良作です。自信を持ってお勧めできます。
とくに、語りの技術で悩みを抱えているかた、ちょっと大人の成熟したビターな物語が好きな方に。
(たまたま私がそれに合致しただけかも知れませんが)
全体的に改行が僅かなみっちりと緻密な文章については好みの分かれるところ(私は好きです)。これは必要あってのことなのだと読み進むほどに解ってきます。いわゆる疾走感のある文章です。
小さなきっかけから始まった出会いの終わりと始まり、育児や戦争など人生の濃密な断片が堆積してやがてはちょっとしゃれた結末に繋がっていく。
バレンタインの精神というものがあるとすれば、結局は相互理解に至る道ではあるのだけれど、最初の出会いの不幸な結末から、よもやこんな着地点に収まるとは。大人のバレンタインの物語としてもよくできています。
短いながらも語りの奔流に酔いしれました。
長い長いスランプ状態にある者にとって何か曙光をもたらすような、物語は「語り」であるという本質が再び胸に灯されたような思いがします。
楽しい満たされたひとときでした。