41. 盲点

「そうなの。それで?」

 思った以上に普通のリアクションをする三条カノンに少しだけビックリする。


「それで?って三条、お前、驚かないのかよ?」

「驚かないでしょ。それよりもむしろ、新たなエージェントが現れた事に驚いているほうが驚くんだけど」

 三条カノンは、マジマジと俺や四宮シノアを見ながらごく普通にそう言い切った。

 言われてみればその通りである。


 しかしながら気になるのは、俺が完全に二人以外のエージェントが続々現れる事に盲点だったのに対して、三条カノンから指摘されるまでは気が付かなかった四宮シノア自身も新たなエージェントが現れた事に俺と一緒に驚いた事である。

 それは、もしかしたら四宮シノアと三条カノンでは少しだけ自身に置かれている環境やエージェントに対する概念や考え方が違うのかもしれないと思うには十分なやりとりである。

 今はそこを追求すべきではないし、なんなら四宮シノア事だ。

 俺がその点に気付いた事には気付いているかもしれないので、どこかで二人でやりとりするタイミングがあった時にその点に関しては話をしてみるとしよう。


「そうだよな」

 四宮シノアがリアクションに困るだろうと思ったので、俺は四宮シノアが喋るよりも先に喋っておく事する。

「それでだな、今までの三条や四宮の時とはアプローチが違くてだな」

「そうね、むしろ、そちらのほうが気になる」

 三条カノンは、口を挟んでくる。


「あ、そうか、まさに三条が気になるところの話になるんだが、自分がエージェントである事は名言しないんだ。

 後、一つ大事な事を言い忘れていた。俺、三条、四宮、そのエージェントと昨日の段階で会ってるんだ。

 正確には見かけた。って表現が正しいかもしれないが」

「如月くん、説明が下手くそね。ちゃんと順序だてて喋らないと分かりづらいわよ」

 おっしゃるとおりです。四宮シノアは、指摘という形であるが俺の拙い説明にフォローを入れてくれる。

 昨日と同じく、七海ナミという名の子で、俺、三条カノン、四宮シノアが二階堂アヤノ先生と実験部に入る入らないのやりとりをしていた時に、通り過ぎた実験をしていた小さい女の子である説明を補足で追加した。


「そんな子いたっけ?ま、いいや。続けて」

 三条カノンはあっけらかんと続きを促す。

 説明を省いてしまう俺も俺だが、いいや。って、そう言ったところを見逃していると今後結構大事なところを見逃すんじゃないか?と思うものの、そこは追求すべき点ではないので、新たな性格の発見だけにとどめさせてもらって続きを伝えていく。


「七海ナミの用件はシンプルだ。科学実験室は自分が使うから、お前達は使うな。だと」

「は?、何言ってんの?というかなぜそんなに上から目線な訳」

 三条カノンはすぐ様に反応する。

 もしかして四宮シノアさん同様、上から目線が気になっている訳じゃないよな?

 上から目線は、三条カノンさんも四宮シノアさんもあまり変わりませんよ。

 俺に対してだけ特に上から目線すごいけど。

 あ、もしかして七海ナミも俺に対してだけ上から目線、というか大人ぶりたかったのだろうか。

 だとすれば、俺はもしかしたら変な女難の相があるのかもしれないな。

 今度お祓い行ってこよ。


「まー、上から目線はいいとして、俺達も強制的に入れられるのは拒んでいて、もし入るのであれば、拠点としての有効活用をしようと昨日話をしたばかりだったからな。どうするのかを決めたくて」

「どうするもこうするも、ないんじゃない?なぜ、私達が、その七海なにがしの言う事を聞かなくてはいけないわけ?」

 攻戦的な返しをしてくる四宮シノア。

 やはり四宮シノアさんもその七海なにがしの上から目線がお気に召してないのだろうか。

 それともただ単純に命令的な印象に嫌悪感を示しているのか。


「ちなみに七海ナミだ。なにがしではない」

「そんなこと、どうでもいいでしょ?」

「あ、はい」

「それでどうするの?」

 俺の小さな返答に対しても苛立つ四宮シノアを見て、これは自分なりの譲歩案を提示しても厳しいだろうと思い、少し心情的に攻めてみる。


「もちろん俺も、そのまま、はいそうですか。と言うつもりは無かったから、俺達が七海の申し出と言うべきか、依頼と言うべきか、命令と言うべきか、分からないが、その内容を従わなければいけないメリットは何だ?という聞き方としてみた」

 実はそんな理知的なやりとりをしていないが、そのまま話すときっと怒りの矛先が俺に向いてくるのではないかと思ったので、少し内容をオブラートに包ませてもらった結果、メリットという言葉が一番わかりやすいだろうと自分の中では結論づいた。


「それで?」

 前置きははいいから、お前のその浅はかな考えを教えろと言わんばかりの四宮シノアの相槌に、変な事を言うと口撃が凄まじい事になるかもしれないと警戒しつつも、一点すごく気になっている事を伝えてみる。


「明確なメリット提示はされなかったな。但し、ヒナリさんを大事にしろ。と言われたのがすごい気がかりだ。

 そもそも接触を図るなら、四宮や三条みたいに結界を張るなりして、俺だけに接触を図ればいいだろ?

 今回は結界が張られていることもなければ、もちろんタイムパラドックスボックスの話もなければ、別世界軸、別時間軸の話もなく、そして、普通に友人を語り、俺の家にやってきてヒナリとも接触を図った後に、俺とやりとりしているって経緯がすごい気になるんだ」


「つまりは、如月くんとしては、わざわざ結界も使わずにヒナリさんも絡ませた上で接触してくるということは、ヒナリさんを人質までは言わないにしろ、余計な事したら安全を保証しないよ。と言われているように感じたと?」

 さすがは四宮シノアである。

 意思の疎通が取れた時ほど、四宮シノアの汲み取り能力の高さには脱帽してしまう。

 普段からすべて汲み取ってくれたら最高なのだが。。。

 大事な場面で汲み取ってくれるだけありがたく思わなければな。


「え?、ヒナリちゃんを引き合いに出されているの?」

 三条カノンも珍しくトンチンカンな事を言わない。

 ただ普通のリアクションしただけだが、あっちの方向の意見出されたり返答されるよりはどれだけ助かるか。

 対人関係周りの空気は読めるんだけどな。それ以外がからっきしなのが、三条カノンの少し痛いところではある。


「少なくとも、俺はそう思っている。もちろん他の可能性もあるかもしれないが、ヒナリの身の危険を感じている以上は、は?お前何言ってんの?あっちいけ?とは言えないんだよ」

「じゃ、実験部は入るのやめる?それで問題解決にはならないとは思うけど。。。」

 三条カノンは答えを求めてくる。

 そして問題解決にならないという本質からズレた行動になるけど、大丈夫?と釘を刺してくる。今日の三条カノンはどこか冴えているような気がする。

 俺がこういった三条カノンの側面を知らないだけなのかもしれないが。

 

「そこがだな。実は、七海の申し出には一点盲点があったんだよ」

「え、なになに?」

 俺が少しドヤ顔で言うと、三条カノンもすごく気になるようで、身を乗り出して聞いてくる。四宮シノアは分かってか分からずかノーリアクションである。

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