第2話 お水へのリスタート
私のリスタートは、ソープランドをやめた後から始まった。
そもそも風俗に入ったきっかけは、ある1人の男。
元々はクラブで働いていた頃、よく声を掛けてきた人の1人だったが、
そんな彼がある日、私の家に遊びに行っていいかと聞いてきた。
まぁ遊びに来るだけならというつもりで、いいよと言ったのだが、
なぜか当日、自分の荷物を持ってきて、勝手に家に転がり込み、
流されるまま付き合う羽目になった。
だか、これが運の尽き。
後に、この男が外国人国籍で、全国指名手配されているという事実が発覚。
通常、宝くじ的確率なきゃ、なかなか当たることがないような、
とんでもない男性ロックオンされ騙され、私は20歳そこそこで、
その男が私の名義で勝手に作った600万円の借金を丸抱えしまった。
そのせいで、
私はそれまで順調に行っていたクラブでの仕事も
せっつかれる借金のせいで、切羽詰まり始め、
元々飲まない接客をしていたのに、
給料に反映する売り上げのために飲む接客に切り替え始め、
無理をし始め、結果、体を壊し、お酒が飲めなくなった。
これではもうお水はやっていけない。
でも当時は、まだまだ今より風俗という世界は敷居も高く、
水商売以上に後ろ指をさされる世界だったため、
一度風俗に落ちたら二度と戻れないイメージが強かった。
実際、風俗に入る以前の水商売時代の私は
高級クラブで働き、若くしてNoにも入り、お店をやらないか?という話もちらほらあったため、
水商売から風俗に落ちたら「もう終わりだ」と思っていた。
そんなある日、とうとう支払いに困り、悩んでいた時、
クラブ時代、出勤中の道すがらよく顔を合わせるため、そのたびに挨拶をしていた
某老舗ソープランドの店長が私に声をかけてきた。
そして、私の事情を聞き
「600万で首をくくるのはあまりにもったいない。
一緒にお金を返す方法を考えてあげるから
もしよければうちの店で働かないか?
とりあえず1日働いてみて、もし嫌なら別の方法を考えよう」
と誘った。
正直迷いはしたが、もう後がない。
結局、私は藁にもすがる思いで、
店長の申し入れを受け、風俗に足を踏み入れた。
この風俗時代、何人かとお付き合いはしたことあるが、
その中でも一番記憶に強く残っていて、一番大好きだった人がいる。
彼は当時のススキノのパブ業界でもとても有名な子だった。
名前は和人。
和君と付き合うきっかけは、ちょっと変わったものだったが、
年も近く同じ時期にススキノという世界で育ち出会っているから、
話もよく合い、とても居心地のいい人だった。
ただ、付き合ったときの状態は、彼はお水で、自分は風俗。
お水の世界でキラキラ輝いている彼を見るのは大好きだったが、
その反面、同じ光の中に入れない、惨めな自分を見比べ
「こんなはずじゃなかったのに」
と思うことが何度もあった。
彼の仕事を見るたびに、自分がいる世界と彼のいる世界には大きな隔たりがあると実感し、
それに対してコンプレックスを持ち、不安な気持ちがどんどん大きくなっていった。
そういう気持ちは、どんなにひた隠しに隠しても、少しずつ相手に見え隠れするものだ。
不安だから「愛してる?」と何度も聞き、次第に相手の行動が気になり始める。
最初はとるに足らない事でも、回数を重ねていけば、相手もだんだんうんざりするものだ。
わかっているのに、自分のコンプレックスが来る不安から、それを止められない自分。
そんなこんなで、ある日突然、彼から別れを告げられた。
ショックだった…。
これをきっかけに、だんだん仕事が辛くなり、とうとうソープランドを退店した。
そのころには、600万の借金も支払い終わっていた。
辞めた後、数日間は何もせず、飼っていた猫のチキと一緒に家で引きこもり、
彼が置いていったものを見ては泣き、彼のパジャマを抱きしめては泣き・・。
一生分泣いたんじゃないかと思うくらい泣いた…。
数日間、泣くだけ泣いて、涙が枯れたころ、今度はこんな気持ちが私の中に湧き始めた。
「彼が付き合ってきた私がどんな人間なのか、彼に見せたい!同じ土俵で勝負したい!」
そう思ったら、少し力が湧いてきた。
ずっと心配そうに見つめていたチキを抱いて、お水に戻ることを、私は心に誓った。
「もう怖いものも守るものも、何一つないんだから!
もう1度頑張ろう。」
私のお水へのリスタートが始まる。
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