第一章

第2話「第一章」その1

 午前八時二十分四十六秒、愛知県豊橋市沖・深さ二十四キロメートルのプレート境界上で極めて大きい断層面破壊が発生、そこを震源とし東は富士川河口・西は伊良湖岬までのエリアまで破壊面が広がり激しい揺れを生み出した。気象庁マグニチュード八・〇、モーメントマグニチュード八・二のエネルギーであり、愛知県豊橋市・田原市・豊川市、静岡県湖西市・浜松市で震度七を観測。豊橋市では計測震度六・八を記録した。九州から茨城県沿岸に大津波警報、南西諸島や北海道・東北にも津波警報発令。日本海側にも津波注意報が出された。

 愛知・静岡両県からは協定により地震発生時刻をもって自衛隊に災害派遣要請がされたものとみなされ、そのうち愛知県と静岡県西部の対応は名古屋市守山区・陸上自衛隊守山駐屯地に置かれた、第十師団司令部を核とする東海統合運用本部が担当する。

「まず(第十)化学防護隊は浜松まで前進、万が一の予備配備とする。三十五(普通科連隊)は尾張・西三河に展開、豊川は通信要員を残して全隊を周辺および静岡西部へ。航空浜松も三分の一を割いて周辺支援。明野は残したヘリを全機離陸、津波に備えつつ状況確認──」

 師団司令で運用本部長である、川越 昭光の指示。仮想敵国からは比較的遠い太平洋側での事態のため地元の陸上自衛隊はほぼ全力、航空も可能な限りの人員を投入することになった。指示を受けた各隊責任者をはじめ、大阪・伊丹の陸自中部方面本部(日本海側の第十師団各隊の指揮も移管されている)や東京・市ヶ谷の中央指揮所からも異論は提起されない。ただこれは、「原子力災害以外の更なる事態」が起こらない前提ではあった。

 航空自衛隊小牧基地が隣接する県営名古屋空港からは次々と報道各社や防災用のヘリが飛び立っていく。常滑沖・中部国際空港からも事前に大型機用運用機材が避難されてきており、寂れていた空港は再び重要拠点として活気づいていた。

 午前九時。NHKや民法各局はヘリコプターでの生中継を積極的に始めていた。東名高速道路はあちらこちらで盛り土が崩壊していたし、NHKは浜名湖沿岸に津波が押し寄せる衝撃的な映像を伝える。ただ国民が注目する御前崎原発上空は、近くにレーダーサイトが存在することもあり地上のロボットカメラからの映像に頼らざるを得なかった。

秋そんな中、NX(東京セブン)のヘリは静岡に系列局がなく、東京ヘリポートからの出発が遅れたこともあり空域を確保できず駿河湾上空をさまよっていた。そこに乗っているカメラマン・都築秋佐之助はひどく落胆している。不幸な大災害とはいえ、初めての空中取材だったのだ。空域が空くまでの間、都築はカメラテストを兼ね海面をアップにして撮っていた。

 するとその画面に何やら黒い物体が映る。操縦士に再度同じコースを通ってもらうよう頼み、今度はテープを回す。再び、写った。再生機で確認するとそのコマをキャプチャー、先行して伝送した。

 伝送を受けた東京・西麻布のNX本社ではその扱いが協議される。既に動画自体も届いていた。

「CGではないだろうな?」

「うちのチームにも確認取りましたが、本当のプロでなければここまでのものは無理だと」

 報道局長の確認に、番組制作部の担当者が答えた。

「それでも、ただの潜水艦じゃないか? 運用スケジュールは機密事項なんだし」

 防衛省の記者クラブに勤めた経験も持つ局長らしい発言。編成部長も

「それが自然ですね」

と同意。

「せっかくヘリを使ってるのに、使えない映像送ってきて……」

「まあ海上自衛隊に照会して、何もなければそれまでだ」

「まさかK国の兵器とか?」

「ないない」

 それがかなりの特ダネだったことを、この時点では誰も知らなかった。

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