46. 仕掛け
◇◆◇
時は遡り
「それじゃ、善は急げだな。俺は今から化学実験室に行ってくる」
「如月くん、待って」
化学実験室に向かおうとする俺を引き止める四宮シノア。
「なんだよ、四宮」
「なんだよじゃないわよ。何も準備しないでいくの?」
「違うのか?」
「当たり前でしょ、愚かね」
呆れた様子の四宮シノア。安定の毒舌もセットだ。
「まー四宮、如月は今回こういった動きが初めてなんだから、大目に見てあげてよ」
四宮シノアを宥めつつ、俺のフォローを入れる三条カノン。
俺のほうをさりげなく見つつ、ね!!っと四宮シノアに言う。
こういう空気の読めるところはさすがの三条カノンである。
「如月、今から如月は化学実験室にいく。それで」
「それで?」
「私達は、どう動けばいいの?」
「あ、確かに」
「確かにじゃないでしょ。もう」
なんだか、三条カノンが優しい。毒舌安定の四宮シノアさんとは、やや違いますな。
これからすることをちゃんと考えていないで行動しようとしている子供に優しく指導してくれるお姉さんみたいだ。
あ、そのパターンでいうと俺がその子供か。行き当たりばったりの行動を見透かされているようだな。少しだけ恥ずかしい。
「私達の連携プレーが円滑に進むためにも、今から如月にも術式をかけるね」
「四宮、話の流れからするとテレパシー、遠隔監視はお願いして、なんかあった時用に万全状態をキープする役目を私がやるのでいいかな?」
三条カノンは、役割分担の決め打ちをしてくれる。仕切りもいけるんだな。俺は四宮シノアではやや難しい部分だ。助かる。
「そ、そうね、そうしましょう」
四宮シノアもそう思ったのか、一瞬、三条カノンの仕切りに戸惑いを覚えながらも賛同する。
「それじゃ、今から、四宮が如月にテレパシー術式と遠隔監視術式をかけるね」
「お、おう、頼む」
「そうしたら、如月くん、立ちながら目をつぶってリラックスしていて」
「お、おう」
これから初めて、俺の自分の認識としては初めての”術式”というのを経験する。
四宮シノアは俺の目の前に立ち、向かい合う形で同じく目をつぶり、両手を合わせながら、何やらつぶやく。こうして目の前にいると少しドキドキする。やはりなんだかんだ言って美人だよな。四宮シノア。
え、なんで見えているのかって、何やっているか気になるから薄めにしています。はい。
「we’ll」
「com」
「mind」
「link」
「sets」
宙に浮いてしまいそうな感覚、そして何かが体入ってくるような感覚、鼓動が早くなる。不思議な感覚である。
(聞こえる、如月くん)
「え、あ、え??」
俺は思わず、脳に響いて声にびっくりしてしまい、目を開けて、四宮シノアに向かって驚く。
「え、じゃないわよ。何びっくりしてるの。精神疎通しているんだから、普通に喋るのじゃなくて、返答しなさいよ」
驚いた俺にまたもや呆れたように片目だけを開けた状態で、四宮シノアは俺に指示をしてくる。
「あ、これがテレパシーって奴か。。。ちょっと待ってな」
再び目をつぶる。もうちょっと丁寧に状況説明してくれてもいいのではないかと思ったが、それはもちろん言わないでおく。
(しっかり聞こえているわよ。ごめんなさいね。手順が雑で)
「うお!!」
またしてもビビって目を開けて声を出してしまう。近くで三条カノンがクスクス笑っている。いやいやいや、ビビるだろ、普通に。
再び、目を閉じる。
(考えていること全部聞かれるんだな。テレパシーって恐ろしいな)
(全部は聞こえないわよ。テレパシーは、思っていることをすべてリレーションするわけじゃないのよ。
普段、生きている中でいうと言葉で伝えようとすること、心で思うこと。
この二つがあると思うのだけれども、そこに第三の行動パターンを得るような感じね。
最初のうちは慣れないから心で思っていることと精神疎通でリレーションとりたいことの使い方をうまくコントロールできないから、そのまま伝わってしまうと思うの。
現に、私は今。というか常に如月くんのことを軽蔑しているけど、その軽蔑は伝わってこないでしょ?
あと、テレパシーはリンクしてから精神疎通による対話が始まるので、リンクしない状態では会話できないわ。
本来は魔術を使える者同士でやればお互いの魔術量を消費しながらできるけど、今回は私の魔術量だけでいくので、消費も激しいから尚更、リンクは控えるわ。
今回のケースに関しては、私から一方的にリンクしてリレーションとっていくので、如月くんは自分からの精神疎通の対話をすることは意識しなくて大丈夫よ)
初めて体験する魔術というものに少し興奮を覚えながらも、テレパシーの説明を受ける俺。
いろいろ思うところはあるものの、今回は四宮シノアのメッセージを受け取れればそれでいいとのことだったので、特に意識するこもなさそうだし、助かる。
あとは俺の考えがだだ漏れになることだけは極力避けたい。
そして、常に俺のことを軽蔑している四宮シノアさんの告白には、相当びっくりが隠せないが、その気持ちはできれば伝わってほしい。人の心の痛みっていうのを知ってほしい。
(ちょっと何言ってんのよ。やめなさい。恥ずかしいから)
(お!!伝わったな。俺は傷つきやすい人だっての理解してもらえればそれでいい)
「っとまーそんなところよ。これ以上のやりとりは私の体力を奪っていくので、一旦リンクを閉じるわね」
「おう。了解」
「次に遠隔監視術式をかけるわね。これは、別に立っていたり、目をつぶっていたり、リラックスしていなくてもいいわよ」
「了解、じゃ、少し席に座るな」
俺自身は大した事をしている訳ではないが、新しいことのオンパレードで少し緊張してしまっているので、本番を前に疲れないよう一旦、近くの席に座る。
再び、四宮シノアは目を閉じる。今度は手を合わせていない。
「I’ll 」
「far away」
「target」
「see」
「sets」
四宮シノアは、カパっと目を開く。周りからすると何が起きているか全然わからない。
「OKよ。如月くんと意思の疎通も取れるし、遠隔監視もできるわ。これで如月くんが七海さんにセクハラをしていてもすぐに止められるわ」
「おい、違うだろ!!ミッションが変わってるじゃねーか」
「ミッションは変わっていないわよ。如月くんが幼女の誘惑にちゃんと耐えながら、本来の目的であるタイムパラドックスボックスへの道筋を七海さんに対してフィルタリングできるかどうかでしょ」
ある意味間違っていない。反論できない俺が悔しい。がんばれ俺!!
「あはは、まー戦闘になるかもしれいなからね。如月、手を出して」
三条カノンは笑いながら、手を差し伸べた俺の手を両手で握る。
「お、おい」
「如月、黙って。これは私からのお守り」
そう言うと
「we’ll power for battle.we’ll dragon’s magic.share」
とつぶやく
俺の手が青白い炎に包まれる
「おわっ!!」
青白い炎に包まれているその手は、熱くもなく痛くもなく、それでいてあふれんばかりの力がややみなぎる。
「私の攻撃魔術をシェアしておくわね。正直、私も万全じゃないとダメだし、そもそも如月の適正もわからないので少量だけね。3発だけね」
「これが、力か」
誰から習ったわけでもないのに、そのシェアされた力を俺は出したり引っ込めたりなぜかできていた。
力を入れれば、右手の拳は青白い炎に包まれ、力を抜けば右手の青白い拳の炎は消える。
「ほら、かっこつけなくていいから、準備は整ったので、行ってらっしゃい」
俺の浸った熱い感情は、四宮シノアの一言で冷水を掛けられる。四宮シノアよ。漢心が貴様にはわかっておらんな。
「それじゃ、今度こそ、行ってくるわ」
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