第4話「第一章」その3

 午前十時、東京都千代田区永田町、総理大臣官邸地下会議室。日本政府の中枢でありもちろん地震津波対策でも拠点の一つだが、浜岡総理大臣をはじめとする閣僚達は自衛隊からの要請により安全保障会議に招集されることになった。

「実は某マスコミの映像データ照会により、巨大生命体が静岡沖に出現したということが明らかになりました」

 報告するのは勿論、統合幕僚会議でも説明したあの研究員(自衛隊情報本部所属)である。

「となるとここは、ゴジラで言うと巨大生物審議会かな?」

「総理、それはガメラです」

 浜岡総理は特に取り乱した様子はなく、官房長官に訂正を入れられている。ただそれは例外で、多くの閣僚達は驚いて言葉が出ない。

「出現が確認されたのは『民法ヘリの映像』からです。映像の撮影は九時過ぎ、自衛隊でもヘリを飛ばしましたが未確認です。恐らく海に潜ったのかと」

「……その生命体はどんな容貌なのでしょうか」

 そう声をひねり出したのは女性だった。国家公安委員長であり、連立政権の片翼を担う党の党首である。

「軍事用システムも使った画像分析の結果、巨大なウナギではないかと推定されています」

「カメじゃないのか?」

「総理、それはSFの世界です」

「でも巨大なウナギも、SF的じゃないか」

「確かにそうですが……。でも某怪獣映画みたいにハ虫類ではないですから、上陸の心配は考えなくていいですね」

 総理の発言と官房長官の指摘で場が和んだ。しかしそれも一瞬のこと。

「いや、そうとも限らないぞ?」

 だがそんな空気を引き締めさせたのも、総理だった。

「ウナギは皮膚呼吸で陸上を這うことも出来る。それで異なる川まで移動すると、NHKで観たことがあるぞ」

「ええ、その通りです」

 研究員も肯定。

「あとこんな状況だから、津波で流されてる可能性も考えないとな」

「しかし、震源は豊橋沖では?」

 官房長官の指摘通り、駿河湾は震源の東側。ならその行き着く先は、最悪の場合は伊豆半島や伊豆諸島、そうでなければ太平洋に抜けると考えることも出来る。

「引き波とかも考えれば、決めつけちゃいかんと思うが?」

 しかし総理の方が正論だった。この時点で提供されている気象庁の暫定津波モデルでは震源域を東海・東南海地震想定震源域(富士川河口~熊野灘沖の駿河・南海トラフ周辺)と想定しており、決して津波が一点で起こるわけではない。さらに引き波を考えればどの方向に動いてもおかしくはなかった。

 そしてその推測が正しかったことが、すぐに明らかにされる。

「海上保安庁より緊急連絡、伊良湖水道周辺に黒い物体が多数浮遊しているのが確認されました! 現在北へ向かっています!」

 総理補佐官が駆け込んできて言った。伊良湖水道は伊勢湾の入り口、つまりそれは、

「愛知県と三重県、名古屋市に緊急連絡!」

 伊勢湾の奥、名古屋港へ襲来する可能性を意味した。

「東海統合(運用本部)にも連絡、体制を整えさせろ!」

 陸上幕僚長の発言には、ただ一人顔を歪ませる閣僚もいたが。

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