45. 戦い

 化学実験室にて


「あら、如月カイ、いらっしゃいです。今日はもう来ないのかと思いました」

 七海ナミは開口一番、挑発的な態度を取ってくる。

 昨日の会話のイニシアチブは、もう有効ではない事を窺わせるようだ。


「そう言いつつも、七海、どう見ても俺を待っているように見えるけどな。自分の思惑通りの展開を想像できて、待ち遠しかったんじゃないのか?」

 出し惜しみして、少しだけ昨日の駆け引きの勝利の余韻を味あわせてやろう。

 結果その余韻と違う着地地点に対しての怒りの反動があったほうが、感情的に持って行きやすいだろう。

 最悪の状態を想定した時でも相手が冷静でないほうが、戦いにおいては優位に事を運ぶ事は多いはずだ。


「え?!、そんなことないですよ。ナミはいつだって忙しいので、やらなければいけないことがいっぱいあるのです。いちいち、如月カイを待っている為だけに、ここに居たりはしないですよ」

 七海ナミは、図星をつかれたか、少しだけ慌てたリアクションをする。

 満面の笑みであるところからも自分の提示した条件でまとまる事に疑いがなさそうで嬉しそうだ。


「それで、ナミの言った通りの流れで大丈夫ですか?」

「いや、申し訳ないんだが、七海の案を受ける事はできないな」

「そうですよね。それしかないですよね」

 うんうん。っとニコニコしながら頷く七海ナミ。


「って、あれ?ナミは聞きまちがたかもしれないです。もう一度言ってもらっていいですか?」

「だから、七海ナミの提案は受けない事になった」

「えーーーーーーーーーーー」

「なんでですか?いいんですか?いいですか?ヒナリさんに何かあってもいいですか?」

 明らかに最初、自分の脳内ストーリーに侵されて人の話を聞いていなかった七海ナミは改めて現実の俺の返答を聞き、慌てる。


「七海ナミ、お前との駆け引きはもう終わりだ。

 俺はお前がなんと言おうと別世界軸、別時間軸から来たエージェントだと思って接する。

 よって、七海のしたいことが何かを知りたいと言うフェーズを飛び越えて、受け入れることもなければ、むしろさせない方向で考えている。お

 前は俺がやろうとしているビッグプロジェクトの研究を一緒に手伝う助手となるのだ」

 俺は、大掛かりなプロジェクトの存在を教え、そのミッションに七海ナミが選ばれたのだ。と言わんばかりの立ち振る舞いで、強制的な勧誘を始める。

 ここからは厨二病発動だ。


「はう。。。何を言ってるんですか?会話がぶっ飛びすぎて理解不能です。

 私のやりたい事の見ない振りする密約どころか、それをすることすら拒否して、如月カイの幼女研究の被験体になれってありえなさすぎます。

 これはもう第1級犯罪の匂いしかしません。今ここで如月カイを倒し、ナミは如月カイを牢獄に投獄します」

「こらこらこら、俺がいつ幼女研究をやるっていったよ。そもそもやったとしてもビッグプロジェクトじゃないだろ。それがビッグプロジェクトだったら俺は未来永劫頭おかしい奴だぞ」

「その認識ですが?」

 七海ナミは自分の体を隠すような姿勢をしながら、俺への警戒心を一層高める。


 ただ、このやりとりはありだ。昨日作り上げたイニシアチブを取る効果が薄まってきているので、ここらで少し巻き返そう。


「七海〜、幼女研究をビッグプロジェクトと認識する貴様のほうでヘ・ン・タ・イなのではないか?ん〜?」

 俺は、今までに見た事のないくらいドヤ顔で上から目線で、七海ナミを小馬鹿にするように言ってやった。


「そっちの認識じゃないです」

 言葉の揚げ足を取られた七海ナミは顔を赤らめて、手を振りながら全力で否定する。


「どっちの認識なんだ?ん?言ってみろ、このヘ・ン・タ・イ幼女が」

「なんて奴なんですか。信じられないです。幼気な子の言葉の揚げ足を取るなんて。ナミが言ったのは、如月カイが未来永劫頭のおかしい奴って発言への認識です」

「なるほど〜。まーそういう事にしておいてやろう」


 悔しがる七海ナミを見て、昨日の最後に大どんでん返しされる前の会話のイニシアチブがこちらに移った状態に持ってこれた事を認識した。この流れ、OKだ。

 しかしながら人の弱みに付け込むやり方がヘンタイ方面で持って行く流れになっているのは、世界を救おうとしている者のとして、これ以上ない恥ずかしいスキルなので、このスキルに依存だけはしないよう気をつけておこう。


「ビッグプロジェクトは幼女研究ではない。そもそも七海がいなくても遂行されるプロジェクトなので、幼女絡みではない。俺が進めてようとしているプロジェクトは、タイムマシンの開発だ」

「タイムマシン・・・・・ですか?」

「そうだ。七海が何をやりたいかは知らんが、俺はタイムマシンを作らなければいけない。だからその為に、この実験部も化学実験室も研究開発に割く時間もメンバーも必要なんだ。七海がヒナリを脅しにつかったとしても、俺はこのプロジェクトを遂行しなくてはいけない使命があるから従えんし、なんなら七海を従わせる方向に決まったわけだ」

「なるほどですね〜。それが如月カイ。あなたの、もしくはあなた達のシナリオなのですね」

 七海ナミは少しだけ、ニヤけたような表情をし、少しだけ勝ち誇ったような顔をする。


「シナリオって何言ってんだ?」

「惚けますか?いいですよ。惚けたって。では、少しだけナミの話をしましょう。ナミのやりたい事もタイムマシンなのですよ。如月カイ」

 俺は、まさかの七海ナミの告白にびっくりする。

 これだけ拒んでいた七海ナミの情報があっけなく開示された事はもちろんの事、目指している物が一緒だった事に。


「だけど、ナミの一番の目的は、如月カイ。あなたをタイムマシンに関わらせない事なんです」


・・・・・・


「何だって?」


「I’ll」

「switch」

「here to a battlefield」

 七海ナミは俺の問いに答える事なく、何かをつぶやき始める。


(こ、これは)

(如月くん、まずいわ、結界を張られるわ、すぐに化学実験室から出て)

(会話の流れ的に、③ルートじゃないのかよ。なんで結界を張られるんだ?)

(それは後で私の見解を話すからすぐ逃げて)


「the world of the barrier」

 俺は、七海ナミに背を向けて、化学実験室から急いで出るよう走り出す。


(如月くん、逃げる事に意識しながらでいいから聞いて、七海さんの目的は如月くんをタイムパラドックスボックスのキッカケから)


・・・


「sets」


 ブツ


 そこで俺と四宮シノアとのテレパシーは途切れ、俺の後ろに何かが飛んでくる。


 その飛んできた”モノ”が自分の背中に迫る

 

 その瞬間


 左足を軸にして右反転し、裏拳で、青白く尖った槍の先のような”モノ”を吹き飛ばす。


「如月カイ、、、、、あなた、、、、、魔術使えるの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る