キツネは言った「あの高い位置にあって届かないブドウはどうせ酸っぱいのだろう」と。
猫寝
実は結構怒ってた。
「私って、言うなればこの金皿みたいな存在なのよ」
憧れの彼女を初めて食事に誘った僕の緊張を尻目に、彼女は唄うように呟きながら、回転寿司のレーンから金の皿を一枚取った。
「ほら、自分で言うのもなんだけど……私って、相当可愛いじゃない?容姿端麗、頭脳明晰、そのうえ大金持ちのお嬢様。そりゃあ高嶺の花よね」
全部真実なので頷くしかない。
「でもそれって、この金皿みたいなことなのよ。500円の金皿には手を伸ばしづらいでしょ?…でも銀座の高級寿司じゃあるまいし、ほんの少しの勇気と覚悟があれば、本当は手を伸ばせば簡単に取れるのよ、金皿なんて」
これは―――告白を促されている!?
僕は流れて来た金皿を勢いよく取り、それを彼女に差し出しながら、想いをぶつけた。
「あの!よ、よければ僕と付き合って下さい!」
彼女は、僕の取った金皿の上のウニの軍艦巻きをじっと見て―――手を伸ばし、食べた。
僕の差し出したお寿司を食べた……つまりこれは告白OKと言うこと!?
……しかし、ウニを食べた彼女は、「福笑い」の目や口のパーツを全部ガリに変えて遊んだら、こんな顔が出来上がるのだろうな、という顔をしていた。
「私、ウニって苦手なの。でも、食べたら意外とイケるかなーと思って食べてみたけど、やっぱり駄目ね。私にとって、あなたはウニなの、そういうこと。ごめんね」
彼女は最後にお茶を飲み干すと、一度も振り向かずに帰って行った。
……残されたのは、彼女が食べた金皿10枚と、ウニの皿1枚…合計5500円分の金皿だった。
……どうやら、僕にとって彼女は金皿ではなく、手の届かない銀座の高級寿司だ。
彼女は寿司の中でも……なんだろうな……ああ、そうだ、アレだな。
どうせなら食べて帰るか。
「すいませーん、注文良いですか?」
「へい!何握りましょうか?」
「マグロで!」
「へい!マグロ一丁!」
彼女は寿司ネタで例えると、マグロだな!!
あの子はきっと、マグロだな!!
キツネは言った「あの高い位置にあって届かないブドウはどうせ酸っぱいのだろう」と。 猫寝 @byousin
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