35. 魔術

「じゃ、帰るか」


 俺、三条カノン、四宮シノア三名は、化学実験室の控え室を出る。

 さきほどまでメインの教室でコツコツ何かしらの実験をしていたであろう小さい女の子の姿はそこにはなかった。


 さきほどの話の通り、入部届自体は明日に出そうという事で三人で下駄箱に向かう。

 やはりこういう時、三人に会話はない。俺も最初のうちは気になったが、これが三人の空気感なのかもな。と思い始められるようになってきた気もする。

 なぜならば、二人がほとんど会話をしないことを気にしていないように見えるからだ。

 仲いい人同士だと沈黙が別に耐えられない事はない。

 それも自然な状態である。というのを何かの情報で得た事がある気がするので、そういった意味では俺達も少しは距離感が近くなってきたのかもしれない。


 そんなことを思いながら、校門の前まで、俺と三条カノンと四宮シノアは、近すぎず遠すぎずの距離感で歩いていると


「じゃ、私、ここで」

 三条カノンは、俺や四宮シノアとは違う方向に向かっていってしまった。


 考えてみたら、三条カノンの家?、拠点?を知らないな。四宮シノアのもそうだが。

 あまり言いたくない事を追求するのもよくないだろうから俺から聞く事はきっとしない。

 ただ、これからの事を考えると何かあった時に居場所もわからない、連絡の取りようもないとなるとそれはいささか問題があるように思える。


 四宮シノアと二人で歩きなあがら、そんなことを思い、声をかけてみる。


「あ、四宮さ」


「何?」

 四宮シノアは、すごい自然に返答してきているのだろうが、すごい冷たい対応のように相手が捉えていることに気づいているだろうか?

 答えは否だろう。本人としてはどうでもいい事かもしれないが、俺としてもすこしビビってしまうし、どこかで少し愛想というものを知ってもらえるようタイミングを伺えればと思う。


「スマホとかって持ってるか?」

「持ってるけど、それがどうかしたの?」

「あ、いや、その、なんていうか、今後何かあった時とかにすぐ連絡取り合えるようにしておいたほうがいいだろ。だから、連絡先を交換しておこうぜ」


 なぜだかわからないが、すごく緊張する。そもそも俺のスマホの連絡先に赤の他人が入る事がないので、新しい人との絡みに緊張しているのだろうと自分に言い聞かせておく。


「そうね、いいわよ」

 四宮シノアが、あまりにも普通に連絡先を交換する事に許可してくれたので少しびっくりする。


「お、あ、いいのか?」

「何言ってるの?如月くんが教えて。って言ってきたんじゃない」


 馬鹿ね。と言わんばかりに少し笑いながら四宮シノアは、はい。っとライーンのQRコードを見せてくれる。


「お、さんきゅ」


 連絡先交換するのに慣れていない俺は、QRの読み取りに少し手間取りながら、これでいいいんだっけ?等と確認をとりながら連絡先の交換をさせてもらう。


「初めての連絡交換に緊張しちゃった?」

 四宮シノアが小悪魔風にお姉さんぶって聞いてくる。 


「お、おう。っていうか、四宮も連絡先交換するようなやついないだろ?」

 俺は、反論するような形でぼっち同士の斬り合いを始めてみる。


「そうね。初めての交換。こういうのも悪くないわね」

 四宮シノアはスマホを見ながら、少し嬉しそうに俺のほうを見て、四宮シノアらしくないコメントをしてくる。


「だ、だろ?」


 想定の範囲外である返答に、ついついテンパってしまい、意味不明な賛同を求める俺。

 四宮シノアって子はつくづく読めない。明らさまな上から目線で、人を言葉のジャックナイフで傷つけたかと思えば、こうやって神妙に何か思わせぶりないい回しや対応をしてくる時もある。

 これから一緒にいる時間が増えれば増えるほど、その場面を見る事ができるのだろうか。っとすれば、それはすごく特別な時間のように思える。


 四宮シノアも三条カノンも普段の集中力というか緊張感の張り方がきっと普通に生きている俺とは違う。

 だからこそ、こういった少し気を許す時間を設けてやる事ができたのであれば、それは、自分としてはすごくありがたいし、嬉しくも感じる。

 むしろ俺のほうが四宮シノアや三条カノンに対しての距離感が強いのかもしれない。

 いかんせん、対人スキルが低い俺としては、少しづつ少しづつ、気の緩む時間を作っていけたらと心から思う。四宮シノアの対人スキルの事を言ってられないな。


「そういえば、四宮。四宮と三条が戦闘時に俺が三条をかばう形で四宮の攻撃を受けようとした時の事、覚えているか?」


「覚えているわよ」

 四宮シノアからは言うつもりはなかったのだろうとこの返答にて気付かされる。


 この流れからすると三条カノンもほうも気づいているのかもしれないない。

 これは俺がもしかしたらすごい能力を持っているかもしれないフラグだと思ってはいたが、一向にその話を四宮シノアからも三条カノンからも言われないのは気にはなっていた。っで、ここでついに自分のほうから言ってみる事にしてみた。


「あれって、四宮シノアや三条カノンが使っていたような魔術に近いのかな?

 瞬間移動的な?

 少なくとも相当離れていた距離を瞬間的に移動できたので、正直自分でもびっくりしてはいたんだが」


「そうね。如月くんの認識で正しいと思うわ。

 正直、びっくりしたのは如月くんだけじゃなくて私もびっくりしたし、三条さんもびっくりしたんじゃないかしら」

 相槌のような返答しかしてこない四宮シノア。


「前にも言ったと思うが、俺も早く力というか魔術を身に付けたい。

 四宮や三条に守ってもらうってのは、俺の性には合わない」


「あら、何言ってるの?それがあなたの性分よ。

 少なくとも自分は痛い思いをせずに周りに犠牲を強いて道を切り開いていっている人のはずよ」


「いやいやいや」

 全力で否定をしてみるものの


「いや、でも、そうか。前までの自分を考えると、そうかもしれん。否定はできない。  人と極力関わらずに効率良く省エネで日々をどう過ごしていくのかが俺のミッションだった気がする」


 あはは。と四宮シノアにしては珍しく、しっかり笑っているようにみえた。


「そうよ。それが如月くんよ。やっぱり心臓の転移をしてからおかしくなったのかもしれないわね」


「そういうなよ。いい事のほうに結びついているんだろうから」

 俺は自分で自分をフォロー入れてみる。


「いい方に結びついているかどうかは私達では判断できないのよ。少なくとも多少ではあるかもしれないけど、気持ちの過去改変は起こしているわけだし」

 四宮シノアは、一気に真面目な顔になって、俺に牽制を入れてくる。


「つまりは、四宮としては俺が魔術を覚える事は反対と?」

 ここで核心に迫ってみる。


「ノーコメントとさせて」

 四宮シノアが迷っているという事の意思表示をしてくれたの助かった。

 完全否定となると今後の動きが難しくなるが、ノーコメントって言っている時点で賛成ではないものの、事の成り行きに多少身を任せたいと言ってるようにも聞こえる


 以前、魔術を覚えてくれたら私達も助かる。というような発言を俺が宣言した時はしていたような気がしたが、あの時点でのコメントはもしかしたら感情に絆されたのかもしれない。

 その後冷静になってみて、これは過去改変に大きくつながるのではないかと。思う節があったからこそ、その後の発言を控えるようになった。

 三条カノンと口裏合わせているとは思えないので、三条自体も同じ事を思い、同じような対応をしていると思うと、かなり合点が行く。


 結局、お前ら、当初揉めてたけど、以心伝心じゃん。


 っと心の中で突っ込んでおくのは、これから先も内緒にしておく事項である。


「そうか。じゃ、ここからは俺の独り言な」

「うん」

 四宮シノアが申し訳なさそうに、その「うん」という言葉に齎される意味を考えると、先ほどの仮説はさらに角度をます。


「俺は、誰に反対されようが魔術を覚えるつもりだ。

 タイムパラドックスの理論を考えるのであればそれをこの世界軸や時間軸でない人に教わるのはまずいと思うので、俺が自分で勝手に研究していく。

 あの、瞬間移動だかなんだかわからない”何か”は俺の中で確かな感覚をくれたのが確かだ。

 だからこれからも色々と研究していくよ。俺のやっている事が街っている方向に向かっていると四宮や三条が思った時だけは、そこはしっかり言ってもらえれば全然問題ない」


「如月くん。。。」

「な」っとドヤ顔で決めておく。

「そのドヤ顔をすごい気持ち悪いけど、考えはわかったわ」

「気持ち悪いって言うやな。一気に恥ずかしくなったやんけ」


 四宮シノアは、ふふふ。とだけ笑い、


「それじゃ、私はここで」

 気がついたら、俺の家まであと少しのところの交差点である。

 踵を返して四宮シノアは今まで向かっていた道を戻っていく。

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