃盗の現行犯で五名拘束』

 名古屋市中区金山、金山駅。名古屋デザイン博を機に総合駅として整備されたこの駅にはJR東海道線・中央線、名鉄名古屋本線(常滑線・河知線の実質的な始発駅でもある)、地下鉄名城・名港線が乗り入れている。北口にはバスターミナルがあることはもちろん、二〇〇五年の万博に合わせてアスナル金山という商業施設がオープンしたこともあり質素なイメージの南口とは性格を異にしている。ただ昨日の夜から全路線が運転を見合わせていることもあり、人の姿はほとんど見られない。さらに地震の影響でショーウインドウの一部は破損してしまっていた。しかも中は無人である。日本語が解らず支援を得ることが出来ない外国人達にとって、「食糧を得るための現金」を得る絶好の狩り場となってしまった。

 それも愛知県警機動隊第二中隊・刑事部国際捜査課の合同チームが投入されることで収まる。窃盗グループは小隊単位に分かれた機動隊に制止され抵抗するが、透明ポリカーボネート製の盾(日韓ワールドカップを機に導入されたもの)を使い押さえ込まれ、同行する刑事に逮捕された。

「状況終了、各班は撤収準備に入れ。伝令、本部に連絡」

 室伏中隊長が部隊運用無線を使い各小隊に指示を出す。傍にいた隊員が走っていき、輸送車に積まれた無線機(県内系)で警備本部に連絡。その返答を室伏に伝える段取りとなっていた。

「報告します! 県警本部より、機動隊は再展開せよとの命令!」

 ただ伝令は、不可解な答えを報告した。

「理由は!」

 人命救助と警備では比重を置くベクトルが異なる。理由が判らなければ、装備も決められないのだ。

「不明です! ただ、再展開せよと」

「だったらその辺りを問いただせ!」

「はい!」

 伝令は再び走っていく。その間にも室伏は考えた。人命救助でただ再展開するよう求めるのは考えづらく、災害に乗じたテロならここで起こっていない以上移動命令になるはず。考えられる可能性は二つ。金山で何かが起こるか、何かが来るか。──いや、展開だから何かが来る方だ。そこまで行き着いた所で無線の発信ボタンを押す。

「全隊、金山駅に再展開! 駅は堀割式だ、駅コンコースと周辺の跨線橋をメインに抑える。装備は警備モード、何が来ても耐えろ!」

 無茶な命令だったが、詳細が判らない以上仕方がないことでもある。「了解」という返答が各小隊から一通り返ってきた所で伝令が戻ってきた。

「本部も上からの命令だそうで、理由は判らないそうです!」

「そうか、なら──」

 室伏は駅の反対側に聳えるビルを指差して言う。

「状況確認のためあのビルに上がるぞ!」

「しかしそうなると調整が……」

「市の関係機関が入ってる、展望台もあるはずだ! お前は移動無線機を持ってこい!」

「──はい!」

 そして室伏は金山南ビルへ向かった。そこには財団法人名古屋都市基盤公社の運営する、名古屋都市センターが入っている。

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