Time Keepers
第31回にごたん参加作品
お題:【tide】【完璧なギミック】【青春の神様】【マリーゴールド】
「シズハ、今回の任務は?」
「西暦二一三四年十一月十二日にて、青田清春氏の安全を確保することです、マスター」
弘人の問いに、彼の相棒であるS1z-8――シズハが機械人形らしい無機質な声で応えた。
「そうだな。じゃあ、現在のおおまかな座標は?」
「西暦二一三四年の日本国、東京都内の――公園です。マスター」
「……俺たちの現状は?」
「同公園内の茂みの中から、青田清春氏を観察しています。マスター」
視線の先、ベンチに少女と一緒に腰掛ける、恐らくデート中と思しき青田清春少年を見ながら、弘人は一つ、ため息をついた。
「なんで時軸移動までしてきて、俺達は出歯亀みたいなことをしているんだ」
「出歯亀みたい、ではなく現状は完全に出歯亀です」
彼らはこの時代、西暦二一三四年の存在ではない。
もっと遠い先の未来、時間軸の移動が可能になった時代に組織された、時空警備局のエージェントである。彼らの目的は『歴史の保護』である。だから今回の任務も、そのような大義を帯びているのである。この少年の身柄そのものが、歴史の分岐点なのだ。
それはわかる。わかるのだが、現状はただの覗きである。
「それでシズハ、俺達はいつまでこうしていればいい?」
「警備局から提供された情報によりますと、もうしばらく後に変化が起こります。どのような変化かは、不確定要素が強いため私達で対処する必要があります」
「不確定って――」
アバウトな。そう、弘人が続けようとした時だった。
「シズハ!」
弘人が咄嗟に叫んだ。
「時空固定空間、展開します!」
その声に応えるように、シズハの体から光が放たれる。その光は辺りを包み――数十メートル四方の直方体内の時間が、固定された。公園の時計の針が止まった。青田清春少年と隣の少女が雑談したまま停止した。公園内を走っていた人が固まった。そして、そよ風に揺れていた草花が、そのまま動かなくなった。
「反射的に空間を展開しましたが……マスター、現状を教えてください」
「どうやら不確定要素とやらは、お客さんのことみたいだ」
この、時が止まった空間の中で動いているのは弘人とシズハと、そして、青田清春少年らの傍にいつの間にか現れていた男が一人。
「行くぞ!」
明らかに、不審者である。時を止めた中で動ける存在など、この時代に居るわけがない。
「お前ら動くな!」
テーザーガンを男たちに向け、弘人が叫ぶ。
「何だ、貴様ら」
「時空警備局です。その少年に危害を加えるつもりならば、排除します」
「――警備局か」
男が銃を抜く。
「この男は、邪魔なのだ。将来、我々の敵となる」
「銃を置け! マジで撃つぞ!」
「ふん、実銃でなくテーザーガンなぞ構えている貴様らに、私達の覚悟が分かるわけがあるまい。時代を変える、その覚悟が!」
男は銃口を、時間が止まったままの清春少年に向けた。
男が引き金に手をかける。
「させねえよ!」
瞬間、弘人はテーザーガンを放った。男が引き金を引くよりも早く、テーザーガンの先が男に刺さり、放電する。
「シズハ!」
「無力化します。多少の怪我はご容赦下さいませ」
痺れている男にシズハが跳んで寄り、足を払って組み伏せる。男が「ぐ……」と低くうめくが、もはや無駄な抵抗であった。
「……お前らの覚悟なんざ知ったこっちゃないが、少年少女のデートの最中を邪魔するくらいに余裕がない未来なんざ、俺は願い下げだね」
無力化された男に近寄り電子手錠をかけながら、弘人は一つ、口角を上げるように笑った。
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