39. 謎
「な、なんですか?」
七海ナミは、今の時点で、厳しい事ばかり言って苛め尽くしてくる俺にに対して完全に敵意むき出しになってしまったので、完全にいい提案をしているつもりが、疑ってかかられる。
持っていきかたをやや失敗したか。
「まーまー。折衷案というくらいなので、いい話だと思って聞いてくれ。
実は、俺や三条や四宮は実はそんなに部活に入りたいわけではないんだ。
色々な事情というかなんというか、まー二階堂先生の目の届く範囲の部活に入りなさい。ってことで実験部に白羽の矢が刺さっただけなので、正直いうとまともに活動するつもりはないんだ」
「そうなんだ、じゃ、如月カイとその一味は、幽霊部員になろう」
さっきまでの落ち込みと疑心にまみれたオーラを放っていた七海ナミは、一気に世界が切り開かれたかのような明るさになって提案してくる。その一味って。。。
「その一味って。お姉さん達がいる前で言っちゃダメだぞ。特に一人はプライドの塊のようなお姉さんなので、俺一味みたいな扱いをされるのを非常に嫌がるからな」
もちろん、四宮シノアの事である。
「あ、うん、わかった」
自分の望んでいる方向に向かっているとなると素直で笑顔になるところあたりが当たり前が、ガキだな。
交渉事というのは最後の最後まで気を抜いちゃいけないんだぜ。って俺も高校生だけど、無事平穏な生活を確保するためにしてきた交渉事を色々考えていくと、随分、打算的な考え方をすることが多くなったなー。と少し遠い目で自分をみてみる。
「ただしだな、ここからが七海にも少し譲歩してほしい点だ。俺と三条と四宮もある程度活動記録は残しておかないと、完全な幽霊部員は二階堂先生が黙っちゃいないからな。だから、曜日を分けたりして一緒に使う日は一切無くしていくのはどうだろうか?」
「うーん。それはー。うーん」
うん、わかった。それいいね。という答えをすぐに出してくる想定をしたので、悩んでいる姿をみて、少し違和感を覚える。
そんなに毎日やりたい事なのか?
「如月カイのほうで実験部でやろうとしている事は、ナミも入れて。それだったらいいよ」
交渉事の意味がわかっていない幼女は、全力でいいでしょという笑顔で条件を提示してくる。
もはやギブアンドテイクではない条件。
なんとかタイムパラドックスボックスの研究を実験部を使ってやりたい俺としては、うまく日にちをシェアする事で今回の問題をクリアにはしたかった。
そもそも七海がエージェントかどうかという点も解決していなければ、エージェントでなかった時にどこまで絡ませるのか。
エージェントだった時に敵なのか味方なのかを見極めて、どこまで絡むのかの判断ももちろんできないので、今の時点で七海ナミに求められた要望に関して答える事が難しい。
「仮に俺や三条や四宮の実験室での活動を七海が一緒にやったとして、七海のやりたい事を俺や三条や四宮が関わることは大丈夫なのか?」
「だめだよ」
「関わる事がダメなら、知る事はいいのか?」
「だめだよ」
「おいおいおい。それじゃ歩み寄りにならなくないか?」
「うーん、よくわからないです。もしかしたら、三条カノンや四宮シノアは場合によっては、関わってもいいかなーとは思いますが、如月カイ、あなたはダメですね」
「なんでだよ?」
「それは、わかるでしょ?」
その言葉と共に七海ナミが今まで纏っていた空気が変わる。
扉を開けた瞬間に感じた威圧的なオーラである。
「おい、それって」
俺の勉強机の椅子から降りて、帰ろうとする七海ナミ。
本当は肩でも掴んでとめたいところだが、なぜか体が動かなかった。
「如月カイ、あなた思ったより、頭が切れそうですね。
なんとかいい流れで関わり合いを自然に無くしていけたらとおもっていたのですが。
提示してきた案が結局、相手の行動の深堀をしてくるところに持ってくるあたりが、策士ですね。びっくりです」
いままで話をしていた七海ナミとは全く違う人間なんじゃないかと思うくらいに、身の危険を感じるような喋り方をするのを見て、俺は確信する。
「七海、お前、エージェントだろ?」
あえて、別世界軸、別時間軸という言葉を使うのをやめておく。最後の希望を残したく。
「エージェントってなんの事ですか?じゃ、ナミは帰りますね。」
そう言いつつも、扉を閉め際に
「ヒナリさんが大事なら余計な事はしないでくださいね。なんでナミがヒナリさんとだけ先に会っていたのかはもう少し考えてみるとよいかもですよ」
こいつ。化けの皮を一気にはがしてきやがった。
「おい」
扉を開けた先には、ヒナリと七海ナミがいる。ヒナリ、どこまで聞いてたんだ。
「あ、七海ちゃん、もう帰るの?お兄ちゃんがなんかゴメンね」
「ううん、いいのです。少しだけ誤解は解けたのです」
「そうなんだ。お兄ちゃんも何したんだか、知らないけど、あんまり人に迷惑かけちゃダメだよ」
さきほどの俺が見せていた設定を延長で話をしているように聞こえた俺は、そのまま会話を合わせる事にする。
「あ、あー、そうだな」
「じゃ、ヒナリさん、カイさん、私は帰るです」
「送っていかなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ〜。またね〜です」
玄関の扉を閉めて、七海ナミは去っていった。
「ヒナリ、お前、俺らの会話聞いていた?」
「ううん。聞いてないよ。そんな無粋なことしないよ〜。たまたま部屋に戻ろうとしたら、七海ちゃんが出てきただけだよ」
「あ、そうか」
ほっとした。
ヒナリの身の危険を案ずるような発言にヒナリが敏感に反応をするともはやカオスオブカオスだからな。
これ以上の問題点が増えない事にとりあえずは安心する。
「お兄ちゃん」
自分の部屋に戻ろうとするヒナリは扉を閉めがてら、
「今度、色々、聞かせろよ」
そう言って、にひひと少し作り笑いをしたようなヒナリは、自分の部屋の扉を閉める。
違和感の気づきからの汲み取り疑惑から、今の表情に至るまで、なんだか色々勘ぐるところはあるのかもしれない。
なんだかんだで感の良いやつだからな。もろもろ落ち着いたら、全部話せるようにがんばるわ。
部屋に戻り、緊張感のあるやりとりに疲れて少しベッドに横になる。
結界を張っている様子はなく、結局最後までエージェントとしての決定打は見えないものの、最後のやりとりだけでみると確実な気がするが。
仮に別世界軸、別時間軸のエージェントであっとして、なぜあそこまで、隠し切るのだろうか。
今までの四宮シノアや三条カノンとは圧倒的に違うアプローチである。
ともするならば、四宮シノアや三条カノンはプロセスは違えど、目的地は似ているからこそのアプローチも似ていたわけである事を仮説を立てられる。
いよいよ本格的に俺を排除してようとしてくるのほうのエージェントなのかもしれないと思うと、心臓のあたりがザワザワしてくる。
完全に心臓を打ち破られる前の状態であるはずなのに、記憶がその痛みを覚えているのだろうか。
まずは、四宮シノアに連絡しないとな。こちらに向かってきていると思うし。。。
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