49. 終結
「あ、あれ、如月、大丈夫?」
結界が解けたところで、三条カノンは、四宮シノアを肩で担ぎながら、ガラガラと化学実験室の扉を開けて入ってきた。
俺が泣いて左手で顔こすっている七海ナミの頭に手を置いている姿をみて、戦いはもう終わったのだと認識しているからこその聞き方に聞こえる。
「まーな」
ふっと、緊張の糸が俺の中でも切れた。戦いが終わり、命の危険にさらされる事がなくなったのだと実感した。
腰がガクッと一瞬落ちそうになったが、それを見られるのは非常にかっこ悪いので、足のガクブル感は止まらないが、がんばって耐え抜く。
ゆっくり歩いて、席に座る。
「四宮、大丈夫か?」
三条カノンの肩に寄り添わなければ歩けないくらい疲弊している姿をみて、結界を破壊する行為がどれくらい大変なのかをうかがわせる。
「少し休んでいれば大丈夫よ。如月くんの方こそ、三条さんのサポートがあったとはいえ、よく持ちこたえたわね。放送禁止用語でも連発して、七海さんを混乱させることに成功したのかしら?」
「おい、放送禁止用語だけで、そこまで簡単に事が進むなら、俺の左腕や右足はここまで負傷してねーよ。そもそも放送禁止用語で七海が泣いて俺が頭をポンポンやっている姿だったら、それはそれでおかしいだろ?」
ふふっと四宮が笑う。
少しだけシーンとして。
三条カノン、七海ナミがくすすと笑う。
「如月、本当にそうだったらすごいウケるんだけど」
三条カノンは、四宮シノアを席に座らせて、机の上でうずくまらせるように横にならせて、笑い涙なのか目を人差し指で少しぬぐうように笑う。
「そんな訳ねーだろ」
先ほどが先ほどなだけに、笑ってリラックスする雰囲気はありがたい。一応突っ込みだけは入れておくものの、空気を和ませるために、俺をネタにしただけだよな?と心の中でだけ思っておこう。
「四宮さん、三条さんでしたっけ?改めましてです。七海(ななうみ)ナミです。如月さんには最初の頃、すごく辱められたのですが、さきほどの戦闘ではそこまでではなかったです。セクハラの如月さんとさきほどの如月さん、どちらのが本当の如月さんなのでしょうか?」
「ちょ、如月、あんた、セクハラしてたの?」
うわーっという引いた目で三条カノンは俺を見る。四宮シノアはもはや、当たり前の物として俺を見る。三条カノンと違ってノーリアクションなところをみると、空気を和ませるためだけに言った訳ではなさそうですね、四宮シノアさん。
「おいおい、それも戦術だよ。本気で辱めているんだとすれば、どう転んで、その後戦闘までして、和解すんだよ」
俺のツッコミ祭りは、空を切りに切り、少しの各自の笑いの優しい空気と三条カノンと四宮シノアの少しだけ蔑んだ視線が入り混じった不思議な空間を醸し出していた。
「三条、悪いんだけど、七海の右腕を治療してやってくれ」
戦闘で仕方がなかったとは言え、小さい女の子の腕を負傷させてしまった負い目を早くなくしたい俺としては、三条に治療を求める。
「あれ?!、如月カイ、あなたが治療できるんじゃないのですか?」
おっと、危ねー。伝えてなかった。
「あ、悪い、あれは嘘だ。時間稼ぎをしたかっただけだ」
「うわーです。さきほどから、セクハラに嘘にどんどんいい所がなくなっていくのですが。。。。。」
七海ナミまでもが、俺を蔑む。
俺はどこまでいってもそのキャラなのか。。。。。心身共に痛くて泣けてくるぜ。
「まーまー、とりあえず、私に任せてね。七海さん」
ブツブツと何かを呟き、七海の右腕を青白い何かを包まれた両手でさすっていく三条カノン。
「あ、痛みがなくなりました。ありがとうございます。三条さん」
ぶら下がっていた右腕を、手を広げたり握ったり、肩を小さく回して喜ぶ七海ナミ。
「いいのよ。さて、如月、あんたも怪我しているんでしょ」
そう言って、三条カノンは俺の左腕をさすり、右足の甲に上履きの上に手を置く。
その瞬間に、痛みと熱さと少し麻痺していたような感覚が少しづつ和らいでいく。
「おー、すげーな痛みが消えたよ。ありがとな」
「いいのよ。丸く収めてくれたみたいだし」
「あ、まー、そうだな。。。。。丸く収まったかどうかはわからないが。。。。。」
「そうなの?とりあえず状況を説明して、ねえ、四宮」
そう言って四宮シノアのほうへ話かけつつ見る三条カノン。俺も三条カノンの視線にあわせて四宮シノアを見るが。
寝ている。
「あら、寝ちゃってる。まー完全に今回もショートしちゃっていたからね。。。。。どうしよう。詳しい話はまた次回にする?傷が回復したとは言え、もう体力はほぼない状態でしょ?」
俺と七海は顔を見合わせる。
「はい。そうですね」
七海ナミが答える。
「とりあえずは、今後は敵ではないという認識だけは大丈夫?」
一応の最終確認を三条カノンはしてくる。
「はい。大丈夫です。如月カイが裏切らなければ」
「如月が裏切らなけば。って、如月」
じとっと俺を見る三条カノンの目は、お前はまたなんか言いくるめたのか?と言わんばかりの顔をしていた。
「まー。裏切ったりはしないし、おおよそ、三条の時と四宮の時と変わんねーよ。しっかり利害の一致をしていこうぜって話だよ。ただ少し三条や四宮の時とは、七海が求めているものは違うから、そこが要調整。ってところだな」
俺は三条カノンに答えつつも、安心しろよと言うアイコンタクトも兼ねて七海ナミに送っておく。キョトンとしているので伝わってない感は丸出しであるが。
「あ、お兄ちゃん、四宮さん、三条さん、ナミちゃん」
ここで、なぜか、化学実験室の前に現れるヒナリ。
「え、あ、おい、ヒナリ、なんでここにいるんだ?っというか、俺らがここにいるって知ってたのか?」
突然現れたヒナリにびっくりする。他の連中はどうなんだろと見ると
「あ、ヒナリちゃん。こんにちは〜」
そう言って、ヒナリに抱きつきにいく、三条カノン。
「あはは、こんにちは」
三条カノンに言い寄られて、少し嫌そうなヒナリ。
っと、その瞬間にヒナリは三条カノンのうなじの辺りに人差し指をつける。そして、三条カノンは崩れ落ちて倒れる。
?!?!
バサッと倒れる三条カノンに気に留めずにこちらに近づいてくるヒナリ。
「おい。。。。。ヒナリ。。。。。何やってんだ?三条」
「ごめんなさいです」
見ると七海ナミが、震えながらヒナリに謝っている。どういうことだ?
「いいのよ、ナミちゃん。でも私の求めていることと違うから、お仕置きが必要かもね」
そう言ってヒナリは、七海ナミに近づき、七海ナミの額に人差し指をつける。そして、七海ナミも三条カノンと同じように崩れ落ちて倒れる。
倒れた七海ナミを見るヒナリ。
ちょうど俺の前に立っているような形で頭が見えているので表情が見えない。。。。。
「おい、ヒナリ。。。。。お前何やってるんだ?」
状況の飲み込めない俺に、ヒナリは振り返り、笑いながら言う。
「だって、お兄ちゃん、ナミちゃんも言いくるめちゃうんだもん。もうダメだよ」
「は?!、まじで、意味わかんねーん」
「そうだよね。お兄ちゃんは、意味わかんないよね。ごめんね。お兄ちゃんには、無意識に無自覚に人生を送ってほしかったんだけど、みんなが色々、情報提供して邪魔をするからさ。適正のあるナミちゃん使ったりとかして、色々作戦を練っていたんだけど。。。。。」
動こうにも動けない。
「あ、ごめんね。お兄ちゃん。ちょっと強烈な術式を張らせてもらったの。多分もうすぐ喋られなくなると思う」
その言葉の通り、俺は喋られなくなった。
「あ、が、お」
「お兄ちゃん。タイムパラドックスボックスを作っては絶対にダメ。それは如月家が支配する為に必要な役割分担なの」
そう言って、ヒナリは俺の額にも人差し指を当てた。
「次に目覚めた時に、いろいろ話そうね。とりあえず、今はごめんね。お兄ちゃん。四宮さんもこの後対処しておくから」
タイムパラドックスボックス。。。。。
キッカケ。。。。。
生み出す。。。。。
平行世界の混沌。。。。。
思惑。。。。。
魔術。。。。。
俺の意思。。。。。
如月家。。。。。
新たな課題に対する物事の整理をする時間の猶予もなく、どんどん意識が遠のいて行く。瞼が閉じようとしてしまうその瞬間に、ヒナリはいつもと変わらない笑顔を俺に向けていた。
転生した転校生 帝尊(ミカドミコト) @goodasa
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