37. その幼女、悪者につき
「は?!、まて、ヒナリ、七海(ななうみ)ちゃんほっといて。ってどういう事だ?」
「え?、だってお兄ちゃんの知り合いでしょ?お兄ちゃんの部屋で待ってるよ。ってか、あんな小さい子とどこで知り合うのよ?
さすがに四宮さんと三条さんと同じように取り合いしているなら、マジで引いちゃうから勘弁してね」
まさか次なるエージェントなのか?
四宮シノアと三条カノンとタイムパラドックスボックスことで頭がいっぱいになっていて、全く想定してなかった。
しかしながら当然と言えば当然である。なぜこんな場面で現れるとは思っていなかったのか、自分の浅はかさを悔いたい。
ヒナリや家族が俺とこれ以上一緒にいるのは無理なのかもしれない。と少しだけだが思ってしまいもする。
離れたところで、刺客が関わらずにいけるのか。って言われるとそんなこともないだろう。
「あーまじか、七海がきているのか。まいったなー。
ヒナリ、いいか、よく聞け。俺は七海を怒らせてしまっている可能性があるから修羅場になるかもしれん。
俺が部屋に行って、10分経ってもリビングに降りてこなかったら、その修羅場は長くなる可能性があるから、その場合は四宮に連絡してくれ。俺も今から一応四宮に連絡してみるわ」
次なるエージェントの可能性は非常に高いものの、七海という存在を俺が今時点で知らないのをヒナリに気付かれるのはよくない。
明らかに怪しすぎるので。
「え?、お兄ちゃん。何言ってるの?あんな小さい子と修羅場になるかも。って内容がすでに怪しすぎて、引くんですけど」
結局、ラブコメ取り繕ってみたが、怪しまれただけだった。
瞬時にそれっぽい話を作れるほど、俺のシナリオ構成力はそこまで高くない。
完全に、ヒナリから蔑まされた目で見られている俺。
本当の事が言えない以上、これしかなかったんだが、色々無理がある。
「ちょっと待ってな」
四宮シノアに電話する。
「もしもし」
「四宮、連絡先聞いといてよかったよ」
「どうしたの?」
「七海がいるんだ」
「え?、七海って誰?それってもしかして。。。。。」
さすがは四宮、察しがいいな。
「そうだ。あの七海だ。突然来られて困ってる。
文句があるっぽいので、それ聞いて窘めて、すぐ帰るようには言うけど、駄々こねたら、四宮が無理やり連れて買ってくれないか。
俺はこれから七海と話してくるので、その間に来てくれるとありがたい」
四宮シノアが俺との少ない会話から、初めて聞く名前が、恰も知っている人のような口ぶりで話されたことで、状況判断をしてくれたことには感謝しなくてはいけない。
「わかったわ。一応、ヒナリさんの連絡先を私に送っといて。っで、ヒナリさんにはどこまで話をしているの?」
「もちろん、今話したことだけだよ」
「わかったわ。じゃ、後ほど」
ヒナリに聞かれても問題ない内容を電話口で四宮シノアとオブラートに包んだ会話をして、真意を伝えるのは成功したようだ、
ヒナリには、なんとなくラブコメのもつれだとしても、そこそこナイーブなことなのかもしれないという事が伝わって入ればわOKである。
「なんか、色々あるんだね、お兄ちゃんも」
うんうん。とうなづき、ヒナリも何かあるという事は察してくれたようだ。
「じゃ、そういうことなんで、四宮からもしかしたらヒナリ宛に連絡がくるかもしれないので、その時はよろしくな」
「うん、わかった」
ヒナリに四宮シノアの連絡先を教えて、四宮シノアにもヒナリの連絡先を送っておく。
「お兄ちゃん」
「ん??」
「あんまり、女を泣かせんなよ」
「アホ」
このやりとりが普段のラブコメ状態の中での会話であれば、俺もついにリア充か。とどんだけ浸れることであろうか。
もちろんラブコメ状態でもなければ、そんな気分でもない。
そしてヒナリはもしかしたら何かの違和感には気づいているかもしれない。
だが、一旦ラブコメ設定にしておきたい俺の気持ちを汲み取っての言葉なのかもしれないと思いながら、俺は紅茶を持って階段をあがり、自分の部屋の扉を開ける。
「こんにちはです。如月カイ」
俺の部屋の勉強机の椅子に座って俺が扉に入ってくるのをずっと待っていたかのような姿勢で、化学実験室で一人でコツコツ何か実験していた小学生中学年くらいのツインテールの女の子。その子が目の前にいた。
「おまえ。。。。。今日、科学実験室にいただろ?」
明らかに不自然に人の部屋に侵入しながらも、待っている最中に寝てしまった浅はかさ、いや、あどけなさを持ち合わせていた三条カノンのような状況でもない。
よって家族にばれないように襲いかかることをする必要もないが、そもそも、なぜ科学実験室で会った時に声をかけて来ずに、わざわざ俺の先回りをして家に入り込み、知り合いのふりをしてヒナリに接触をし、なおかつ部屋で待つような形をとったのかを考えなくてはいけない。
あわせて敵対視とまではいかないが、威圧的なオーラを七海というこの少女からは感じてたので、とりあえず扉を閉め、一定の距離を保ったままにしておく。
「はい。そうです。不用心ですよ。如月ヒナリさん。知らない人に声を掛けられてもついていっちゃ駄目なのはもちろん、家に入れても駄目なのは、小さい時に習わなかったのでしょうか?」
「ご忠告ありがとな。これからはどんな小さい子であろうとも、知らない子についていっては駄目だし、家に上げることもしては駄目だと伝えておくよ」
「む!!、それはちょっと差別的な発言ですね。ちょっとムカっとするです」
プンプンしていますよ。という顔をしている様子をみて、少しだけ威圧感が消えたように思える。
もしかしたら七海もただ緊張しているだけなのかもしれない。
知らない奴でも怪しさを取っ払うことができるすばらしいブランドである幼女は、自分がその恩恵に預かっているにも関わらず、子供扱いされることに対しては嫌悪感があるらしい。
そう、こんな小さい女の子が危険人物かもしれないだなんて誰も思うわけがない。
仮に俺を訪ねてきたわけでもなく、困ってるから助けてくださいと言われれば、ついていくな。とか、家に上げるな。という話になるわけもない。
そもそも応対しないなんてことがあれば、大人として年上としての倫理観を問われてしまう。
よって、幼女はこういった場面においては最強である。
もちろん男子でもある程度同じであるだろうが、怪しいクソガキと大人や年上の女子の組み合わせの場合は、その子供に対して対応をちゃんとしていなかったとしても非難されない可能性が高い。
まーその考察はいいとして。
「差別じゃない。七海(ななうみ)ちゃんがそこそこの大人で、いきなり俺を訪ねてやってきたとしよう。
ヒナリも多少は警戒して、俺に連絡してきて詳細確認をした上で、家にあげる形をとっていたと思うぞ。
なぜ何の確認もしないで入れたかっていうならば、七海ちゃんが幼女だからだよ。
だからわかるか?七海ちゃんは俺やヒナリを注意するには、前提が違うんだよ」
仮に七海が大人だったとしても、簡単に家にあげてしまいそうなヒナリが容易に想像つくのは言うまでもないので、七海に対するこの説明は矛盾があるのは悲しいところである。
ファーストコンタクトとして、会話のイニチアチブをとれそうな雰囲気を感じたので、冷静さを失わせるような感情的な反論にしたくかる言い方をし続けることにする。
「幼女押しで、ナミを馬鹿にしないでください。あと、七海ちゃんとか、ちゃん付けで呼ばないでほしいです。気持ち悪いです。変態です」
なぜか服を庇うような姿勢で拒否反応を示す七海ナミ。
「うぐ。。。子供のくせに変態なんて言葉を使うんじゃない」
二人しかいない環境とはいえ、幼女に変態と言われるのは、メンタルがキツイな。
「ふん。ナミは子供扱いされるのが一番嫌いなのです」
結局自己紹介されることはなく、ヒナリから聞いた七海(ななうみ)という苗字と、今、この子が自分で言ったナミという言葉で、この子のフルネームが七海ナミであることが判明する。フルネームがわかったところで何か大きな進展がある訳ではないが。
「そうか、じゃ、知っているか、七海ナミ。
お前が普段からそんなに生意気な事ばかり言ってたとして周りから何も言われていないとすれば、それは只の年齢マジックが働いているからだけだ。
年齢が上がっていって、年齢マジックの解除がされていけば、自分では今まで当たり前と思ってしていた言動も、周りが今みたいに大らかに受け入れてくれなくなる事を理解しておきな。
それくらい七海を仮に子供扱いしないのであれば、お前の行動は万死に値する内容のオンパレードであること伝えておいてやるよ」
「な、なんてことを言うんですか。
子供扱いを嫌がっただけで、そこまで否定してきますか。
なんて悪い大人なんですか」
ちょっとだけ涙目になって悔しがって抗議してくる七海を見て、ドヤ顔をしている悲しい漢の姿がそこにはあった。
ファースト口撃アクションの軍配により空気のイニシアチブをとる事は大事である。特に最初の探り合いが続いている時はイニシアチブ一つで展開が完全に変わってくる。
ただやはり幼女は強い。完全に俺が悪者になっているのは言うまでもなかろう。
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