第3章 蛇の道は蛇こそ溺れる灯台下暗し
31. クラスでの立ち位置と新たな
俺達は、2時限目が終わるまで三人で教室の側のトイレにもちろん一緒ではなく別々に隠れて、キーンコーンカーンコーンというチャイムの1分後に教室に戻る。
チャイム鳴った瞬間に教室に戻って先生に見つかったら意味がない。
三人が順次教室に入ってくる姿をクラスの人達には、もちろん確認される。
え?!、三条さんと、四宮さんと、あと、あれ、あの人だれだっけ、木月くんだっけ?なんで三人が?
そんなボソボソ話さえ聞こえてくる。三人は仲良いの疑惑の前に、俺の名前覚えろよ。お前ら。。。
モブ達は、我慢しきれなくなったのか、想定通り、三条カノンの席の近くに群がる。
「あ、三条さん、おはよー。連続遅刻とか不良だね〜」
ワチャワチャワチャワチャとやりとりした後に、
「ところで三条さん、四宮さんと仲良いの?」
「うん、いいよ」
屈託の無い笑顔で答える三条カノン。外面のよさ万歳。
「へ、へーそうなんだ。私達も四宮さんと仲良くなろうとした時期もあったんだけど、なんかその、ちょっと取っ付きにくいというか。三条さんは平気なの?」
ボソボソと三条カノンに話掛けるモブ達。
俺は席は三条カノンの席に近いのでボソボソ話は全然聞こえる。聞かれてるのバレたら、絶対キモがられるだろうなー。
意としていない事に巻き込まれた時にキモがられる。
これ、一番被害状況としては最悪。
スカートの中見られちゃった事件がまさにその典型。
見た側は不可抗力であっても、残念ながら見られた側の心象一つで見てしまった奴は、変態扱いされる。
よって、今、ボソボソを聞き耳立てている、
いや実際には立てているわけではないが、聞こえているのがバレてしまうと変態ランクに格上げになってしまうので(変態扱いは、三条カノンと四宮シノアだけで十分お腹いっぱいである)、変に席を立ち上がることもなければ、もちろん聞いているのが悟られる表情もしてはいけない。
よって、俺は、する必要のないノートの中身をチェックし、予習するフリをする事になる。
「そーだねー。四宮さんはちょっと変わった人なので、そのうち何かキッカケがあれば仲良くなると思うよ。いきなり仲良くなろうよ。って感じでやりとりしていくのが苦手なんだと思う」
さすがは三条カノン。人を見る目はものすごい長けているな。
四宮に聞こえていないことを願いたい。意識高い系ぼっちはプライドがエベレストのように高いからな。
「そーかー。そしたら三条さんに少し場面作りお願いしていいかな?やっぱり同じクラスだし、せっかくなら仲良くなりたいし」
「うん。わかった」
そうやって、四宮に対する三条カノンへの事情聴取は終わった。
そして、何の迷いもなく、俺の事は話題にならなかった。
やっぱり同じクラスだし、せっかくなら仲良くなりたいんじゃないのかよ。
そもそも同じクラスだから仲良くなりたい理論なんてものは、最終的な友達には発展しないからな。
さっきの同じ日本人理論で。っと俺は苦し紛れに心の中で反論してみる。悲しい限りだ。
「はい。そこ、三人。3時限目から現れるとはいい度胸だな。放課後、教員室にきなさい」
教室の扉からヒョロっと顔を出す二階堂アヤノ先生。
GPSで管理されているのではないかと思うくらい、タイミングよく現れる。恐ろしい。
「はーい」
「はい」
「おー」
三条カノン、四宮シノア、俺としっかり全員、二階堂アヤノ先生をみて返事する。
画して、三人で仲良く登校しましょう。と決め、我々は仲がいいんだぞアピールを全体にする事に成功した訳ではあるが、一点問題があるとすれば、実際はそこまで仲良くないという事である。
つまりは他愛のない戯れをする行為を、俺達は自ら進んで誰もする事はなく、授業授業の合間の休み時間はおろか、昼休み、放課後に至るまで、三人が集う事はもちろん、個別で話掛ける事もほぼなく過ごした。
え?!、この人達仲良いんじゃないの?というクラスの人達の心の声が聞こえてくるようだ。
コミュニティの中で正常に生息するのってこんなにも難しいんだな。
もちろん三条カノンがボソボソ話をしていたモブ女子達に対して、四宮シノアを仲良くなる機会は私が作るから安心して。という言葉は空振りに終わりそうな気配を皆、感じていることだろう。本人を除いては。
三条カノンよ。なぜできもしない約束をしかも自信満々に言ったのだ??
そして、放課後。
「い、いきましょうか」
四宮シノアから三条カノンを誘う姿がそこにあった。
仲良くしましょうね条例は施行中らしい。
四宮シノアは、リアルに友達が今までいなかったタイプに見える。
三条カノンのようなその場限りの仲の良さらしき行動も今までの行動を見ている限りで思うにできる訳もなく、教室に入ってから放課後に至るまで、もしかしたら何度も声をかけるタイミングを見計らっていたのかもしれない。
「うん、行こう」
三条カノンは、四宮シノアが勇気を出して声をかけているのであろう事を気づいているのか気づいていないのか、本当に仲のいい友達同士が、一緒にどこかに行こう。ってやり取りを普通に返しているだけに見える。
その自然さはすごく大事だな。ぼっちが勇気出してコミュニティに溶けこうとしているその瞬間を、俺はなぜか暖かい気持ちで眺める事ができた。
よかったな。四宮。
そして、二人は俺に声をかける事なく教室の扉に向かう。
「おいおいおいおい。俺には声かけないの?」
「あら、ごめんなさい。目的地は一緒だから声はかけなくても大丈夫かと思って」
「それは、三条も一緒だろ」
あはは。と笑う三条カノンに、少しだけ口元が緩んでいるように見える四宮シノア。
全然よくないぞ。四宮。
そうは、いいつつも立ち止まって俺を待っているようにも見える二人を見て、俺もきっと少しだけ口元を緩んでいたのかもしれないと思いつつ二人の元に向かい、三人で教員室に向かう。俺だけは少し距離が空きながら。
「失礼します。二階堂先生いますか?」
教員室というものは、独特の雰囲気が流れていると思う。
クラスの教室とはまた違う。
先生同士がにこやかに話をしていても生徒同士の距離感は感じないし、タダだからなのかホットコーヒーか紅茶かお茶をマイカップで飲んでいる先生が多いように思える。
忙しそうにデスクで書き書きしている先生もいれば、パソコンをパチャパチャ叩いている先生もいて、俺達がまだ経験していない世界がそこにあって、なんだか不思議な気分になる。
「お、きたか」
二階堂アヤノ先生は席を立ち上がり、俺達のほうに向かってくる。
「場所変えようか」
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