α6「監察」
電話が返ってきたのは、一週間ほど経ってからだった。
「何故、もっと早く電話を頂けなかったのですか?」
少し間があり、彼は答える。
『警察内部で色々ありまして』
「というと?」
『……公安が張り付いていたようです』
宇治警部補と接触するのは控えた方がいいですよ。そろそろ動き出す頃です。本山刑事の呟きが不意に蘇った。何が動き出すか。公安が動くということだ。
『喫茶店であなたが飲食代を払ったのが問題になりました。警備部から警務部へと移管され、この一週間は監察官付きでした。取り調べも受けました。そして今日、人事課付となりました』
それはつまり、何らかの処分を受けるということになる。ちょっとした不注意がとんでもないことを引き起こしてしまった。
『誘拐犯の身元についてでしたね。関西の方で、名前は──』
ただ淡々とメモする。感情を押し殺し、あくまでも事務的に。
『おそらく連絡を取るのは最後でしょう。いい記事を期待していますよ』
最後に彼はそう付け加える。確かに、もう連絡を取る必要はない。
「ええ、期待していて下さい」
他人の人生を犠牲にしてしまった償いとして、駄作にする訳にはいかない。その思いは強まった。
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