紅い輪廻の行く先に

第69回にごたん参加作品

お題:【転生】【ハロウィーン】【コスプレ】<俺たちの冒険はこれからだ!>


 彼女と出会ったのは、学校でのことだった。

 十月三十一日の放課後、部活から帰ろうとした時のことだ。うちの高校の制服を着た、見たことがない女の子が居て、それが、彼女だったのだ。

 さらりと流れる長髪と、透き通るような肌がきれいな女の子だと思った。

 見惚れる俺に、彼女は微笑んだ。

初めましてひさしぶり

 彼女の声が二重に聞こえた。

 俺の脳裏に映像の奔流が流れてきた。

 紅い夜が、化け物たちが、その奥で微笑む彼女の姿が、燃えゆく街が、俺の中にあふれた。

 そうして気を失って――目が覚めたら、『夜』になっていた。

 紅い月が輝く夜だった。

 怪物たちがうごめく夜だった。

 生者の悲鳴が響く夜だった。

「亡者の夜――!」

 俺は、さっき彼女に流し込まれた映像で、

 今、この町は地獄になっていることを。この世ではないどこかから湧いた怪物――亡者たちが暴れまわっていることを。亡者たちが生者の世界を壊そうとしていることを。この夜の中心は彼女だということを。そして、俺には――否、俺の魂には、この夜を終わらせる力があることを。

 だから俺は、すべてを吹き飛ばした。

 怪物を、亡者を、殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばし、すべて、この世ではないどこかへと屠った。

 すべてを屠り、静まり返った街の中、それでも紅い月夜の下を歩き――彼女の前へと、たどり着いた。



 私と彼は、舞台装置かみのおもちゃ

 私は悪で、彼が正義。

 私は亡者で、彼は生者。

 それが、私の知る簡単ざんこくな、この世の理だった。

 この世界は、すぐに歪むのだ。ただ人が生きているだけで、時が進むだけで、ひどく歪んでいってしまう。そしてその歪みは、いつしか世界を壊してしまう。だから、そうなる前に歪みを取り除いてしまわないといけない。

 私の役割は、その歪みを取り出すことだ。たまった世界の歪みをぜんぶ取り出して、亡者の夜を作り出すのが、私の役割なのだ。

 そして、それを壊すのが、彼の役割。

 もう、何度となく繰り返してきたことだ。

 国は違っても、時代は違っても、姿は違っても、世界の歪みがたまるたびに私たちは生まれてきて、私が彼に役割を思い出させて、そして彼は私ごと夜を壊す。

 ――本当に、ひどい話だ。人間一人の魂に歪みを全部背負わせて、人間一人の魂にそれを全部壊させる。しかも一人わたしは死んでしまう。

「……一度は、他の人みたいに人生をめいっぱい生きてから死んでみたいな」

 だけど私には、どうしようもない。

 私が夜を作って戦わなければ世界が死ぬし、私が殺されなければ夜は終わらない。

 私に選択肢はない。

 私には、どうしようもないのだ。

 だから私は今回も、私の前まで辿り着いた彼に剣を向けた。



 俺の拳と、彼女の刃がぶつかる。

 紅い光が駆ける。白い光が奔る。

 何十回、光が交錯する。

 既に、亡者の夜は終わりに近づいていた。

 彼女の刃は、俺には届かないのだ。彼女の刃が光るたび、俺はそれを叩き落し、彼女の身体に拳を撃ち込んでいく。

 そのたび、彼女の光は――紅い光は弱くなる。

「次で終わり、だな」

「――まだまだァ!」

 彼女が剣を振り上げ、一歩踏み込む。

 その瞬間、俺は彼女の懐へもぐりこみ、彼女の剣を弾き飛ばした。

「しまっ――」

 彼女に、致命的な隙ができる。


 そして、俺は――。


 そこで拳を下ろし、腕を広げて彼女の身体を受け止めた。


 ――彼女に映像を流し込まれて、自分の魂の役割を理解した時、俺の頭の中に聞こえた声があった。

『次は、次こそは』

 それは、聞いたことのない声だった。

 だが、俺は知っていた。いや、覚えていた。自分の魂に刻まれていた。

『次は、助ける。助けてみせる』

 前を生きていた俺は、俺たちは分かっていたのだ。彼女が、この夜の主が、宿敵が泣いていたことを、心の中で助けを求めていたことを。

「今回は、今度こそは――!」

 彼女を、助けてみせる。

 助けを求める一人の女の子を、救ってみせる。

 やり方は、今までの俺たちが考えていた。考えに考えて、やってみて、失敗して、またやってみて――そして、ついに見つけた。

 俺は彼女の背中に手を当て、力を込める。

 手が、彼女の中の何かをつかむ。

 彼女の中に集められた、世界の歪みだ。

「これだ!」

 俺はそれを力任せに引き抜く。

 黒い、淀んだ塊が彼女の中から出てくる。

 俺はそれを宙に投げ、思い切り殴って砕いた。


 ――紅い夜が終わる。

 空から月が消え、地平線から朝日が昇る。

「この結末は、見たことなかっただろ」

 俺は、地べたに座り込んだ彼女に、手を伸ばした。

、俺の名前は柳 修次」

「えっと……久坂 蛍、です」

 おずおずと伸ばしてきた彼女、蛍の手を、俺はつかんで引っ張った。

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The two and a half hours.(にごたん短編集) みら @mira_mamy

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