兵士と少女
第27回にごたん参加作品
お題:【名刺】【will】【免罪符】<虹>
もしも、君の瞳に映る世界がこのままならば、君は俺を殺すのだろうか。
あまり味の良くない支給品のレーションを頬張る少女を見ながら、俺は心の中でつぶやいた。
砲弾によって穴が開いた小屋の中は、少女が食器を動かす音だけが響いていた。
俺は、世界に取り残された兵隊だった。
侵攻する敵国軍に踏みつぶされた防衛隊の生き残りで、最終戦争に置いて行かれてしまった人類の生き残りだった。
通信機は生きている。だがどこにも通じない。
多分、世界は死んでしまっている。引いてはならない引き金をひいてしまって、どこもかしこも共倒れをしてしまっている。
俺に残されているものは、ほとんどない。
わずかばかりの武器弾薬と、恐らくはもう影も形もなくなっているであろう自国の国旗が縫い付けられた軍服と、保存という一点はとても優れているが味はまずいレーションと、そして少女が一人だけだ。
俺の傍に居るのは、俺が親を殺してしまった少女だけだ。
あの時は、錯乱したこの子の親に武器をつきつけられたから応戦したのだ。そう、それだけなのだ。物陰でぼうっとしているこの子を見つけなければ、身を護るために引き金を引いた話で終わっていたのだ。
感情の乏しい黒い瞳で見つめられているのに気づかなければ、そして俺に一欠片たりとも良心が残っていなければ――。
ふと、食器の音が止まった。
少女の手元を見ると、レーションの容器が空になっていた。
「足りないか?」
少女は首を横に振った。
「歩けるか?」
少女はこくりと頷いた。
「なら、もう少ししたら行こうか」
俺たち以外の生き残りを探す旅路の終わりは、一向に見えない。
どのような終わりが来るかはわからない。
ひょっとしたら、俺たち以外の生き残りを見つけられるかもしれない。
その前に食料が尽きたり動けない怪我を負ったりして、荒野でのたれ死ぬかもしれない。
――もしかしたら、親の仇と言われてこの少女に殺されるかもしれない。
元はと言えば、死に場所を間違えた身だ。死ぬ覚悟などとうにできている。それこそ、少女が武器を持って俺を殺しにかかるなら、俺としてはそれでもいいのだ。
しかし、それよりも、だ。
俺にだって、意地がある。
できることならば、子供には笑ってほしい。
できることならば、彼女の瞳に光が灯ってほしい。
できることならば、彼女の目に映るのは俺や荒野ではなく、同い年の子供や花畑であってほしい。
それが、第19防衛隊所属と刻まれたドッグタグを持つ俺の意地なのだ。
国を守れなかった兵隊が持つ矜持の、最後の一欠片なのだ。
だから、俺は少女の手をひきながら、一面の荒野の中を歩いていく。
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