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「お待たせしました〜。オムライスとハンバーグプレートです」
僕たちが頼んだ食事が運ばれてきた。
まずテーブルに置かれたのは新名目さんが頼んだオムライス。
「あら!」
オムライスは綺麗な卵で包まれたその上にケチャップで笑顔の猫の絵と、さっき女の子が食べていたお子様ランチプレートにもあった簱が立っていて、それは続いて置かれた僕のハンバーグプレートにも、山状に形どられたライスの上にも同じ簱が立っていた。
「さっきのお子様ランチの会話、ちょっと聞こえまして、主人に話してみたら、お二人の品を少しだけお子様ランチ風にしてみましたらしくて」
「あの、メニューの中にお子様ランチは無かったですよね?あれはオリジナルなんですか?」
新名目さんが女性従業員に訊いた。
「あの女の子から「お子様ランチ無いの?」って訊かれてね。主人に相談したら、孫が小さい頃に使っていたお子様ランチプレートがあるから、それで急遽作ったんです」
そう女性従業員から言われると新名目さんと僕はふと厨房にいるコック姿の男性を見た。男性はただ黙々と野菜を刻みつつ、手が空いたら洗い物をやっている。
こちらの視線に気づいてくれたのか、ちらっとこちらを見てくれたが、直ぐに目を逸らされてしまった。
「ごめんなさいね、あの人照れ屋だから」
そう言うと、奥さんである女性従業員さんは僕たちに一礼して、厨房の方へ戻って行った。
僕と新名目さんは互いの食事をカメラに納めると、何処から食べようか最初は迷ったものの、思い切って僕は簱を落とさないようにライスを、そして新名目さんは猫のイラストを崩さないようにオムライスの端っこからスプーンを入れた。
「わぁ!美味しい!!」
新名目さんが一口食べるなり、声を出して絶賛した。それは僕も同じで、たった一口なのに、口の中で素材の美味しさが広がり、ただでさえあった食欲がさらに加速する。 そう言えば、お子様ランチの女の子もテーブルにプレートが置かれた時、あれだけはしゃいでいたが、プレートの料理を一口食べるるやいなや、無我夢中で食べ進めていた。
大人が一口食べただけでもこんなに美味しいのだから、あの子が食べたお子様ランチも、子供用にアレンジされているとはいえ、黙々と食べ進めてしまうくらいの魅力がこの店のメニューにはあった。
柔らかい食感のハンバーグは、ナイフを入れると肉汁が溢れ、ライスと一緒に口にすると食べ応え十分だ。
新名目さんのオムライスも、フワフワな卵に包まれていたライスは見ているだけで食欲をそそる熱々さと、黄色とケチャップライスの赤色のコントラストが綺麗だ。 最初、ケチャップで描かれた猫のイラストを崩さないよう気をつけていた新名目さんだが食べ進めていく内、形は徐々に崩れてしまい、結局卵と混ぜて食べてしまい、簱だけが残った。
ふと見ると、あのボックス席にいた親子はいつの間にか居なくなっていて、2人が食事をしていた形跡だけがテーブルに残っていた。
「ふぅ〜、夢中で食べちゃったけど、本当に美味しかったぁ」
新名目さんは食事の時でも同僚や先輩、後輩と仕事の話をしている事が多い。だから今回みたいに無言で食事をする姿は珍しい。
「はい、こちら食後のコーヒーと、あとサービスのデザートです」
食べ終わってお腹が落ち着いた頃、奥さんが食後のコーヒーと一緒にミニサイズのプリンを持ってきてくれた。
「主人がね、お子様ランチにはデザートが付いてるものだから、お二人に是非って」
銀のデザートカップに乗ったプリンの上にはホイップクリームに桜桃が乗っていて、とても可愛らしい。
「わぁ!可愛い! そういえばお子様ランチのデザートってプリンやゼリーだったなぁ」
「僕もそうでしたね。あと珍しい時は杏仁豆腐とか」
「あった!あった!!」
いつもは食事時でも仕事の話が中心になりがちだが、今は仕事の話は全くなく、新名目さんも僕も子供の頃のお子様ランチの思い出話しに花が咲いている。こんなにリラックスして笑ったのはいつ振りだろうか。
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