36. 戯れからの、、、

「お、おう。じゃあな。気をつけて帰れよ」

 俺の言葉に見向きもせずにそのまま歩いていく四宮シノアを見送る。

 俺との会話にあわせてここまで来たのか、それとも四宮シノアの拠点は俺の家から近いのか?それを聞く事自体も野暮なことだとはわかっているのでもちろん聞く事はしない。

 ただなんとなく、四宮シノアの表面上とは違う内面的な何かが見えた俺は少しだけテンション高めで家路に向かう。


 家に着くと、ヒナリがリビングでソファに座って雑誌を読みながらくつろいでいる。


「お、おかえりー。お兄ちゃんも隅におけないね〜」

 すっかり忘れていた。

 朝のヒナリとの四人の時間でヒナリに色々な誤解を与えているステータスが続いているのであった。


「ヒナリ、お前は大きな勘違いをしているぞ」

リビングに俺はカバンを置きながら、台所でコーヒーを作ろうと湯を沸かそうとする。


「あ、お兄ちゃん、ヒナリの分と七海(ななうみ)ちゃんの分も頂戴。私達の分は紅茶ね」

「おい、それもはや、ついでじゃないぞ」

「いいじゃん。いいじゃん」


 七海って子の姿は見えないが、ヒナリの部屋にでもいるのだろうか。

 妹の友達の事をあれやこれや聞いたり、はたまた絡んだりするのは嫌がられるのはわかっている。

 本当は絡みたいが、お兄ちゃんはヒナリに嫌われるのだけは、もっとも心に大きな傷を負うので、余計な事はしない。


「それで、それで、お兄ちゃんはどっちが本命なの?それとも二人とも遊びなの?それとも二人に遊ばれているの?」

 ヒナリは、知りたい知りたい。と言った目をキラキラさせて見ていた雑誌をソファ近くのテーブルの上に置き、聞いてくる。


「こらこらヒナリ。遊び。なんていう言葉を俺は聞きたくないぞ」

「それじゃ、本命が」

「違う違う。ガールズトークってやつだな。ヒナリも普段友達とかとそういう話とかしているのか?」

 早くこの話題を終わらせたい気持ちもあるが、このタイミングでもないとちょっとこの話題を聞く事はできないので、ここぞのタイミングとして問うてみる。

 この話題ができるだけで、三条カノン、四宮シノアが朝、ヒナリと出くわした意味があったと思える。

 そして、親父よ。場合によっては、ヒナリの好きな人とか知っちゃったりして、戦闘不能状態になるかもしれんが、如月カイ二等兵、立派にこの職務を全うしたいと思います。


「お兄ちゃん、うまいな〜。そうやって妹の性生活をしろうとするなんて。セクハラだよ」

「おい、ヒナリ、お前、性生活とか言うな。艶かしすぎるだろ。

 しかもセクハラじゃない。会話の普通の流れだ。俺も答えるんだからな。

 その、あれだな、ヒナリもどうなのかなーと。男より女のほうが進んでるって言ったりするしな」

 ヒナリの口撃にどう交わしていいか分からなかった俺は、とりあえず色々と言い訳してみる。

 それにしても、ヒナリよ。性生活なんて言葉をどこで覚えてきたのだ。親父の前に俺のハートがブレイクしてしまいそうだぞ。


「お兄ちゃん、焦りすぎ」

 ヒナリは俺をからかうように笑う。

 考えてみると俺は四宮シノアにも三条カノンにもヒナリにも、なんなら二階堂アヤノ先生までからいじられる傾向があるな。

 愛されキャラなんだと自分に言い聞かせよう。Mじゃないからそう思わないと自尊心がしんどい。


「うちらもガールズトークは結構してるよ。さすがに同い年の子とかは子供すぎてお話にならないけど、みんなは先輩とかの話をしているかなー」

 中学生の女の子にとって同い年って子供なのか。なんか自分が中学の時とかにクラスの女子の前でかっこつけていた過去の俺、そしてモブ一同。

 お前達のあの見られていたかもしれない意識の行動は黒歴史であり、アウトオブ眼中らしいぞ。あ、この表現死語か。


「ヒナリも好きな先輩とかいるのか?」

 やべーー、聞いちゃったよ。これは完全に踏み込みべきところか悩む点であろう。だがしかし、俺は踏み込む。


「ヒナリは、お兄ちゃん一筋だからそういうのはいないかな〜」

「そ、そうか」

 できあがった紅茶をソファのテーブルに持って行き、自分はコーヒーを飲みながら勝利を噛み締める。

 勝利のコーヒーはいつもよりも味わい深く、苦い。至福の瞬間だ。


「って嘘だよ」


 ぶ!!

 ついつい吹き出してしまいそうなコーヒーをこぼさないようにしっかり飲みつつ


「げほ、げほ。嘘って何が?」

「え、言わなーい」

 ヒナリの小悪魔っぷりにしっかり発揮にしつつ、こちらのしっかり上目づかいで見ながら紅茶を飲む。

 どうか、どうか、どうか。神よ。ヒナリがこんな感じで小悪魔っぷりを発揮しているのは、俺だけにとどめてもらいたいと願わんばかりである。

 同年代や先輩であろうと、こんな感じで弄られていたら、惚れてまうやろ!!


「はい。ヒナリの話は終わりだよ。お兄ちゃんは、四宮さんと三条さん、どっちが本命ないのかな〜?」

 ヒナリは、楽しそうに再度投げかけてくる。

 会話の持って行き方がプロのキャバクラ嬢レベルだろ。

 プロのキャバクラ嬢と絡んだ事があるわけじゃないが、俺の妄想上では、聞きたい事をそれっぽく答えて別の話題に持って行ってしまうスキル。

 【change the word】。どこかの超有名曲っぽい名前。


「四宮も三条も本命じゃないな。俺も妹一筋だからな。

 二人は俺の事が好きで好きでたまらないみたいだけどな。俺は二人の事はなんとも思っておらん」

 三条カノンさん、四宮シノアさん、本当にすいません。

 この場を借りて謝罪させていただきます。自分、見栄はりました。

 そもそも本当の事を隠してそれっぽい説明ができるようなボキャブラリーは僕にはありません。

 なので、今後、ヒナリから、お兄ちゃんの事が好きなのにお兄ちゃんに振り向いてもらえなくて可哀想に。とレッテルを貼られてしまうわけであるが、本人達の自尊心はさておくと、これが一番理由付けとしては、無難である。三条カノンは許してくれそうだけど、四宮シノアは許してくれなさそうだよな。。。。。

 その後何を言われるかわかったものでもないし、自尊心を傷つけた代償をとして俺が償わなくてはいけないものを想像するだけに身震いがしてくる。


「うわ〜。お兄ちゃん。キモいよ〜」

 ヒナリに、完全に、引き気味で妹に見られ、ディスられる俺。

 なんで同じ事を言っているのに、妹が言うと可愛くて、兄が言うと気持ち悪いんだろうな。男女平等って嘘だよな。


「嘘だよ、嘘」

 一応、男女平等がどこまでいってもダメなのか、しっかり着地まで見定めて行こうじゃないか。


「うわ〜、今度は嘘って言ったよ。妹に気持ち悪い発言をしておきながら、最後は弄ぶような言葉まで言うとは、ヒナリは結構ショックだよ」

「俺、ヒナリと同じこと言っただけなんだけどな」

 やはり、男女平等はどこにもなかった。だが問題ない、ヒナリは可愛いからな。シスコン乙。


「あはは。人生そんなもんだよ。お兄ちゃん」

「なぜ、俺は妹に人生を悟られなければいかんのだ」

「まーまーまー」

 なぜか俺にフォローいれるヒナリ。落としたのもヒナリだけどな。


「ところでお兄ちゃん。七海ちゃんはほっといていいの?紅茶持ってってあげなよ?」

 ヒナリから衝撃の事実を伝えられる。

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