33. 着眼点

「まー、まー、色々な意見をありがとう。罰と言ったのは言い方に問題があるかもしれないね。ごめんごめん。

 四宮さんも三条さんも覚えいてるかどうか知らないけど、うちの学校はそもそもどこかの部活に入る事は推奨しているのよ。

 もちろん強制ではないけどね。うちは小中高大とつながっている学校であるものあって、人が固まりやすい。

 そのため四宮さんや三条さんみたいに途中で転校してくる人はどうも居場所を見つけづらいみたいね。

 一人、例外が此処にはいるけれど」


「俺の事ですね。はい、例外ですよ。でも言わせてくれ。俺だって高校から」


「さらにだ、どこの部活に入る事もない、見ている限りどこのコミュニティに属する事もない三人が連続して遅刻してきているわけだ。

 そして三人は一緒にいると。これは非常に学校側としてはよろしくない事態として受けとめている訳なのさ」


 そして、見事なまでに、俺の、俺だって高校から入っているんだぜ。って言葉は見事かき消される。

 そこまで明らかに会話かき消されると泣いちゃうぜ。

 ちなみに中、高、大と全体の1割くらいは外から入学してくる。

 その1割くらいは最初こそ外民族のコミュニティとして形成されるが、どこかの部活なりコミュニティに属することで、圧倒的マジョリティを占めるエスカレーター生徒達のコミュニティに属する事になる。

 ごくたまに、圧倒的マジョリティに支配されないコミュニティを形成するメンバーもいるらしい。

 そしてその中でもさらに不遇なぼっちさんが登場する訳である。


 何を隠そう、俺だ。


「そこでだ。如月カイ、三条カノンさん、四宮シノアさん、あなた達の担任であり、生徒を愛している私は真剣に考えました。

 学校から目をつけられ、もしかしたら他の生徒から影から嫌がらせを受けたりとかして、せっかくの青春時代を不毛なものにしてほしくない私は、あなた達に新しい居場所を作ろうと。

 そして今後、あなた達と同じような生徒が現れた時には、その子達の居場所となる場所にしてほしいと」

 二階堂アヤノ先生は、教師としての愛のある考えを理路整然と語る。

 言葉だけで捉えると感じてしまうが、そのまま受け止めるには、信用に足らないのが、この人の醸し出す個性である。


「それが、この化学実験室を活動拠点とする部活動ですか?二階堂先生。二階堂先生ってなんの部活の顧問でしたっけ?」

 四宮シノアがするどいツッコミを入れる。ナイスだ四宮シノア。


「え?!、じ、実験部。。。」

「実験部って、この化学実験室を活動拠点とする部活動ですよね?」

「え、あ、ま、そうね〜」

 目をあっちの方向に向ける二階堂アヤノ先生。


「部員は何名ですか?」

「部員はねー、あなた達を含めると4名の予定」

「たしか、部の存続最低人数って3名ですよね?」


「さすがね、四宮さん。四宮さんの思っている通りよ。

 あなた達をこの部に入れる事で、この部の閉部は免れ、私が他の忙しい部に回されるリスクは無くなるわ」

 うわ〜、言い切っちゃったよ、二階堂アヤノ先生。

 そこまで開き直って言える先生を俺はリスペクトします。

 さっき大人がどうのこうの言ってましたが、先生は大人じゃなかったですな。


「では、お断りさせていただきます」

 四宮シノアは、もうこれ以上やりとりする事はないわよ。行きましょう。と言わんばかりに俺や三条カノンを見て、顎を扉の方向に動かし歩き始める。


「いや、待って、四宮、私ちょっと思ったんだけど、やっぱり部活入ってもいいかなって思っちゃった」

 突然の三条カノンの発言に、俺も四宮シノアも目が点となる。

 四宮シノアがここまでがんばってくれたのに。俺達やっぱり連携とれないな。。。


「お〜、本当か〜、三条〜。先生はうれしいよ〜」

 三条カノンに抱きつく二階堂アヤノ先生。


「ちょ、先生、くっつかないでください」

 三条カノンが本気で嫌がって離れる。

 なんか三条がヒナリにくっついたりしたら同じ事もしくは同じ行動を取られて離れれて嫌がられそうな気がするな。

 ヒナリにとっての三条カノンが、三条カノンにとっての二階堂アヤノ先生なのか。


「そんなに嫌がらないでよ。先生傷つくじゃない」

 プンプンとする二階堂アヤノ先生。関わり合えば合うほど、子供になっていくような気がする。

 こんな精神年齢低い先生は勘弁であるが。


「三条さん、私は賛同できないので、どうしても入りたいなら、三条さんと如月くんだけで入ってね」


「四宮、待って。ちゃんと後で話そうよ」

 言い捨てる四宮シノアにしっかり目をみて言い張る三条カノン。

 どうやら、考えがあるようだ。なんだか自然と俺も入る事になっているけど。

 四宮シノアにとって、俺と四宮シノアが行動を共にする事はあまり選択肢に入っていないのだろうか。

 俺の事、近くで見届けないとダメなんじゃないの?


「ま、まー、三条さんなりの何か考えがあるならいいけれど」

 四宮シノアは、三条カノンにまっすぐ見られ竦んでしまう。

 四宮シノアにもそういった一面があるんだな。

 俺がまっすぐみ見つめたところで同じ反応をしてくれる事はなさそうであるが。


「まーまーまー、よかったよかった。じゃ、とりあえず正式には明日からでいいので、三人でじっくり話をした上で手続きお願いね」


 そう言って、二階堂アヤノ先生は化学実験室の控え室なのか正式名称が分からないが、俺達がいた部屋から去っていった。


「まー、なんだか面倒臭いことになりそうだな」


「その面倒臭い事になぜか便乗している人がいるのが気になるところではあるけれど」

 四宮シノアが三条カノンをキリッと見る。

 睨むまではいかないが、やや眼光は鋭い。

 俺だったらきっと睨まれているいるんだろうな。

 そして、四宮シノア、怖いって。なぜ君はそんなに高圧的なんだ。


「まー、まー四宮、三条にも何か考えがあるようだからまずは聞こうぜ」

 なぜか仲裁役的な立場を買って出る俺。


「四宮、そんなに悪い話じゃないよ。だってどのみち活動拠点は必要でしょ?

 結界魔術があるとは言え、体力の消費を考えると気軽に乱発するのもなんじゃない?

 あの狭い如月の部屋とかで何かやるのも限界があるし、ここであれば実験室言ってるくらいなので多少の何かがあってもカバーが効きそうというか。

 仮に破天荒なことしても、二階堂先生のほうで揉消してくれそうじゃん。

 学校側に目をつけられている私、四宮、如月の行動も形式上とはいえ、顧問の二階堂先生の目の届く範囲内に入る事で、一旦お咎めなしでしょ。そう考えたらありかな。って思って」

 アホな子の一面を持ちつつ、ややかまってちゃんの傾向がありつつも、そしてその冷静な分析力。

 人を側面だけで判断してはダメだと改めて思わされる三条カノンの発言。


「たしかに、三条さん。よく考えているわね。

 私は、ついつい人にうまく使われてしまうのではないかと思う疑いのほうが先行しちゃって、拒否反応のほうが先に出てしまったわ。ごめんなさい」

 四宮シノアは、瞬間的に三条カノンが言っている事を検討する素振りをしたものの、すぐに賛同するコメントを出す。

 やっぱり四宮シノアってやや思い込み激しいよな。

 すぐ改められるところは褒めるべき点だが。俺が同じ事言ったら同じ対応しないのもなんとなく想像できるか。

 そしてやはり協調性と社交性に乏しいぼっちさん傾向に強い四宮シノアらしく、人にいいように使われてしまうかもしれないという疑心スキルが非常に高いように思える。

 自分を守ろう守ろうとする思考がやがては、人に対する猜疑心を生むのかもしれない。

 えらそうに四宮シノアを語っているが、四宮シノアほど激しくはないものの、強調性と社交性に乏しいぼっちさん傾向は俺にもある。

 人の振り見て我が振り直せの言葉を自分の中でしっかり噛みしめておこう。

 ただ残念ながら、人にいいように使われてしまうかもしれないという考え方は俺にはない。

 なぜなら俺をいいように使ってやろうなどと思う奴は今まで全くいなかったからである。

 いいように使われてしまう人が何かいいように使ってしまいたいだけの魅力が必要なのでな。俺にはそれはない。ファーッハハハ!!


 っと、突き詰めると悲しい気持ちになる事が多いので、ここらでやめておこう。


 そして、冷静に三条カノンの提案を俺なりにも消化してみると、ひとつ、点と点が結びつくところがある。


 それは

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