シャイニングインデックス

佐倉京

シャイニングインデックス

俺は寿司が大好きだ。それはもうとても好きだ。

中でも高い老舗のものではなく、大衆向けのお手頃のものが舌に合う。気取らない、平日一皿96円の寿司をたらふく食うことが庶民の俺にとって至高の幸せなのだ。

「さあ、やすいんだから好きな物を食えよ」

そして今日は、何年も通い続けた回転寿司のチェーン店に友人を誘った日でもあった。

「好きな物ねえ、どうしようかな」

席に着くなり得意げに腕を組む俺に、友人は悩んだまま注文パネルへ指を這わせる。

話を聞くに、この手のチェーンにはあまり入らないのだそうだ。見るからに不慣れな様子でページを捲った挙句、「任せていい?」と片眉を上げた。

「いい判断だ」

そう俺は即答した。ひとまず定番のネタを頼もうと手を伸ばす。



「《閃光の人差し指シャイニングインデックス》」



その瞬間、世界は加速した。

俺の静かな呟きを境に、パネルに触れようとした指先が消える。

否、見えないほどの速度で動いているのだ。

それは閃光と呼ぶにふさわしい指捌き。パネルの「ピッピッ」という間抜けな反応音すら置き去りにするレベルまでに到達した、刹那の瞬き。

この俺の寿司に対する愛情と寿司屋に通いつめた経験が裏付ける……真の実力がここにあった。


<まもなく、24番テーブルに『サーモン』『漬けマグロ』『生エビ』『納豆軍艦』到着します>


そして聞こえてくるのは、回転レーンの動きに合わせて聞こえてくる、無機質な案内音声。

「――ふっ、こんなもんか」

「えぇ……すごいね……」

どうやら友人も勝ち誇る笑みを浮かべる俺に、賛辞を贈る他ないようだ。

若干ドン引きしているように見えなくもないが、まあいい。

俺は呼気を整え、一気に自分の大好物を注文する。

さあ現れよ、俺の大好きな寿司たちよ――!


<まもなく、24番テーブルに『ハンバーグ』『カルビ』『からあげ軍艦』『生ハムマヨ』到着します>


「お前、寿司を食えよ寿司を!」

友人が立ち上がってツッコミを入れた。

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