32. 連携
教員室の近くの化学実験室。二階堂アヤノ先生、三条カノン、四宮シノア、俺と。四人だけ。
では、なかった。
薬品とか資料とか模型とか6席ほど座れる長机がある部屋と実際に授業とかに行われる6〜8人くらいで実験とかに使うにはちょうどいいデカさの机が6個ある部屋。
授業で使われる方の部屋には、小学生?中学生?少なくとも高校生には見えない小さい女の子がビーカーの中の青い液体に火を炙りながら実験している。
「お、今日もがんばがんばだな」
二階堂アヤノ先生は、その小さい女の子によくわからない声をかけて、奥の薬品とか資料とか模型とかがある部屋に俺達を招き入れるような仕草をして入っていく。
ちなみにその小さい女の子は、二階堂アヤノ先生の言葉に反応していなかった。
実験に集中しているのか応対するのが面倒臭いのか。
部屋に入り、扉を閉める。
「さてさて、如月、四宮、三条。お前達仲がいいのはわかるのが、遅刻常習犯はいかんぞ。三人でまた如何わしい事でもしていたのか?」
起こる素振りを見せる事なく、むしろ俺達をからかってくるような言い回しは、なんだか二階堂アヤノ先生のキャラがいかに先生としての領分を逸脱しているかがわかる。
むしろそれが言いたく呼び出したのか?真意が読めん。
「先生、やめてください。如何わしい事を仮に疑われても如月くんとだけは本当に勘弁してほしいです」
四宮シノアは抗議する。揶揄われたことでなく、如何わしい事していた対象が俺だからだよな。その抗議内容。
「先生、私も四宮さんと同じくちょっと嫌です」
三条カノンまでが否定してくる。
今までそんな事言わなかった三条カノンまでもが。己、四宮シノア。俺に対する毒扱いがどんどん広まってるじゃねーか。
「いやいやいや、わかんねーぞ。四宮、三条。二階堂先生が言ってるのは、お前達二人が如何わしい事をしているんじゃないか。って話かもしれん。いつでも俺を対象してできると思ったら、そうはいかんぞ」
「ま、まさかの百合展開。ムフフ」
二階堂アヤノ先生は、少し興奮した様子で三条カノンや四宮シノアを見る。
ムフフじゃないよ先生。あんた本当はタダの妄想変態教師なんじゃないか。
「如月くん、最低ね。自分がどれだけ相手にされないからって、その反論として私と三条さんを巻き込むなんて。ねえ、三条さ・・・」
四宮が、ものすごーく冷たい視線と冷たい言葉を俺に浴びせた後に三条に同意を求めると
・・・
「あ、うん、ちょっと如月、そういうのよくない」
四宮シノアが声をかけるその瞬間まで、顔を真っ赤にしていた三条カノンを瞬間風速で見てしまった。本人を除く三人。
「三条さん、想像したでしょ?」
「は、先生、何言ってるの?想像とかする訳ないし。やめてよ」
目をキョロキョロさせて、赤ら顔で右手を左右に動かして否定し、テンパってか、二階堂アヤノ先生にタメ口になる三条カノン。
「いーの、いーの。思春期って言うのは、想像と妄想の連続なの。思ってはいけないことなんてないのよ。如月カイみたいに口に出さなければ。口に出してしまうと場合によっては犯罪者になってしまうからね。気をつけなさいね」
「おいおい、先生、完全に会話の流れ的に俺が犯罪者になっているんだが」
「あらあら、失礼」
ケラケラ笑う二階堂アヤノ先生。何度も言うぞ。あんた教師失格だよ。
しかし、なんだか思春期って言葉を出されてしまうだけでなんでも許されてしまうような雰囲気になってしまうのは不思議な感覚である。
そして一種の疎外感を大人に対して感じる。
今までとは違う感情が高まることも多い。
感情の呼び出しにコントロール利かない事も多い。
ほとんどの人が、人の顔色を伺うようになり、本音と建前とやらが必要になってきて、思っていることをすべて吐き出すことはできなくなる。
その最終形態が大人というモノなのだろうか。
そして大人になるときっと本音の部分すら自分を偽って隠していく事になるのだろう
それが二階堂アヤノ先生が言う思春期は何を思ったっていい。って言葉の真意なのかもしれない。
ただ、本音と建前がしっかりできているのが大人よ。って言われている訳ではないが、言っているように聞こえる二階堂アヤノ先生の言葉をそのまま受け取りたくはない。
感覚的なものだが。
それは俺達がこれから向かい合っていかなくてはいけない、タイムパラドックスボックスを作り出して、かつ世界を混沌に陥れない。という課題を進めていく過程の中で大人になっていき、今よりももっと根が深い本音と建前が増え、いつしか本音を覆い被してしまうような、色々なことを諦めなくていけないような間柄になるのであれば、それはきっとハッピーエンドにはならないと思うから。
「まー、如月くんの犯罪者属性の話は言いとして」
二階堂アヤノ先生は、俺が何かを思いふけっている姿に反応したのか、俺のディスり話の締めくくりを始めて、本題に入ろうとする。
「俺の犯罪者属性の話というのが、そもそもおかしいが」
一応、突っ込んでおく。
二階堂アヤノ先生は、フッとだけ口をにやっとさせ笑いながら
「仲の良い三人には、とりあえず罰として、この部活に入ってもらおうかと思います」
「え?!」
俺、三条カノン、四宮シノア、三人が同じ言葉と共に驚きを示す。
「罰で部活ってどういうことですか?」
四宮シノアが食いつく。さすがだぜ、四宮シノア。
普段を俺をターゲットにした物言いの時ほど精神的に辛いものはないが、利害が一致した時の四宮シノアほど頼りになる者はない。
ここは黙って四宮シノアと二階堂アヤノ先生の口撃合いを見届ける事にしよう。
一応、三条カノンにもアイコンタクトを送っておく。
わかったぜ。と言わんばかりに、うん。と頷く三条カノンではあったが、ちゃんと伝わっているかが心配である。
「私達はそんな事やってる時間なんてないんで無理ですよ」
三条カノンが参戦する。やっぱり伝わってなかったか。しかも突っ込みどころ満載のコメントに対して、ドヤ顔で俺の方を向いてくる。そうじゃねーよ。
多分伝わないと思うが首を横にフルフル振っておく。
「ん?君達、なんかやりたい事でもあるの?」
当たり前だが、突っ込みどころ満載のコメントに対する二階堂アヤノ先生からの質問がやってくる。
「いや、俺は別にいいすよ。やることないし」
“やりたいことの内容”を探られる事のほうがよろしくないと判断した俺は、あえて三条カノンや四宮シノアとは違うコメントをすることにした。
三条カノンは、へ?っという顔をしている。アホの子だからしょうがないスルーしよう。
四宮シノアは。っと、四宮シノアさんも残念ながら、は?あなた馬鹿?って顔を俺に向けている。俺達、連携取れないなー。これから上手くやっていけるのだろうか。。。。。
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