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「わぁ!お子様ランチだぁ!ママ見て見て!旗が立ってる!」


 テーブルに置かれたお子様ランチにそれまで大人しく座ってお絵描きをしていた女の子は飛び上がってはしゃいぎ、嬉しさを爆発させた。


「カナちゃん!お行儀悪いわよ」


 店内は閑散としているとはいえ、母親は迷惑にならないよう小声で娘に注意した。


「あら?お子様ランチってメニューにあったかしら?」


 新名目さんは不思議そうに言うと、今一度紙のメニューを見てみたが、やはりお子様ランチは書かれていない。女の子の為に店主が特別に作ったオリジナルメニューだろうか。

 女の子のもとに運ばれた『お子様ランチ』はお子様ランチ用の動物の絵が描かれたプレートに一口サイズのハンバーグと目玉焼き、そしてタワー状のライスの上には手描きの猫のイラストが描かれた旗が立っていて、デザートには小さなプリン。出来たてのせいか、見ているこちらまで美味しそうに見えてくる。


「お子様ランチかぁ。懐かしいな」


 新名目先輩がふと口にした。


「私ね、二つ下の妹があるんだけど、小さい頃、日曜日には両親とデパートのレストランに行って、お子様ランチを食べるのが楽しみだったの。お子様ランチってさ、子供の時だけの特別メニューなんだなって、今になってみて思うのよ。『お子様』って名前が付いてるし、大人になると、頼みにくいじゃない?」


 確かに新名目さんの言う事は理解出来る。

 僕も子供の頃は家族で行くファミリーレストランやデパートのレストランで、おまけのおもちゃ欲しさに必ずお子様ランチを注文していた。小学校になってからおもちゃ目当てと言うより、お子様ランチそのものに魅力を感じていたが、


「もう小学生なんだから、お子様ランチなんてみっともない」

「まだお子様ランチなんて食べてるの?!ダセェ!」


 などと両親や学校で周囲の視線が気になり、いつしかお子様ランチの存在を意識しなくなり、気が付いたら大人になっていた。でも今こうして目の前にお子様ランチが置かれているのを見ると、素朴だが子供にとって夢みたいなご馳走様だし、大人が見ても楽しいし、懐かしい憧れを抱いてしまう。


「お子様ランチってさ、どうして『お子様』って限定みたいな名称が付いてるんだろうね? 大人になってからメニューに『お子様ランチ』が載ってるのを見ると惹かれることがあるし、食べたいなって思うけど、周りの目が気になってオーダーするのを躊躇しちゃうんだよね」


 分かる気がする。

 僕も何度か甥っ子と出掛けた遊園地や動物園のレストランで甥っ子が可愛い動物の絵や新幹線、自動車の形を模したプレートに盛り付けられたお子様ランチを見ている内、自分も食べたいと思ったが、注文するには些か勇気がいるもので、結局甥っ子がハンバーグやトマトライスを一口分けてもらったくらいだ。

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